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この特集では田中工業「黒須田守」をはじめとした5名のライターから競艇にまつわるさまざまなレポートをお届けします。
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97期卒業記念のピットから

DSC01306 「さあ行けよぉぉぉっ!」「事故するなよぉぉぉっ!」
 咆哮が飛び交うピット。中学や高校の運動部の試合を思わせるような掛け声が、水面に向かって投げかけられる。その声に弾かれるように、6艇が飛び出していく。卒業記念レース、当たり前のことだが、我々がこれまで取材してきたSGレースとは、おそらくはその他のレースとも、ピットの雰囲気はまるで違っていた。簡単にいえば、これから戦うべき相手は敵ではない。厳しい訓練をともに耐え、プロのレーサーへの道標をともに刻む同志たち。卒業生20名の心には、何よりもお互いへの激励しかなかったのではないだろうか。

DSC01316   言うまでもなく、卒業記念レースといえども、訓練課程のひとコマである。言ってみれば、プロとしての振る舞いを叩き込むための課業だ。レースを終えて引き上げられたボートを片付けている間も、教官の「もっとテキパキと動け!」という叱咤が飛んでいる。ピット内にあるVTR室のモニターに映し出されるレースを訓練生が覗き込んでいると、そこにも教官の叱咤は浴びせられる。名残惜しそうに1マークの攻防だけ見届けて、作業に戻る訓練生たち。実際にプロとしてレースに参加すれば、ボート片付けは必須の作業である。ましてや、デビューしたばかりの新人がそれに参加しないなんてことは、許されるはずがない。教官の怒声は、何よりも彼らがプロとして恥ずかしくない働きをするためのもの。もちろん訓練生たちも、狭いピットを走り回っては、ボート洗浄やモーター格納に汗を流している。最後まで訓練。最後まで教官と訓練生。その姿は清々しいといえた。

DSC01315  とはいえ、これが最後の課業にして、97期やまとチャンプを決めるための戦いでもある。準優勝戦に進出した12名は、渾身の走りを見せるべく、緊張感を漂わせる。
 準優勝戦A、リーグ戦勝率2位の堀本泰二(山口)が飛んだ。前日の共同インタビューでは、「デビュー節で優勝をしたい」と宣言した男だ。さらに、B1斡旋が決まっている池永太(宮崎)も飛んだ。この二人は、納富英昭教官や他の訓練生に有力視されていたようで、ピットはどよめきに包まれた。2コース堀本、3コース池永、4コース盛本真輔(兵庫)がマクリに行ってそれぞれが飛ばし合った展開、そこを突いて差し抜けたのが、5号艇の庄司孝輔(静岡)だ。VTR室でそれを確認した訓練生たちが「庄司や!」と声をあげる。庄司はリーグ戦勝率4・80(堀本が7・15)だから、番狂わせだったのだろう。納富教官は思わず、「マンシュウやな」と笑った。
DSC01342   準優勝戦B、インから逃げたリーグ戦勝率1位(7・72)の田中和也(大阪)、2コースから続いたリーグ戦勝率4位(7・09)の西山貴浩(福岡)が、順当に1マークを回った。ところが、3着争いが見ものだった。いったん、女子で唯一の準優進出を果たした原田佑実(愛知)が3番手に上がったのだ。「おおっ、原田っ!」他の訓練生たちが沸き返った。VTR室のモニターを見ていた者も、水面のほうに飛び出して声援を送る。優出なるか!?(3着まで優出)……しかし、最後はリーグ戦勝率5位と成績上位の山口達也(岡山)が逆転し、1-2-3のカタい決着。山口を応援していなかったわけではないが、ピットに溜め息が満ちた。
DSC01336  それぞれの4~6着、つまり優出を逃した6選手は、以外にもサバサバしていた。堀本も軽く苦笑いを見せただけで、すぐにボート片付けの作業に走った。これがゴールではない。むしろ、この卒業記念はプロへのスタート地点にすぎないのだ。敗れたのは悔しいに違いないけれども、屈辱ではない。この借りは、競艇場で返せばいいのだ。その明確な意識が彼らにあったとは思わないけれども、自然とそんな空気が立ち上っているような気がした。

DSC01352  優勝戦も、そこがゴールのようには見えなかった。優勝した田中和也は、さすがに嬉しそうだったが、かといって狂喜しているようにはとても思えないたたずまいだ。敗れた選手たちも、愕然とした様子など少しもなく、淡々とピットに戻ってきた。その頃には、残りの14名の姿は、すでにピットにはなかった。レース後、すぐに講堂で表彰式が行なわれるため、そちらに向かっていたのだ。ピットから講堂までは、ゆうに5~600mはあるだろうか。優勝戦に出場した6名も、大急ぎでカポックを脱いで、表彰式に向かう。優勝戦後の華やいだ雰囲気は、少しもなかったのだった。
DSC01357  優出選手が少しでも早く講堂に辿り着くように、ピットにはワゴン車が乗り付けられていた。カポックを脱いだ者から、車に飛び乗る。6名全員が乗り込んで、急発進するワゴン車。そのときである。ワゴン車の中からは、大きな歓声がとどろいた。優勝した田中を祝福する声と、無事に優勝戦を戦い抜いたことへの歓喜の声。そのときだけ、レース後のハッピーな時間がやまとの空に発散された。課業である卒業記念レースが、一瞬だけ大レースの装いをまとった。

DSC01329  この卒業記念レースで、97期生たちが掲げた誓いは「完全無事故」だった。スタート事故はもちろん、転覆や落水なども起こさない。全レースで全艇がきっちり完走する。9回戦ったリーグ戦では、ついに達成できなかった目標でもあった。
 一般戦及び準優の全4個レース、6艇がスリットを超えた瞬間、訓練生たちはVTR室のスリット映像に釘付けとなった。フライング艇が出ていないことを確認すると、ピットで作業をしている仲間にそれが告げられ、そして歓声が起こる。「事故するなよぉぉぉ」は、金科玉条だったのだ。そして、優勝戦にいたるまで、フライングも出遅れも、転覆も落水も沈没も、不良航法も待機行動違反も、ゼロを貫いた。彼らがもっとも喜びを爆発したのは、完全無事故が確定した瞬間だった。彼らの“課業”は、最後の最後に完璧に遂行されたのである。
 攻めのレースを、無事故で成し遂げる。彼らにはそんなレーサーになってもらいたい。

DSC01319  おまけ。深川真二が、ピットに顔を出した。卒業記念を観戦に来たようなのだ。そういえば、納富教官は佐賀の大先輩。深川はさっそく納富教官に挨拶、にこやかに談笑してました。訓練生たちはといえば、「深川選手だっ」と小声でささやき合い、興奮した様子。やっぱりプロの、しかもSG級の先輩と間近で接したら、ドキドキしてしまいますよね。私も、こっそりドキドキしてしまったのでした。(黒須田守)


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コメント

現在やまと競艇学校にいる105期養成員の豪洋と言う奴は、未来の植木二世になる奴だ注目すべしセンス抜群意地と根性そして思いやる恕の精神をもった男だ早くから注目したほうがいいぞ

投稿者: 矢沢栄治 (2008/11/21 23:42:12)
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