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この特集では田中工業「黒須田守」をはじめとした5名のライターから競艇にまつわるさまざまなレポートをお届けします。
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あと2時間!――優勝戦、午後6時のピット

SANY0589 空はそれほど暗くないのに、雨がしとしとと降り続いてきた若松競艇場。午後6時20分、夕日が顔を出して、水面と、向こうに見える工場群を赤く染めている。ナイター照明と夕日のコラボレーション、なかなか幻想的な風景である。

7R前にピットを訪れると、今日のレースを終えて管理解除となった折下寛法がタクシーに乗り込むところだった。こうして帰途に着く選手も徐々に増えてきて、ピットは時間を追うごとに静けさに支配されていく。あれだけ賑わっていたペラ室も、ほとんど人影がなくなった。レースを残している選手の姿がちらほらと見えるが、頻繁に出入りするのはやはり優勝戦出場選手。妙に広く感じるペラ室で、優勝戦を見据えてペラを調整する。

SANY0628 西島義則の自然体は、さすがだと思った。今日が予選の何日目かと言われても、西島だけを見ていたら疑うことなどないだろう。それくらい、西島は普段通りに過ごしている。7Rを戦った海野ゆかりのボートを一人で引っ張って装艇場に運んだりもしていて、このあとに大一番を控えているようにはとても思えない。すべてのレースを終えた海野のモーターを洗浄する際、西島、辻栄蔵、市川哲也の広島勢が顔を揃えた。辻はそろそろ緊張感にも包まれ始めている気配があるが、西島は市川と雑談に興じ、時に笑顔まで見せている。修羅場を何度もくぐってきた男の迫力。大きな失敗を乗り越えて、この場所に戻ってきたことへの誇り。西島の静かな表情には、静かだからこそむしろ、そういったものを感じるのだ。

SANY0584 今垣光太郎は、6選手のなかではいち早くボートを水面に降ろした。そして、試運転用ピットのいちばん端に係留させた。すでに2、3艇しか係留されていない試運転用ピットだというのに、今垣はポツンと端っこに持っていったのだ。その場所は、やや死角にもなっていて、装艇場などからは気づきにくい場所だ。なぜ今垣は、わざわざそんなところに係留させているのか……。実は、昨日も今垣は同じ場所にボートをつけた。モーターをいじらないと決意し、それでも悩みぬいたという昨日。今垣は、己の心と戦うために、もっともボートを引き上げにくい場所に行ったのではなかったか。整備の鬼たる今垣は確かに魅力的だ。その姿勢は尊敬すらする。だが、もしかしたらそれは、「モーターをいじらずにはおれない不安」からの行動だったのかもしれない。そして、今垣自身、それを自覚したのかもしれない。だからこそ、今回はあえて整備の鬼である自分を封印した。今垣は、自身の甘さ、弱さを最大の敵と考えて、内なる勝負に徹しているのだ。ピットに上がってきた姿を見れば、気負いのようなものはいっさい感じないが、その内面では激しいバトルが繰り広げられているのだと思う。

SANY0635 田村隆信は、今垣の次にボートを水面に降ろした。表情は前半と変わらない。納得のいく仕上げができた、そう見えた。あとはレースだけだ。
菊地孝平は、ペラ室にこもっている。表情は……やはりやや堅さを感じずにはいられない。ただ、やや落ち着いてきているように見えるのは気のせいか。もしその通りだとしたら、なかなかの大物である。

SANY0611 最後に気になる山崎智也。基本的に、笑顔が見られなくなってきている。グッと気合がこもってきたようだ。レース後のボート引き上げには出てきているが、レースとレースの間は姿が見えない……と思っていたら、ペラ室で必死の調整をしていた。しかも、外からは死角になっている場所だ。入り口からは見えず、水面に面した窓からは思い切り近づかないと見えない場所。すべてをシャットアウトして、孤独な作業に身を置いている、そんな感じがした。いい雰囲気だ。(黒須田守)


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