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この特集では田中工業「黒須田守」をはじめとした5名のライターから競艇にまつわるさまざまなレポートをお届けします。
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美しき優勝戦――菊地孝平、おめでとう!

SANY0639  優勝戦直前。しかも、ほんの10分ほど前のことだ。出場選手控室に入った菊地孝平を見て、僕はこんなメモを残している。
「いい表情に見える。集中し切れていない可能性もあるが、前半とは明らかに違う表情。ちょっと怖いかも」
 展示を終え、いったん自分の控室に消えた後、頭に黄色いタオルを乗っけて出場選手控室に入った菊地。歩様は力強く、またやや早足。完全に気合が乗っている。それでいながら、表情は実に涼やかで、気持ちが澄み切っているように見える。
 前半は、ハッキリ言って、堅さが見えた。明らかに緊張していたと思う。夕方に見たときもまだ、準優のときとは様子が違っていた。それが、優勝戦の直前に一変していた。それもまた、準優のときと違う雰囲気ではあった。だが、優勝戦直前のそれは、どう見ても好ましい変化に思えた。
 後付けではない。僕にはたしかに、菊地孝平が一回り大きく見えたのだ。

SANY0671  他の5選手も、レース前の表情は実に鋭かった。山崎智也も、キリリとした表情で展示から戻ってきた。女性職員が手にしていたスタート展示のスリット写真を見て、ニコッと笑った顔つきは、どこまでも透明だった。田村隆信も、腹の底からグググッと気合を高めて、それでいて平常心を忘れていないようだった。辻栄蔵は、どこまでも真っ直ぐな目で淡々と歩を進める。今垣光太郎は実に強い瞳で、すでに優勝を見据えているかのようだった。もっとも痺れたのは、西島義則。出場選手控室に入ろうとするとき、たまたま僕の至近距離を通ったのだが、思わず後ずさりしてしまうほどの迫力が押し迫ってきた。つい、ぺこりと会釈してしまった僕に、西島は目だけでうなずいて、力強い表情を見せたのだった。ハッキリ言って、菊地も含め、誰が勝ってもおかしくないと思った。というよりも、6人全員が勝利を掴めるだけの闘志を胸に秘め、最高の状態を作り上げていたのだ。

SANY0702 全員が出場選手控室に入り、ピットは一気に静まり返る。誰もが声もあげられない。JLCや地上波番組のレポーターさんたちは、カメラに向かってしゃべっているが、ピット内に響いているのは彼女たちの声だけだった。と、そのとき、控室の中から笑い声が聞こえた。ちらっと覗いてみると、テレビを見て笑っているようだった。特に大きな笑い声は2つ。これまで耳にしてきた声を思い出せば、おそらく智也と西島だと思うが、もちろん判然とはしない。ただ、優勝戦前に控室の中の空気が一瞬でも和らいだことには、ちょっと驚いた。そして、誰もがすでに戦いの準備を万全にした証なのだと思った。やはり、誰が勝ってもおかしくなかったのだ。
乗艇の合図がかかって、成立。6人が力強く敬礼する。その瞬間、ピットの神々しさがピークになった。先ほどの笑い声は、ちょっとしたアクセント。神聖な空気のなか、6人は出走ピットに向かった。

SANY0706 試運転用ピットのいちばん端、今垣光太郎がボートをずっと係留していたあたりでは、笠原亮と秋山直之が水面を眺めていた。先輩の応援である。ともに準優にまで駒を進めながら、今日はここで応援する立場になってしまった二人。彼らはどんな思いでレースを観戦するのだろう……つい、二人の心情を想像してしまったのだった。そこに、佐々木康幸が現われて、二人の横にしゃがみ込む。静岡勢が二人になった。菊地孝平にとっては、最高の援軍か。秋山も、山崎智也の勝利を願っていたはず……もし、彼らも優勝戦に残っていて、今日、ここで戦う立場だったなら……余計な想像ではある。間違いなく、彼らは純粋に同県の仲間を応援していたのだ。しかし、勝負の世界は過酷だと思うしかなかった。

SANY0718 それが、本当に余計な想像だったと思い知らされたのは、菊地が内2艇を飲み込んで、先頭に立ったときだった。笠原が、ものすごい歓声をあげたのだ。「よーーーーしっ!」。これを追走し、脅かしていたのは、奇しくも山崎智也だった。隣で秋山も固唾を飲む。差はなかなか詰まらないし、開きもしない。菊地は渾身の走りで先頭を走り、智也も渾身の走りで菊地を追う。ターンマークを周り、差をきっちりと保つたびに、笠原は叫んだ。2周2マークを周り、このまま何事もなければ菊地の勝利は動かないと思われたとき、笠原は「うわぁぁぁぁっ、痺れる……うわぁ、痺れるぅ……」と自分の体を抱きすくめた。先輩・菊地のSG制覇に、もっとも感動していたのは笠原に違いなかった。先にSGを獲り、突如SG戦線の常連となって、勝負の鬼たちの中に混じって必死で戦ってきた。きっと、支えになっていたのは菊地をはじめとする先輩たちだったのだろう。笠原の喜び方は尋常ではなかった。総理大臣杯はまだ本コーナーの取材を始める前だったから見てはいないが、きっと自分のSG制覇の時よりも興奮しているに違いないと思えた。
SANY0735 笠原だけではない。東海勢の若手たちの歓喜は、とてつもなく大きいものだった。本場やテレビでご覧いただいた方なら、ウイニングランに入る前、菊地がいったんピットのほうで艇を止めたのに気づいたのではないだろうか。仲間たちは、試運転用のピットで水面の菊地に祝福の咆哮を浴びせ、菊地はそれに応えようと彼らに近づいていったのだ。菊地は、いったんピットに上がって握手をしようとしたが、さすがに職員さんに止められて、スタンドのほうに向かって走り出した。進行を遅らせるのは本来は感心できることではないのかもしれないが、少しくらい菊地と仲間たちに喜びを分かち合う時間を与えてもいいのではないかとまで思ってしまった。それくらい、彼らは爆発的に喜んでいたのだ。

SANY0726 菊地がウイニングランに向かったから、真っ先に帰ってきたのは山崎智也である。智也の開口一番は「ラッキーーーッ!」だった。なぜか、「やった、やった!」とすごい歓びようだった。駆けつけた秋山は、笑うしかない。正直言って、今でもなぜあれほど歓んでいたのか、ちょっとわからない。これで賞金王戦線はグッと楽になったので、そのことが「ラッキー」ということなのか。優勝を逃した悔しさを紛らすため……それとも、優勝できなかったのなら2着は上出来……わからない。地上波テレビのインタビューを受けている菊地に、中継中にもかかわらず、「菊地くん、おめでとう!」と声をかけた智也。どこまでが本音なのか、どうしてもわからない……。
SANY0748 いちばん悔しそうな表情を見せたのは、今垣光太郎だった。1号艇、スタート展示では奪われたインを死守、意地は見せたはずだ。しかし、スタートを行けなかった。そして、菊地にまくられた。そのことの悔恨が強く残ったのだろう。今垣の視線は終始、下を向いていた。石田政吾の手を借りて、モーターを返納する際、残っていた植木通彦が「今垣、お疲れ様」と声をかけた。今垣は、一瞬、キョトンとした。微妙な間が開いた。次の瞬間に植木を認めると、「お疲れ様でした」と頭を下げた。放心状態、ということだったのか。今垣がどれだけ優勝戦に懸けていたのか、それを表わしているような気がした。

SANY0732 ウイニングランを終えて、菊地がピットに戻ってくる。真っ先に出迎えたのは笠原だ。次々と東海勢が駆けつけて、菊地は「やったーー」と言ってから、ふざけた表情を作っておどけてみせた。感動の照れ隠し、と見るのは考えすぎだろうか。ボートがピットに上がり、まずは笠原が菊地に抱きついた。ガッシリと抱き合う二人。そこに佐々木康幸も抱きついて、3人が熱い抱擁を交わす。美しいシーンだった。テレビのインタビュー、表彰式などに向かう菊地の代わりに、笠原がモーター洗浄に立ち会っている。笠原の顔は上気し、「すっごく嬉しいです」と周囲の人にも喜びを投げかけている。ピットでのインタビューで最高に素敵な笑顔を見せた菊地は、そんな笠原に声をかけてから、表彰式の会場へと走った。やはり最高に素敵な笑顔だった。

SANY0740 菊地孝平、SG初制覇おめでとうございます。「初体験となるSG優勝戦への精神的戦いを必死で乗り越えようとしているかのように見えるのである。 勝っても負けても、この経験が菊地をさらに大きくさせるのは間違いない」。前半のピットで、そう書いた。菊地は、勝利でこの修羅場を乗り越えたのだ。これからの菊地が本当に楽しみだ。特に、このままの調子を維持して、何としても賞金王決定戦に駒を進めてもらいたい。もちろん、笠原亮とともに、だ。賞金王での二人の戦いが見たい。あまりにも美しい先輩と後輩の姿を、最高峰の舞台で見たいのだ。(黒須田守)

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12R優勝戦 1.今垣光太郎 2.菊地孝平 3.山崎智也 4.辻栄蔵 5.西島義則 6.田村隆信 ▲152/346 ★レース結果★ ペリさんが展示ではインに入って大いに盛り上がる。 「やっぱ、西島じゃ 続きを読む
受信: 2005/09/05 10:44:52
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