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この特集では田中工業「黒須田守」をはじめとした5名のライターから競艇にまつわるさまざまなレポートをお届けします。
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素晴らしき準優劇場――5日目、後半……準優勝戦のピット

SANY0501 準優劇場――。
5日目10~12R、準優勝戦のピットは、輝きを放つ役者たちが演じるドラマのようである。優勝戦というクライマックスに向かって、最大のヤマ場となるのが準優勝戦。真剣勝負を演じる選手たちの振る舞いは、それだけですでに“大見得”なのだ。18人のスターたちが織り成した準優ドラマ。ここでは、時間を追って、その模様を記していきたい。

SANY0384 日が暮れかかって、準優出場選手たちは、続々とボートを水面に出す。試運転をする者あり、ピットに係留して調子を確かめるものあり。最後まで陸の上で調整をしていたのは、12R2号艇の田村隆信だった。ペラ室にこもって、懸命の調整。表情は落ち着いている。
その前、10Rの展示が終わった頃に着水させたのは太田和美である。展示から上がってきた西島義則が声をかける。
「回ってないやろ」「いえ、そうでもないです」「さすがやのう(笑)」
湿度が高くなったせいなのか、回転が上がらなくなったとこぼす選手は少なくなかった。SANY0359 特に、植木通彦は何人もの選手に確認していた。このとき、すでに植木の超抜だったモーターには異変が起こっていたのだろうか。そうでなくとも、何度も何度も繰り返し口に出していた植木が、ちょっと気になった。

10Rは、何と言っても「気になる男」山崎智也に尽きる。レース前、グッと引き締まった表情を見せていた智也は、腹の底に気合を溜め込んでいるようでもあった。グラチャンの優勝戦前にも見られた、大一番を前にしての強い視線。笑顔を封印して、完全にファイターとしての山崎智也に変身していたのだ。
4カドから一気のマクリ。ファイター智也らしいレースだと思った。インの西島までをも一気に飲み込んで、バックで先頭に踊り出る。会心のレースであるのは間違いなかった。
SANY0418 ピットに帰ってきた智也は、封印していた笑顔を爆発させていた。ボートリフトで隣の枠に入った原田幸哉とハイタッチをして、「ヤッタァァァァァァ」と甲高い声をあげる。目はくにゃっと曲がり、口元がこれ以上ないほどほころんでいる。ボートがピットまで上がってくると、両手をグイッと掲げてガッツポーズ。ボートから降りても、「ヤッタァァァァァ」の声は止まなかった。こんな言葉はないけど、あえて言おう。チョー笑顔。超、よりも、チョー、のほうがふさわしいくらいに、はしゃぎまくる智也。ボートを引き上げに来た関東勢も、皆が皆、大笑顔だ。
SANY0446 僕は、智也と心中すると言った。昼間のうちに前売りで買った舟券は、見事に外れた。4-1-……6は買っていなかった。若松から帰れるのだろうか、そんな心配まで生じるくらいの大負けである。だが、そんなことはまったくどうでもいいことだった。智也のチョー笑顔は、周囲の誰をも幸せな気分にする。気づけば、僕もチョー笑顔になっていた。智也が嬉しい。僕も嬉しい。選手仲間も嬉しい。みーんな嬉しい。智也は、その体にハッピーをパンパンに詰め込んでいる。勝利は、ハッピーのおすそ分けだ。
SANY0426 2着に入った西島も、とりあえず笑顔だった。1着を奪われたことへの忸怩はあるはずだが、優出を決めたことはめでたいことである。オーシャンカップで「特注選手」のコーナーを担当し、西島を6日間追いかけた松本伸也が「おめでとうございます」と声をかけると、真っ直ぐな瞳で「ありがとうございますっ!」と力強く応えた。「明日ペラを変えたら、ピット離れのいいペラということ? それは秘密です(笑)」。公式会見ではそう言ったが、それはいわゆる公然の秘密というやつだろう。5号艇からインを奪取することしか考えていない、それが今日の敗戦へのリベンジとなるはずだ。

SANY0463 11R、レース前のピットには、まったく気負いなど見せない、余裕の辻栄蔵がいた。それは超一流のたたずまいとしか言いようがなく、同時にモーターに絶対の自信を抱いているという証だろう。勝利は間違いない。そんな雰囲気を、辻はまとっていた。
ところが、レースは思わぬ展開になった。今垣光太郎に差され、笠原亮にも先んじられたのだ。まさかの優出失敗――1マークを周った時点では、そんな予感が生まれたのは仕方なかった。だが、そこからの辻は、レース前の雰囲気をさらに増幅させ、超一流の追い上げを見せた。笠原の走りが悪かったわけではない。辻が良すぎたのだ。絶対に優出は外せない。それが辻のプライドだったとしか思えない走りだった。
ピットに帰ってきた辻を、先に優出を決めていた西島が出迎えた。危ない展開を、西島がからかう。辻は苦笑しながら「金の亡者」と言った。もちろん、それは照れ隠しだろう。着順が上のほうが賞金は高い。SGの優勝戦はもっともっと高い。懸命の逆転劇をあえて自虐的に言ったのである。そして、辻はホッとした表情を見せた。やはり、超一流のたたずまいだった。
「疲れましたよ。ほんと、疲れた」。辻はそう繰り返した。全身全霊の優出奪取だったのだ。「まあ、1号艇で(優勝戦は1着なら1号艇が決まっていた)バクバクするより、気が楽かもしれないですね」。すぐに明日への戦いに気持ちを切り換えた。これもまた、超一流の振る舞いである。
SANY0471 逆転された笠原は、悔しさを隠そうともしなかった。首を傾げながら、渋面を作る。やるだけのことはやったのだから、悔いはなかったはずである。だが、悔いと悔しさは違う。悔いの残らない戦いであればあるほど、敗戦の悔しさが大きくなることは往々にしてあることである。まして、優出を懸けた大一番、望むものに一時は手をかけていながら敗れたのだから、悔しさが表に出ないほうがウソだろう。どうしても口をついてしまう溜息。その溜息こそが、笠原を強くする。間違いない。レースの直後に敗戦を真っ向から受け止めて、悔しがってみせる笠原は、レーサーとして、男として、人間として、限りなく正しい。
SANY0494 モーターを格納しようと整備室に向かう途中で、笠原とバッタリ顔を合わせた。辻は、開口一番、「すみませんでしたっ」と謝った。もちろん、辻も笠原も笑っている。真っ向からの真剣勝負を繰り広げた二人だからこそ、レース後には心の底から笑い合える。本物の男たちがそこにいた。笠原が、やや自嘲気味に言う。「余裕だったでしょ?」。辻は首を横に振りながら「余裕なんかなかったけど」。お互いを認め合った言葉だと思う。笠原は、辻の言葉を聞いて、即座に言った。「クソーッ」。辻と笠原は再び笑い合った。笠原の笑顔は、どちらかといえば苦笑だったけれども、最高の男たちの最高のエール交換だった。
DSC01149 勝った今垣光太郎は、「今日は何もやらないと決めていた」という。しかし、「でも、ピストンやろうかな、どうしようかな……」と悩んでいたそうだ。たしかに、今日の今垣は整備室でもペラ室でも見ることはなかった。いちばん奥にある試運転ピットにボートを係留し、ときどき調整をする程度。彼にしては珍しい光景だった。だが、それは今垣が自分に課したことだったのだ。彼は、モーターとかペラではなく、精神の戦いを自分に課した。これもまた、最高の男の振る舞いだった。明日も、何もやらないという今垣は、それでもやっぱり「どうしようかな」と悩むのだろう。その戦いに勝ったとき、優勝戦でのレースは極限まで研ぎ澄まされるに違いない。

SANY0377 「④菊地孝平……もっとも目についたのが、彼の凛々しい表情だった。大仕事をしそうな、抜群の気合乗りと見た」。前半のピットの稿で書いたことである。12Rの展示から上がってきた菊地は、さらに気合のこもった表情を見せた。しかも、入れ込みではない。肩に力が入りすぎているわけでもない。コンマ01のタッチスタートは、ひょっとしたら行き過ぎた気合の証かもしれないが、レース前の菊地は最高の精神状態と見えた。
1マーク、マクリ差し。2マーク、田村を行かせての差し。これで先頭に立った菊地は、田村の追撃をものともせず、1着でゴールインした。SANY0503 東海の選手たちが、真っ先にボートリフトに駆け寄って、菊地の快挙を出迎える。仲間の姿を見て、菊地は思い切り両手を挙げた。「やったぁぁぁーっ」。ヘルメットの奥で、目がキラキラと輝いている。池田浩二が、手荒い(?)祝福だ。「おい、焼き鳥はお前の奢りだからな! もし明日フライングしたとしても、奢れよ!」。レース後に焼き鳥を食べに行く約束でもしていたのだろうか。その代金は、優出のご祝儀で菊地持ちだ! 池田は満面の笑みで、菊地を祝った。菊地はもちろん、うなずいた。「いいっすよ!」。こんなに嬉しい思いができるなら、焼き鳥なんかいくらでも奢ります。でも、明日はフライングには気をつけてくださいね。こんな大仕事ができる菊地をSGで見られなくなるのは寂しいから。
DSC01156 ある意味、もっとも仕事をしたのは、市川哲也ではなかったか。4コースから猛然とまくったからこそ、菊地にも差し場ができた。ピットに上がってきて、痛恨の表情を見せながらも、どこか充実感もあったように見受けられた。そこに今村豊が笑いながら声をかける。「まくったところがゴールだったらいいのにのう」。最高の誉め言葉だろう。今村は、市川のレースぶりを最大限に認め、それでも結果には結びつかなかった無念さを晴らしてあげようとした。市川の顔が、クシャクシャに崩れた。「ですよねえ」。とびきりの笑顔になったのだ。グッドジョブ。それは、プロフェッショナルに送られる最大にグレートな賛辞。市川は、その言葉にふさわしいレースをしたのだ。
SANY0520 菊地と市川の幸せな笑顔に癒された心が、一転して痛々しい思いに覆われたのは、植木通彦の表情を見たときだった。足は最高のはずだった。1号艇を得て、磐石のはずだった。しかし、時に結果は非情だ。市川のまくりに抵抗したとき、植木のグランドスラムへの道は途絶えた。ヘルメットの奥に見える目は、明らかに落胆の色をたたえている。なんとか笑みを作ろうとしても、どうしても苦笑になる。いや、植木にできるギリギリの意地の張り方が、その苦笑としか思えなかった。ボートを片付けながら、鳥飼眞が植木の話相手となっている。鳥飼は、なんとか植木に笑いかけているが、その笑顔も痛々しかった。他の選手たちは、植木にどう言葉をかけていいのかわからない、そんな風情に見えた。
控室に戻りながら、植木はポツリと言った。
「来年やね」
SANY0512 グランドスラムは意識していない、と言ったはずだった。だが、本音がその通りのわけがなかった。地元で偉業達成。植木はどこかでこだわり、しかし考え過ぎないようにしていたに違いなかった。来年やね。この痛みが、来年のMB記念につながると信じたい。その舞台は桐生。選手生命も危ぶまれるほどのケガを追い、しかし復帰緒戦に自ら斡旋を志願したという桐生だ。不死鳥が誕生した地で、八冠制覇。そのドラマチックを今から願いたいと、そう思った。

DSC01157準優劇場には、「the end」のロールは訪れない。このドラマは、言うまでもなく、明日の優勝戦への序曲でもあるのだ。激烈な戦いをくぐり抜けて優出した6人は、また明日、さらなる感動的なドラマを演じてくれるに違いない。
陳腐であり、あっけない物言いかもしれないが、この言葉で締めたい。
準優3個レース、素晴らしい闘いでした。(黒須田守)


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若松MB記念ファイナル展望! 【Deep Impact! ver.3】
10R。3対3の枠なりの進入でスタート。出ました、4号艇山崎智也のカドまくり!! そのまま智也がリードをグイグイ広げて1着。 智也にまくられた1号艇のペリカンさんがインから残して2着に入り優出。 2号艇仲口の兄さんはスタートコンマ25と凹んだのが響いたのか、4着...... 続きを読む
受信: 2005/09/04 0:35:44
2勝1敗って感じです 【おーふぉの競艇日記】
準優勝戦を振り返ります まずは11レースから 秋山に勝機はありませんでしたね〜 スタート苦手な直クンにしてみたら抜群のスタート決めてて 下手に差しにいったりせずに持ち味の全速旋回で1マーク回っていったんですが … 展開が悪かったのかな〜ぁ 2マークでは前を完全に塞がれてしまってどうすることもできなくなってましたね 内の2艇がよかったというしかないのかなぁ その2人が優勝戦に�... 続きを読む
受信: 2005/09/04 10:14:53
コメント

記事から選手の息づかいが聞こえてきそうです。毎回、楽しく読ませてもらっています。私は日高選手が好きなので、今度は日高逸子物語をお願いします。

投稿者: ゆっけ (2005/09/03 23:38:19)

うわっ
恥ずかしい>_<
トラックバック間違えて2回送っちゃいました、ごめんなさい

投稿者: おーふぉ (2005/09/04 10:24:37)