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この特集では田中工業「黒須田守」をはじめとした5名のライターから競艇にまつわるさまざまなレポートをお届けします。
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準優勝戦ドキュメント――5日目、後半のピット

SANY0398  雨が上がった午後2時。準優勝出場選手たちの動きが一気に慌しくなった。最初の準優勝戦を1時間後に控え、彼らのためのスタート練習も始まった。太田和美以外のボートはすべて着水されており、逆に準優組以外では高橋勲の艇が試運転ピットに係留されているのみ。ピット内は完全に準優モードに入った。
 午後2時16分。試運転ピットに係留したボートの前で、川崎智幸が何事かを考えながら立っている。けっこう長い時間ジッと一点を見据えており、その視線の先にはモーターがある。彼の周囲だけ時が止まっているかのように、動かない川崎。やがて、何かがひらめいたのか、しゃがみ込んでモーターを調整し始めた。準優を戦い抜くための方向性が見えたのだろうか。

SANY0400  その2分後、ひとつ置いた左隣に係留していた烏野賢太のモーターが唸りをあげた。烏野は水面のほうを眺めながら、レバーを握ってモーターをフル回転にさせている。音を確認しているのか、回転数をチェックしているのか、ともかく烏野は最後の調整に入ったようだった。表情に気負ったところはない。
 ふとピット内に目を戻すと、瀬尾達也と西島義則が通り過ぎた。瀬尾は、これから準優を戦う選手とは思えないほど、平常心を保っている様子。ベテランの精神コントロール法はやはり完璧だ。西島もまた、それほど強烈に数十分後の戦いを意識しているふうはなかった。ただ、静かな闘志は感じられた。
DSC01576  さらに2分後、上瀧和則が澄み切った表情で展示控室に向かう。今節の上瀧はとにかく明るかったが、今日もトゲトゲしたオーラはほとんど感じられず、実にいい表情で歩いている。瞳の力強さは変わらないが、グラチャンのときのような、あたりを睥睨する感じは見られない。その意味は果たして……。
 その直後、山本浩次が淡々と展示控室に向かった。いつもどおり、淡々。ただ、いつもと少し違うのは、ややうつむき加減に視線を下に向けていたことだ。淡々としていながらも、明らかに気合が入っている表情。ミスター不動心もこんな顔つきになるんだと、なぜか感心してしまった。
 それから1分ほど経って、気になる男・山崎智也が展示控室へ。実にリラックスした表情で、精神状態はパーフェクトと見えた。心なしか、体も大きく見えた。

SANY0408  9Rが終わって、スタート展示が始まった。山本浩次がやや遅れて、上瀧和則がインを奪取、西島義則も当然のように動いて内側に潜り込んだ。9R出走選手のボート引き上げに出てきた選手たちが、一斉に水面のほうに注目する。田中信一郎が「おいおい」と笑う。川崎智幸もニッカリ。少し遅れてやって来た江口晃生にいたっては、満面の笑み。「浩次ぃ、何やってんだよぉ」というところか。さらに山崎智也、そして瀬尾達也までスローに入り、瓜生正義の単騎ガマシの様相となったから、ボートを引き上げながらも多くの選手は水面から目を離さない。相変わらず、みなにこやかに笑っていた。
 そんななか、ただ一人笑顔がなかったのが、仲口博崇だ。仲口もスタート展示を見ていなかったわけではない。だが、目元が少し緩んだだけで、真剣な表情を崩さない。準優、優勝戦の際に見せる、仲口独特の緊張感。キリリッとした顔つきは、実に魅力的でもある。時に、少し入れ込み気味のようにも見える、そんなときの仲口だが、今日は余裕もあったようだ。ボート引き上げが終わると、試運転ピットへ。ボートの前でゴルフのスイングをブインとすると、艇に乗り込んで展示ピットへと移動させた。仲口、いい感じである。

DSC01593  2時44分、展示を終えた10Rの出場選手たちが、控室へと戻ってきた。各選手の様子だ。
①号艇・山本浩次/淡々。気合乗りも維持。
②号艇・上瀧和則/にこやかである。近くを通った江口晃生と顔を見合わせて、無言で笑い合う。悪戯っぽい笑顔だ。「イン取っちゃったよ~」って感じか。こんな上瀧、初めて見た。
③号艇・山崎智也/顔がグググッと引き締まり、凛々しい表情。
④号艇・瓜生正義/なぜか長い間、ヘルメットを脱がなかった。脱いだ後、サッパリした表情。
⑤号艇・西島義則/視線が一秒ごとに強烈になっていく。だが、オーラみたいなものは、MB記念やオーシャンカップほどではないように見えるのだが。
⑥号艇・瀬尾達也/まったく変わらぬたたずまい。凄いことだと思う。
 2時57分、最初に出走の準備に入ったのは、瓜生正義。対岸のオッズ板を確認すると、かなり速い足取りで準備に取りかかった。続いて、山本浩次が淡々と動き出す。首、腕を回して体をほぐしながら、気合を高めているようだ。西島義則は、厳しい顔つき。上瀧和則は、やはり明るい表情で、いい意味で肩の力が抜けているとしか思えない。そして気になる山崎智也は、やや下を向き、一点を見据えて歩いている。目からビームでも発射しているかのような、強い目線だ。ズバリ、カッコいい。

DSC01608   1着、山本浩次。2着、瓜生正義。スタート展示通り、上瀧がインを奪い、山本はなんと4カド。3コースを取り切った智也がスタートでへこんだことで、結果的に山本に流れが向いた。もちろん、足も抜群ではある。
 ピットに戻ってきた智也は、意外とアッサリした表情を見せていた。西島は、出迎えた広島勢と力なく笑い合う。瀬尾は、やっぱり変わらぬたたずまい。上瀧もまた、なぜか明るい。そして、山本は勝っても淡々。笑顔も見られないのだから、ある意味すごいことだ。破顔一笑は瓜生だ。出迎えた植木通彦が、「おめでとう!」と手を鳴らすと、日高逸子、鳥飼眞も続けて拍手。やはりなかなかヘルメットを脱がなかった瓜生だが、メットの奥で目が思いっ切り笑っていた。
 午後3時30分。智也が着替えを済ませて、モーター格納のためピットに戻ってきた。肩を落としているというほどではないが、わずかながら落胆が感じ取れる風情だ。同じ頃、西島も整備室に入っていったが、瞳の力が一気に減少していた。戦いの後だから当然かもしれない。しかし、寂寥感すら覚える姿でもあった。

SANY0419  その少し前、午後3時20分。11R出走選手が展示を終えた。各選手の様子。
①号艇・太田和美/実に力強い表情。充実感いっぱいだ。
②号艇・田中信一郎/上瀧とは違った意味で、にこやかだ。明らかにリラックスしている。
③号艇・辻栄蔵/口を真一文字に結んで、しかし飄々と歩く。
④号艇・柏野幸二/なぜか、歩様が遅い。ゆっくりゆっくりと歩いている。緊張しているふうはないのだが……。
⑤号艇・仲口博崇/いっそうキリリリッとした顔つきに。選手仲間とすれ違うと笑顔を見せたりもしているが、すぐにキリリリッに。
⑥号艇・井口佳典/まったく堅くなっている様子はないが、かといって普段見かける井口とも違う。気圧されているとは思わないが……。
 午後3地40分、田中信一郎がストレッチをしながら出走準備に向かった。たまたまカメラマンが原田幸哉を撮影している前を通りかかったのだが、その瞬間に腰をかがめて撮影の邪魔をしないように通過。余裕綽々といった感じだ。
 井口のもとには、田村隆信が駆け寄った。にこやかに会話を交わす二人。そういえば、今日のピットでは二人が一緒にいるところをよく見かけた。同期だから当然ではあるが、昨日よりもともにいる時間は明らかに長かったと思う。勝手な想像でしかないが、SGキャリアが豊富な田村が、SG2節目、初準優の井口をほぐそうとしているように見えた。地元から単身の参戦でも、田村が井口の心強い味方となっていたのだ。素晴らしい同期愛だ。

DSC01612  1着、太田和美。2着、田中信一郎。大阪支部の同期二人がワンツーを決めた。信一郎を真っ先に出迎えたのは、なぜか池上裕次。顔を合わせた瞬間、二人とも笑顔爆発だ。一方の太田和美は、特に表情を変えずに、勝利者インタビューに向かった。すでに優勝戦に思いを馳せているというよりは、優出はまったく特別なことではない、という風情に見えた。大物、と言うしかない。
 仲口は、つとめて平静を保とうとしているように見えた。ようするに、悔しさ爆発なのだ。しかし、それを露骨にはするまいと表情を保っている。それでも、カポック脱ぎ場に向かおうと歩を進めたそのとき、ポロリと苦笑いがこぼれた。

SANY0434  午後4時。12R出走選手が展示を終える。
①号艇・植木通彦/川崎智幸と並んで帰ってきた。何事かを川崎に確認しているようだ。さらに烏野賢太にも、同様に話しかける。何か気になることでもあったのか……。
②号艇・烏野賢太/まったくの平常心といった感じ。もはや迷いなし、と見える。
③号艇・原田幸哉/同県・赤岩善生と並んで歩く。目元に笑みがうかがえる。
④号艇・江口晃生/泰然自若。もうこの言葉しかない。
⑤号艇・赤岩善生/原田と話しながら、笑顔が見えた。驚いた。
⑥号艇・川崎智幸/植木と会話を交わす際の表情は、極めて普通。
 もっとも気になったのは江口だ。バッタリ顔を合わせた田中信一郎に「優出おめでとう!」と笑顔を投げかける。そこに菊地孝平が現われて、からかうように声をかける。ピットに響く大爆笑。準優を前にこれだけ笑えるのが不思議で仕方がない。間違いなく、この泰然さが江口の武器だろう。笑顔の余韻を残して、真っ先に出走準備に向かう江口。彼の中には、底知れぬ奥深さがあると思う。
 烏野も、出走時間が近づいても、リラックスしている。結果論でしかないが、この精神的パワーが、12Rの行方を決定づけたようにしか思えなかった。山本浩次とはまた違った意味での不動心。技術や機力を超えたところにこそ、勝負を分かつ重要な因子が存在しているのだ。

SANY0453  1着、烏野賢太。2着、江口晃生。レース後もまた、彼らは浮かれることがなかった。さすがに笑顔は溢れているが、過剰なものではない。優勝戦のキーマンがこの二人であるのは、もはや間違いなかろう。
 植木は、苦笑い2割くらいを含んだ笑顔だ。「最近、いつもこんなんばっかりや」。オーシャンカップ優勝戦、1号艇インから江口にまくられた。MB記念準優勝戦、1号艇インから市川哲也のまくりを浴びた。そして、今日もまた1号艇インから烏野賢太のまくりに屈した。たしかに、もう笑うしかない状況だ。
 川崎が引き上げてくると、出迎えたのは同期の上瀧。川崎と目が合うと、なぜか思い切り拍手をしながら、大爆笑だ。「ダッハッハッハ! よかったなあ!」。何が? 陽気な今節の上瀧、まったく不思議なことばかりです。ただ、川崎もなんとなく救われたような感じで破顔一笑していたのもたしか。これも上瀧流の慰めなのだろうか。その後、同地区・植木にもやや控えめながら、同様の拍手と笑み。植木もホッとしたように笑った。植木と上瀧のそんなシーン、なんだか嬉しくなってしまうのだった。

SANY0455  16時50分。ピットから人影が消えた。準優3個レース、これまでのSGに比べて、ずいぶんと穏やかな空気だったような気がする。そして実際、勝ち抜いたのは「淡々」な選手ばかりだった。溢れ出るような気合がレースを左右することもあるだろう。僕自身、熱き魂に触れるのは大好きだ。だが、優出者たちに象徴されるような空気もまた、形を変えた熱さなのかもしれない。ダービーは、「淡々」な熱さに流れが傾いている。そういうことだと思う。

SANY0439  最後に、準優でも、そして準優で負けても気になる山崎智也。12Rで江口が優出を決めると、我がことのように喜びを爆発させていた。ピットに帰ってきた江口に拍手喝采。抱きつかんばかりに、まだボートリフトの中の江口のほうに向かっていった。ボートを引き上げるのも率先して行ない、モーター格納の手伝いをしている際もニッコニコ。本当は、自身が優出してニッコニコの智也が見たかったけれども……。(黒須田守)


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コメント

いつも楽しく拝見しています。
上瀧選手、同期の川崎選手を慰め?るのは分かりますが、植木選手にも「同様の拍手と笑み…」
うーん、ライバルのイメージがあるせいか、ちょっと想像がつきません(^_^;)
こういう意外なエピソードもこのブログならではですね。
最終日のレポートも楽しみにしています!!

投稿者: カナリア (2005/10/30 14:02:03)
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