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この特集では田中工業「黒須田守」をはじめとした5名のライターから競艇にまつわるさまざまなレポートをお届けします。
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津ダービー私的回顧

太田和美VS烏野賢太、凄絶なる1周

SANY0503  2コースの山本浩次がスリットからキュッと伸びた。チルトを3度に跳ねたときの矢後を除けば、今節では山本が伸び~~るキング。展示タイムは田中信一郎の方が上だったが、スリット付近で一瞬にして伸びる「実戦伸び」は山本にかなわない。
 もちろん、山本と同期で何度も足合わせをしている太田和美が、その脅威の伸び足を知らないわけがない。
 ツケマイに来るか、差しに来るか。
 頭を伏せつつ山本を視野に入れながら、敵の出方を予測していたはずだ。実際、ふたりの体勢は微妙だった。山本が覗いたのは5分の1艇身ほど。ツケマイも差しも可能な状況でありながら、どちらを選択しても勝てるとは限らない。逃げる方も難しいが、捕まえる方も難しい。そんな体勢なのだ。
 おそらくは山本も少し迷いつつ内側に艇を寄せたと思う。ターンマークまで残り5mほどで、先に仕掛けたのは太田だった。ブイを外さない、ほぼ全速のモンキー。落とせばツケマイの餌食になるし、ツケマイを意識するあまり艇を合わせて握れば逆に山本が落としてズッポリと差される。この難しい状況の中で、太田は最善最良の戦法を選んだ。
 こうなると、山本だけに宿題が残された。まくるか、差すか。どちらを選んでも後で後悔するかもしれない哲学的選択。さらにはレース自体がまったく別のものに分岐する究極の選択。山本はスッと落として差しに回った。太田の先行は許すことになるが、バックの伸びで勝負。そう決意した。太田はほぼ全速で仕掛けた分だけ、やや流れている。もちろん覚悟の上だろう。
 山本にもまだ勝機はあるな。
DSC01685  そう思ったときだ。3コースの烏野賢太が、とてつもない大技を繰り出した。差しに回った山本を抱き込むように旋廻しつつ、太田と山本の狭い隙間に艇を捻じ込んだのである。びっくりした。目を疑った。3コースからのまくり差しはもっとも難しいテクだと言われるが、烏野の放った技はまくり差しなどという生やさしいものではない、強ツケマイ差しだった。烏野には失礼だが、これほど鋭いまくり差しができる選手は山崎智也か濱野谷憲吾くらいしかいないと思っていた。針の穴を通すような一瞬のタイミングとハンドリング。100分の1秒でもずれれば大事故になりかねない大技!
 あまりに鋭敏かつ大胆なツケマイを喰って、まずは山本の艇が引き波に沈んだ。さらに、烏野はやや流れながら前進する太田に迫る。ここで捕えきれば、競艇史にまたひとつの伝説が生まれることになる。
SANY0506  しかし、相手が太田だったことが烏野にとっては不運だった。パワー差が違いすぎた。やや流れながら全速の先マイを打った太田は、ヒュンッと瞬間移動するように伸びた。回ってすぐの伸び足が、今節の太田の持ち味だ。一瞬は並んだはずの2艇が、1、2秒ほどで1艇身半の差になっていた。それでも、必死に追いすがる烏野。直線の伸びはそれほど変わらない。
「どうして烏野さんが……!?」
 バックでかろうじて先行しながら、太田は俺よりもはるかに驚いていたことだろう。太田にとって山本が壁になっていた分、烏野の姿は完全に死角になっている。1対1のタイマン勝負と思い込んでいたところに、想像もできない角度から視界に飛び込んだのだ。そんな驚きと焦りが、2マークのターンに反映されたか。太田は烏野の前方を遮るように直進し、2マークで鋭く切り込んでターンした。が、早めにハンドルを入れすぎたために、かなり大きく流れたのだ。
DSC01704  その動きを見た烏野は、しっかりと落として2マークを回る。内外離れた2艇は、ほぼ同体か烏野の方が優勢に見えた。このまま艇を合わせれば、今度は烏野が主導権を握ることになる。2艇が近づく。近づいてみて、また太田の回ってすぐのパワーに驚くしかなかった。完全に入っていると思った烏野の艇は、太田のちょうど1艇身後ろだった。なんとか舳先を捻じ込もうとする烏野。振り切ろうとする太田。バックと同じような、平行線の追いかけっこ。だが、この手に汗握る攻防は2周1マークで雌雄を決した。冷静さを取り戻した太田は烏野を押さえ込みながら的確にハンドルを入れ、自慢の回り足で一気に突き放した。第52代のダービー王が誕生した。
 やはり、SGの優勝戦はひと味もふた味も違う。優勝戦でなければ、烏野はあれほどギリギリの強ツケマイ差しを敢行しなかった。太田は2マークでターンミスを犯しはしなかった。そう思う。強気と弱気、冷静と興奮、リスクと安全……勝ちたいと思う気持ちがとてつもなく強いからこそ、それらが交錯して有機的なドラマも生まれる。ただ、逃げてまくって差すだけではない、心のレース。それがSGの優勝戦なのだと思う。
SANY0525  太田和美選手、ダービー優勝と賞金王決定戦の当確、おめでとう。そして烏野賢太選手、素晴らしいレースをありがとう。(畠山)


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何年か前の住之江チャレンジカップの優勝戦、レース前のインタビューで1号艇の濱野谷選手が「烏野選手の3コースが怖い」と話されていたことがありました。結局烏野選手は本番2コースで濱野谷選手が優勝したのですが、レース後も「烏野さんが2コースでよかった」といった感じのコメントをされていました。負けはしましたが、濱野谷選手のコメントの意味が実感できるすばらしいレースを見せてくれたと思います。

投稿者: やまと (2005/10/31 13:29:57)
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