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この特集では田中工業「黒須田守」をはじめとした5名のライターから競艇にまつわるさまざまなレポートをお届けします。
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哀しき闘魂――3日目、午後のピット

SANY0570  午前、午後を通して、今日のピットでもっとも闘魂を感じさせていたのは、湯川浩司だった。SGに何度も出場し、記念も獲り、昨年の年間最多勝。明らかに格上の存在として、この新鋭王座に参戦している湯川である。それだけに、今節は前検から強い決意や志を発散しており、昨日までもそのたたずまいに震えていたのだが、今日はそれがさらに強くなっていた。昨日の前半6着で、今日はにわかに勝負駆けとなっていたからだろう。湯川は背水の陣を敷いて、今日の戦いに臨んでいたはずである。
SANY0605  ところが……。前半6R、まさかの6着。これで、本当に後がなくなった。さらに強烈な意志をもつ、虎のような目になっていた後半の湯川。しかし……11Rもまさかの6着……。主役の一人であった湯川が、優勝戦線から消えてしまった! 意外な伏兵が台頭する一方、バリバリのメインエベンターが挫折を強いられる。新鋭王座決定戦は、SGとはまた別の意味で、残酷さがある。レース後、さすがに落胆した様子で引き上げてきた湯川は、カポックを脱ぎながら、ついつい、といった感じで、顔をしかめた。悔しくなかろうはずがない。自分を責めたくもなっているだろう。その背中を見ていたら、なんだか悲しくなってしまった……。
SANY0615  同期の井口佳典も、湯川と同じ気持ちになっているようだった。その11Rを、整備室内のモニターで眺めていたら、整備をしていた井口がやって来た。すでにレースは2周目にさしかかっていて、湯川はターンマークに衝突して、大きな遅れをとっている。レースが終盤を迎えたところで、井口は整備室の入口にいた僕のところへ、つかつかと歩み寄り、僕が手にしていた今日の出走表を覗き込んだ。そのとき僕は、明日の出走表も手にしていた。この時間帯、選手たちが見たがるのは、まず翌日の出走表。そこで僕は、そちらを井口に差し出して、「明日は1回乗りですね。30点ですから、当確です」と声をかけた。すると井口は、「あぁ……1回乗りですからね」と素っ気なく応えた。そして、もう一度、今日の出走表のほうに目をやったのである。おそらく井口は、湯川の艇番とここまでの着順を確認したのだと思う。11Rの6着は、湯川の準優進出の望みを絶つものなのか……それを理解も覚悟もしていたはずだが、それでも確認せずにはいられなかった。井口は、無言でふんふんと頷くと、僕に会釈をしてボート揚降機のほうに歩いていった。そして、友の哀しみの帰還を出迎えた。ボートの片付けをヘルプする間も、無言のままの井口。湯川に声をかけないことがかえって、井口の心の重さを表わしているように思えた。
 井口よ、明日は、いや、明日以降は、湯川の分まで頑張れ! 戦士にとって、友を慰める方法は、自らの戦いを捧げること。最後の新鋭王座をともに最高の幕引きにするべく、闘志を燃やせ、井口!

 もっとも多忙そうに見えたのは、中村有裕である。前半7Rで3着、無難に着をまとめてはいたが、どうにも足に納得していない様子なのだ。整備室でモーターと向き合っている顔つきは、悲壮感すら漂わせていて、それが迫力をも感じさせる。きっとユーユーは、準優進出など視界には入れていない。さらにその先の、優出、そして優勝を見据えているとしか思えなかった。その整備の甲斐があったのか、それとも気迫が驚愕のスタート(コンマ02)を切らせたのか、12Rは1着。これで準優当確となった(ボーダー6・00として)。ユーユーの本気の本気が炸裂するのは、ここからかもしれない。
SANY0609  地元のエース・森永淳も、準優当確。最低限のノルマは果たしたといっていいだろう。とにかく、気合は満点。レースぶりも冴えていて、好調でシリーズ後半を迎えることができる。佐賀勢の勢いを味方に、明日も緩めず、準優の好枠を目指しての走りが見られるはずである。レース後、人っ気のなくなりかけた整備室で、リードバルブの整備をしていた森永。好成績に油断することなく、また妥協することなく、足を万全に近づけるべく努力している。この姿勢は、間違いなく買い。佐賀勢では岡部大輔が絶好調だが、やはりリード役は森永なのである。

SANY0556  一方、追い込まれたのは笠原亮。明日は2回乗りで、ピンピンがノルマ。進退極まる条件を背負ってしまった。レース後は、意外とサバサバした感じで、まずは明日に望みをつなげたことが大事、といったところか。もちろん、納得している様子は微塵もなく、心の底にはひっかかりがあるのは間違いない。明日、笠原は正真正銘の勝負駆け。思い出すのは……芦屋チャレンジカップの最終日。そう、ピンピンで逆転準優進出を果たした、アレだ。あのときは、先輩の坪井康晴を蹴落としてしまったため、複雑な表情を見せていたが、今回は最後の新鋭王座という大義が笠原にはある。あの逆転劇の再現を見せろ!

SANY0557  静かな気迫を感じるのは、高沖健太。実を言うと、今日の午前中までは、彼の存在感をあまり気にかけていなかった僕である。成績も決して悪くないのに、高沖選手ゴメンなさい、正直ノーマークだったのだ。さすがに3日目ともなれば、9割以上の選手を認識できるようになったが、残るわずかな選手の一人が、高沖だった。いやあ、ゴメンなさい。で、だんだんと静けさに支配され始めていた午後のピットで、一人たたずんでいると、左側のほうに強いオーラを感じる。それに引き寄せられるように、記者さんが声をかけにいき、つられてそちらに目をやると、ボートには「高沖」と書いてあった。うわっ、決して派手ではないけど、雰囲気のあるたたずまいではないか。確固として己を屹立させる、本質的な強さを持っているように見えるのだ。遅ればせながら、注目せずにはいられないと思った。ほんと、ごめんなさい。明日は3着条件の1回乗り。そして1号艇。俄然、気になる存在が現われたぞ。

SANY0579  残念ながら、予選突破はかなわなくなったが、それでも今日は最後まで試運転をしていたのが、廣瀬将亨。彼も新鋭卒業組の一人、このままでは唐津から去れない、という思いなのであろう。ここまでも、決して箸にも棒にもかからぬ成績というわけではないから、残り3日でのド派手な鬱憤晴らしが見られる可能性はおおいにある。少なくとも、僕は廣瀬のように、どんなときでも全力投球する姿勢は大好きである。

SANY0564  さて、なかなかに起伏のある一日となった3日目だが、ほのぼのした空気ももちろんある。まずは、中村亮太。モニターでレースを見ていたら、亮太がニッコリと僕を見て笑っている。目が合うと、さらに顔をほころばせて、こちらに近づいてきた。???? すると亮太、僕が首からぶら下げている取材章を指差して、言うのである。「田中工業って何ですか?」。えっと、このページの左上にあるプロフィールなどをご参照してください。簡単に言えば、私が代表の編集プロダクションである。その名称が、取材章に書かれているのだ。というわけで、業務内容やら名称の由来やらを説明した次第なのだが、亮太はへぇ~~~と感心してみせて、こう言った。「いやあ、ずっと気になってたんですよ」。あ、そうすか、それはそれは……って、そんなこと気にしてる場合か! ここまで2勝をあげてはいるが、減点があるから今日は一日早い勝負駆け。そんな日に、田中工業なんて、どうだっていいでしょ! 恐縮するやら、驚くやら、笑っちゃうやら。亮太、もしかしたら大物かも、と思った。亮太スペシャルを編み出せる資質は、こんなところにあったりして。

SANY0568  石野貴之もまた、見ていると思わず頬が緩んでしまう、そんなヤツである。まず、ハツラツとしている。きびきびとした足取り、ピンと伸びた背筋、そして力強い眼差し。イケメンというかジャニーズ系というか、実に整った顔立ちではあると思うが、その立ち居振る舞いもまた、カッコいいのである。さらに、非常に明るい。引き締まった顔であると同時に、いつも穏やかな笑みが、その目にたたえられている。キャピキャピ。そんな表現をしたくなるような、雰囲気なのだ。仲のいい選手とすれ違ったりすると、笑みはさらに大きくなる。ニコニコと声をかけては、今度は弾むような足取りでその場を去っていく。ルンルン。そんな感じである。その姿は、30代後半のオッサンからすると、かわいい弟。姿を見るたび、頑張れよ~~~と声をかけたくなるキュートさがあるのだ。
 というわけで、非常に気になる一人なのだが、今日は9Rで1着の丸岡正典をニッコニコで出迎えていた。水際にしゃがみ込み、指で望遠鏡(?)を作って目に当てて、何事か丸岡に声をかけている石野。引き上げてきた丸岡も、思わずニッコリ、である。その後も、笑顔満開のまま、丸岡のボート引き上げを率先してヘルプしていた石野。いやあ、かわいいっす。準優は当確、明日もきっと愉快な表情を見せてくれるだろう。(黒須田守)


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