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この特集では田中工業「黒須田守」をはじめとした5名のライターから競艇にまつわるさまざまなレポートをお届けします。
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はばたけ、金田諭!

kanedanakamura2  この新鋭王座で特注として取り上げる金田諭とは、ちょっとした縁がある。今から2年前のちょうど今くらいの時期、彼と話をする機会に恵まれたのだ。同県の後輩・中村尊(昨年の新鋭王座に出場)とともに現われた金田は、実に礼儀正しく、ハキハキと喋る青年で、僕ら(奇しくも取材班の3人で彼らと会った)はいっぺんで金田のファンになってしまったのだった。当時は成績も上昇中で、「最近は、ありがたいことに、初日12Rに組んでもらえるんですよね」と顔をほころばしていた。そんな彼を、僕らは頼もしく見つめたものだ。ダッシュからの強烈な伸びマクリは実に印象的で、近い将来のブレイクを確信もしていた。(写真は、そのときの金田=右&中村)
 ただ、そのときの会話のなかで、ちょっと気になる一言もあった。今くらいの時期、ということは、新鋭王座の直前(たしか2週間ほど前だったと記憶している)。関東地区選手権への斡旋も入って、GⅠ出場への歓びも語っていたのだが、「じゃあ、その前のGⅠ、新鋭王座をイワしてくださいよ」と僕らが言うと、金田はややくぐもった声で、そして即座に「新鋭王座は無理」と言ったのだった。
 たしかに、その新鋭王座は80期が最上級生で、先輩が5期分もいた。さらにSG・GⅠクラスも揃っていた。記念に呼ばれ始めた、という段階の金田にとっては、かなりレベルの高い相手ばかりに見えたとしても当然であろう。しかし、だとしても、戦う前から「無理」と言ってしまうのは、果たして……。ハナから諦めていたとも思わないし、だからこそのチャレンジャー精神も心に満ち満ちていたと信じているが、それにしても「無理」という言葉を口にした金田に、僕は声を失うしかなかった。そこまで自分を低く見積もる必要はないだろうに……。彼のレースを何度も見てきた僕らには、金田が「新鋭王座は無理」というレベルの選手だとは思えなかった。
 実際のところ、金田はその新鋭王座で予選突破も果たせず、1着1本2着2本のほかはゴンロクを並べた。結果的には、自身の予言通りの成績に終わってしまった……。僕らの見立てよりも、彼自身の自己分析のほうが圧倒的に正しかったというのか……。
 あれから2年。金田は最後の新鋭王座を迎えた。昨年は出場していないから、この舞台に帰ってきた、とも言える。金田はあれから、どう変わったのか。強気な言葉を口にできるほど逞しくなったのか。それとも、まだ自分を卑下してしまうのだろうか。再会を祝しつつ、しかしちょっと複雑な心境で、僕は金田に声をかけた。

SANY0248 金田は、すぐに僕のことを思い出したようだった。「あぁっ! はいはい。そのときはどうも」。ただでさえ優しい目が、さらに優しく笑った。あのときの好青年ぶりは、少しも変わっていなかった。ひとつ意外だったのは、実はけっこうな長身であることだった。身長172cm。僕が173cmだから、ほぼ同じである。あのときは、立って並ぶこともなかったからわからなかったが、ピットで話しかけてみると目線が同じ高さである。今節は53kgでの参戦。身長は変わらないのに、体重は僕の2分の1。僕の体をタテに真っ二つに裂いたら、金田諭が二人、出来上がり……アホなことを考えて、勝手に笑いそうになっていた。午前11時半。金田はこちらの取材依頼を快諾して、ひとまずレースの準備に向かった。
 今日は7Rの一回乗り。5着と敗れた金田は、レース後は整備室にこもっていた。本体を割って、ずいぶん長く整備室で時間を過ごしている。モーターを組み直して、整備室を出たのは、11Rの発走直前。洗面所で手を洗って、たまたま居合わせた同期の湯川浩司に「(ドリーム戦)頑張れよ」と声をかけた。
 僕の姿を見かけると、開口一番「いやあ、よくないですねえ」と言った。とにかく、回った後、押さない。回り足の優れたペラをつけても、まったく改善しない。直線の足も、伸びきればいいんだけど、という程度の足で、どうにも満足できるパワーではない。機歴を見ると、頻繁に部品交換を繰り返してきたモーター。そこで、思い切って新品のリングに換えて、大化けを狙ったそうだ。「明日、急いで試運転で乗ってみて、なんとか直したいですね」。今日のところは、やることはやった。そんな充実感からだろうか、表情は決して暗くなかった。
 モーターの調子の話が一段落して、僕は次の質問を少しだけためらっていた。あのとき「新鋭王座は無理」と言っていたこと、いきなりそこに切り込んでいくべきかどうか……。もし、今日の結果やモーターの調子が上々であれば、そのパンチを繰り出していたかもしれない。しかし、今後へのメドが立ち切っていない今日、最初からフィニッシュブローを出すのはふさわしくないのではないか……。
 結局、僕は妥協して、ジャブを放ってみることにした。今日のところは、様子を見てみよう……ところが、これがラッキーパンチになった。
SANY0330 質問は、「最後の新鋭王座ですね」。卒業期の選手たちには、きわめて当たり前の質問だった。
「そうですね。これまでの新鋭王座は楽しんで参加してましたけど、今回はそれだけではダメでしょうね。まあ、84期の先輩や、85期の同期は(新鋭王座卒業期)、みんなそう思ってるでしょうけど。そのなかでも自分が主役になりたい? はい。もちろん。そのためにも、明日は頑張らなきゃいけませんね」
 言うまでもない。「新鋭王座は無理」と言った金田諭は、2年経った今、もうどこにもいない。初めて会ったあの日から、金田は明らかに変わった。技術はもちろんだろうが、精神的にも大きくなっているのだ。
 2年前に会った後、金田は一時期、不調に陥っている。勝率が4・49にまで落ちた期もあるし、決して順調に成績を伸ばしてきたわけではないのである。そんななかでも、金田は少しずつ逞しくなったのだろう。そして最後の新鋭王座決定戦を迎えて、「自分が主役になりたい」と、衒いもなく言い切れるまでになった。間違いなく、金田諭は強くなった、のである。
 その原動力となったものは何か。そして、この新鋭王座でここまでの努力や精進が結実するか。明日からは、そのあたりをさらに突っ込まねばなるまい。大きな目を思い切り細めて控室に向かった金田の後姿に、僕はなんだか頼もしいものを感じずにはおれなかった。(黒須田守)


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