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この特集では田中工業「黒須田守」をはじめとした5名のライターから競艇にまつわるさまざまなレポートをお届けします。
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歓喜と悔恨、そして静寂――準優勝戦、後半のピット

 準優勝戦を控えたピットには、さすがに緊張感が漂う。hidaka
 そんな中でも、ずっと目に留まり続けていたのは、日高逸子の動きだ。整備室、ペラ小屋と動き回りながら、レース後のボートの引き上げなどにはさっと駆けつけ、率先してボートも洗う。それは一選手として当然のことかもしれないが、ひとつひとつの動きが、他の選手とは比べられないほど機敏なのだ。 日高の立ち姿や歩いている姿を見ているだけで、本物のアスリートがそこにいることが直感として伝わる。もちろん、その表情は常に引き締まっていて、凛としているのはいうまでもない。
 9Rのあと、日高は、試運転に出ようとしていた松瀬弘美に対して、「今から乗るの? 素晴らしい! 選手の鑑だ」と声をかけていた。そうやって、場をなごませようとしていたにもかかわらず、日高本人は、心から笑っているようには見えなかったことも特筆しておきたい。正真正銘の勝負師なのである。
 そんな日高が心から嬉しそうにしていたのは、10Rで2着に入り、優出を決めた徳増宏美のボートを引き上げたあとだけだ。両手を上げて、拍手で出迎えると、その後は、短い時間ながらも、笑顔で言葉を交わしていた。これが同期の絆というものなのだろう。このときの日高は、徳増の優出を、自分のことのように喜んでいるように見えたものだ。

tokumasu この10Rでは、1着の海野ゆかりよりも、2着の徳増の周囲が騒がしかった。 さすが地元・静岡ということもあり、レース中から、検査員室では、モニターを見つめる検査員、整備員たちの応援の声が飛んでいたのだ。「よしっ! よしっ! あ~っ ……いや、よしっ!」と、レース展開に一喜一憂し、ゴール後には拍手が起きた。その光景をそっと見ていた筆者にしても、つい、つられて拍手をしてしまったほど、気持ちが入った応援だった。
 その後、インタビューを受ける徳増は、本当に嬉しそうな表情で、地元開催の女子王座決定戦で優出できた喜びを素直に言葉にしていた。そのうえで、「浜名湖ではスタートはどこからでも行けます」と言い切って、優勝戦でも台風の目になることを確信させてくれた。
 勝った海野も、さすがにほっとした様子だった。レース前までは厳しい表情でペラ叩きなどをしていたが、レース後は、艇界のタカラジェンヌらしい女性的な笑みを見せてくれていた。

 yokonhishi 11Rを勝った横西奏恵は、10R前まで熱心にペラ調整をしていた。レース後は、同地区の岩崎芳美とハイタッチして、カメラマンに向かっては、満面の笑みでブイブイ! おどけながら両手でVサインをしてみせる姿はちょっと意外な感じがしたほどだ。インタビューでも「前回(99年優勝)より(タイトルを)欲しい気持ちは大きいけど、リラックスできてます」と話していたが、その表情に偽りは見当たらなかった。勝利を渇望しながらも必要以上に緊張している様子が見られない今の横西ならば、2度目の女王の座を射止める可能性もかなり高いだろう。
 そんな横西とは対照的に、2着の永井聖美は、ボートを引き上げたあとも表情が硬かった。だが、横西に合わせるようにカメラマンにVサインを送っているうちに、少しずつ表情もやわらいでいったので、とりあえずは安心である。

 asada 進入から波乱含みだった12R。鵜飼菜穂子の前付けを許し、2コースに入ることになった日高が、1マークで、ビシリと差しを決めた瞬間は、見ていて、鳥肌が立ちそうなほどだった。エンジンの違いもあったために、淺田千亜希の逆転を許してしまったが、誰よりも強い視線で女王の座を見つめているのが日高であることは、やはり間違いない。
 レースから引き上げてきた日高の表情はさすがに厳しかった。淺田と並んで受ける形になったTVインタビューでは、「くやしい! くやしい! くやしい!」と言いながら、淺田に体当たりしていたが、その悔しさは、おふざけではなく、ホンモノである! 顔だけは笑っていても、内に秘めた感情はおのずと察せられたのだ。明日の優勝戦では4号艇になるものの、この真摯な目と姿勢がある限り、日高二連覇の可能性は決して低くならない。
 勝った淺田は、隣の日高に遠慮していたのか、TVインタビューの際には、喜びを爆発はさせられなかった。それでも、レース後にボートを引き上げ、仲間たちに囲まれたときは、満面の笑みを浮かべていたのはいうまでもない。日高との壮絶な競り合いを制したようにエンジンも好調なので、明日も面白い存在だ。

 準優勝戦が始まる10R前からは、レース後を除いて、静寂がピットを支配していた。整備室やペラ小屋にいる選手も普段より少なかったが、もちろん、皆無であるはずはない。
 とくに、藤田美代が、じっとエンジンを見つめていた目は印象的だった。なかなか納得がいかないという表情ではあったが、あきらめの表情ではまったくない。なんとかしたい、という強い意志が感じ取れたのだ。

tanigawa  最後に付け加えておきたい。昨日からそうだったが、日高とともに、ついつい目に留まる存在が谷川里江だ。とにかく一日中、無表情にも近い、感情の読み取りにくい顔つきで、きびきびと動き回っている。今日は3着に敗れて優出はならなかったが、そのレース直後も表情は大きく変わらなかった。悔恨がないはずはないだろう。それでも冷静に、結果をそのまま受け入れているような顔をして、その視線を前に向けていたのだ。(PHOTO/中尾茂幸、内池久貴=徳増  TEXT/内池久貴)


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