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この特集では田中工業「黒須田守」をはじめとした5名のライターから競艇にまつわるさまざまなレポートをお届けします。
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美しき敗者たち――優勝戦、後半のピット

 レース後の淺田千亜希は、遠くを見るような目をしていた。
IMG_0703 いま、闘いが終わったばかりだということが、ひしひしと伝わる表情だった。他の選手に比べても、自分を納得させるのに時間を要したようで、その顔には疲労の色がハッキリ見えていた。
  そんな淺田が、ある瞬間に、堪えきれなくなったように、それまでの厳しい表情を解いて、涙をにじませたのだ。それは、第6回女子王座を制していた佐藤正子さんに声をかけられときだった。瞬時に目を赤くした淺田は、「悔しい!」と、はっきり口にして、佐藤さんに肩を抱かれた。
「簡単に獲れないからこそ価値があるのよ」
 佐藤さんに言われた淺田は、強くうなずきながらも、肩を落としたまま引き上げていった……。
 1R前の公開インタビューでも「最後まであきらめずに走ります」と話していたように、女子王座獲得に向けて、淺田は静かな闘志を沸々と燃やしていたわけだ。レース前のピットではリラックスしていたようにも見えていて、そこまでの気迫は感じ取れなかったのだから、筆者も未熟である。優勝戦に乗った6人のなかで、誰よりも強い気持ちを持ってレースに臨んだのは淺田だったのかもしれない。

 いや、淺田だったと確信したいところだが、もう一人、忘れてはいけない存在がいるのだ。
IMG_5670   それが海野ゆかりだ。午前中から海野は、緊張とリラックスを程よいバランスで融合させていた。作業をしている海野の姿を見ていると、女王に最も近い位置にいるんだろうな、と疑わなかったほどだ。展示航走のあと、蛇行戒告のため、競技本部への呼び出しを受けたときにも、海野は、それほど動揺することもなく、「大エンスト」と報道陣に笑いかけてから、競技本部に向かっていったのである。
 レースの詳細は、この記事では省略させていただくが、進入の際の海野の動きが、女王の座に対する強い気持ちの表われだったことは改めて書くまでもあるまい。レース後、外見的にはサバサバしたような表情をつくって、角ひとみと話をしていたが、笑っているその目は、少しだけ赤かった。

IMG_0480  日高逸子についても触れないわけにはいかない。午前中のピットにおける日高は、前日まで身にまとっていたオーラをなくしてしまったようにも見え(あくまで個人的な印象だが)、正直、舟券的にもいらないだろうと思っていたのだ。だが、午後に入って、レースが近づいていくとともに、少しずつ周囲の空気が変わっていった。 前日までに比べれば緊張の色合いこそ少しだけ薄くなっていたものの、勝利を渇望する一流アスリートのオーラをハッキリ放ちだしたのだ。10R前になってまでまで、ギアケースを外して調整をしていたことにも驚かされた。最後の最後まで、勝利を掴むためにできることを続けていたのだ。それでいて、レース後は、敗戦という結果をしっかり受け入れていることは、その表情から伝わった。この人はやはり違う! そのことを再確認させられた一日だった。

 朝からレース後まで、ずっと同じような顔をしていた選手も二人いる。
IMG_0060   一人は徳増宏美だ。緊張しすぎることもなく、笑顔を振りまき、一日中、いい表情で作業をしていたが、レース後もその笑顔は消えなかった。初めてのGⅠ決勝! それも地元・浜中湖における女子王座決定戦!! その大舞台で闘うことを、心の底から楽しめたのだろう。これからの徳増は、地元・浜中湖に限らず、怖い存在になっていくかもしれない。

IMG_0089 もう一人は永井聖美だ。この日の永井は、終始、固い表情をしていた。それは、永井の姿を見たものは誰でも口を揃えて言うことだ。
  11R前、ひとからプレゼントされたという、くまのプーさんの着ぐるみのような帽子(?)をかぶった茶谷桜が永井のそばに寄っていき、「元気出せよ、いいことあるから」と声をかけたほどなのだ。美しき友情である。“プーさん”桜は、カメラマンにレンズを向けられると、「やめてください、本当に」と撮影を拒絶したように(結局、撮影したが……)、その姿を本気で恥ずかしがっていたにもかかわらず、ピットのいちばん奥まで、その姿で歩いていったのだ。桜としては、そうして無理をしてでも、永井を励まさずにいられなかったわけである。それほど永井が身にまとっていた緊張の色は濃いものだった。
 レース後も、その表情はほとんど変わらなかった。心なしレースが終わったことにホッとしているようにも見えたのだから、今日のレースは、ひたすら無我夢中で、周囲の状況もよく見えていなかったに違いない。だが、それはそれで経験だ。来年の女子王座では、ひとまわり成長した姿を見せてくれることだろう。

IMG_0149  最後になってしまったが、横西奏恵である。
 午前中の横西は、リラックスしたいい表情で作業をしていたが、レースが近づくにつれて少しずつ表情を硬くしていった。さすがに女子王座の1号艇だ。その使命感とプレッシャーがじわじわと横西の心を絞めつけていったに違いない。横西は潰れるか!? そんなふうにも危惧されたほどだった。その重圧を跳ね飛ばし、見事な勝利を飾ったのだから、それだけの緊張も、いい意味で自分の力に変えることができていたのだろう。
  ウイニングランを終えて引き上げてきた横西の第一声は「やったぞお!」。そこに抱きついていったのは、今節には出場していないのに応援に駆けつけていた池田明美・浩美姉妹だ。こちらもやはり、美しき友情である。今夜はきっと最高の酒が飲めることだろう。
 おめでとうございます! 横西奏恵!!
   (PHOTO/山田愼二 TEXT/内池久貴)


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