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この特集では田中工業「黒須田守」をはじめとした5名のライターから競艇にまつわるさまざまなレポートをお届けします。
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男も惚れる男たち――準優勝戦、後半のピット

 整備室やペラ小屋に閉じこもる準優メンバーはなく、落ち着いた雰囲気のまま、時間は流れていった。
1_1  カメラを向ければ、作業の手を止めて、こちらに応えてくれる選手も少なくなかった。柾田敏行などは、いきなりカメラに向かってVサインをしてきてくれたので、ピンボケ写真が一枚、できあがったくらいだ。
 雨になることも心配されたが、時おり小雨がぱらつく程度で、大きく天候が崩れることはなかった。

 そして迎えた10R。いきなり1周1マークで池上哲二が転覆するアクシデントもあった中、石川正美が1着、小林昌敏が2着で、優出を決めている。
2  引き上げたきた小林は、メットをしていても笑みを浮かべているのが、はっきり確認された。そうして、素直に喜びを表現していた様子を見ていて、こちらも嬉しくなってきたほどだ。
 対する石川は、メットを取っても表情を変えない。
 勝利者インタビューでは「以前のように、勝とう勝とうという意識がなくなって、一生懸命やっているだけです」と話していたが、その言葉をそのまま「顔」に張り付いているような“実直な職人”といえるだろう。名人戦のピットにいることが誰より自然に見える選手の一人だ。

 11R。このレースでも転覆のアクシデントが起きてしまった。ここで転覆したのは、モンスターエンジンを引っさげて準優進出を果たし、午後の早い時間には筆者に対してVサインを送ってきてくれた柾田だ。
 救助艇がすぐに引き上げ、そのまま救急車で搬送されることになったので、大事に至らないかと心配されたが……、その後に、右大腿骨頚部骨折(全治30日以上)と発表されている。決して軽症とはいえないものの、担架に乗せられて、頭を動かすこともなく運ばれていく様子を見ていたので、とりあえずはホッとした。できるだけ早い復帰を祈りたい。

 さて、このレースは、1着・金井秀夫で、2着が松野京吾だ。
3_3   金井にとってはいつものことだそう だが、ボートに乗った状態で、メットを脱いで引き上げてきた姿を見て、まずはしびれた。そして、勝利者インタビューに答える“枯れた声”も渋すきで、もう一度、しびれてしまった。
「ケガをして苦労して立ち直ってここまで来れたんで、感慨深いですね」
 インタビューでそう答えていた金井の背中には、『報恩』の二文字が見つかる。これは、ケガをしているあいだに知った本願寺住職の言葉だそうだが、金井の背中にこの言葉はよく似合う。
「金井さん、あなたについていってもいいですか」
 そう言って、弟子入りを志願したくなったくらいだ。

4_1  2着の松野は、ここまでの道程を「正直、苦しかった」と振り返っていたが、こうしてきっちり優出を決めているのは、さすがの一語だ。名人戦のピットでは、先輩選手たちに気を使っているような場面も見かけられるが、モーターの状態もいいとはいえない中で、自分の役割を果たしているのだからプロである。

 12R。レースが始まる頃に、水面の手前に、西和則の姿を見つけた。近くに行ってみると、寡黙な印象のある西は「よし! やった!!」という掛け声を発していた。確認してみると、同期である水野要を応援していたとのことだ。自分自身、10Rで4着に優出を逃したあとでも、人知れずこうした声援を送れる西は、やはりカッコいい。
5  その水野は、しっかり1着を取って、優勝戦の1号艇をゲット! 減量をしてここに挑んできた水野の名人戦連覇は、現実味を帯びてきたといえるだろう。
 レースの少し前には、緊張した表情が見られていたが、インタビューではやはり「今日の1号艇はいちばんプレッシャーがかかりましたね」と答えていた。明日は、自然体で臨めるのか、と気になるが、少しくらいのプレッシャーはプラスに作用させられるものと思われる。
 このレースで2着に入ったのは、この名人戦において、記者やファンをうならすレースを見せ続けてくれている万谷章だ。
 ピットの様子を見ている限りでは、失礼ながら「ただのおっさん的な佇まい」を醸し出しているのだが、いざ勝負にいけば、こうして結果を出してくるのだから、“本当の勝負師”だ。
 そして、レース後の勝利者インタビューでは、とぼけた感じの受け答えで、味、だしまくり!
 とくに、インタビューが終えられようとしていたとき、「今までGⅠで優勝した最年長者は誰ですか?」と自分で報道陣に質問しておきながら、報道陣がそれに答えようとしている途中で、「年のことはいいです」と言ってしまったのには、絶句させられた。かなり高度な一人ボケ&一人ツッコミだったが、計算ではなく“天然”で、この技を出していたのだから、スゴすぎである。この受け答えを見ていて、万谷にもついていきたくなったものだ。

 今回の優勝戦メンバーについてはいろんな見方ができるだろうが、個人的には、この名人戦の味わいが集約された、実に素敵なメンバー構成だと思っている。このドラマがどのように幕を閉じるのか、と本当に楽しみだ。(TEXT&PHOTO/内池久貴)


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