この特集について
ボートレース特集 > 紙一重――優勝戦、後半のピット
この特集では田中工業「黒須田守」をはじめとした5名のライターから競艇にまつわるさまざまなレポートをお届けします。
ライタープロフィール
カテゴリー
関連リンク
競艇サポーターズ
関連書籍

 ボートレース特集

紙一重――優勝戦、後半のピット

 名人戦の優勝戦光景が再現されたわけではないのだが、「緊張の1周1マーク」から坪井康晴が抜け出した瞬間、大きな拍手と歓声がピットを包んだ。
Img_4400b  なにせ、地元・静岡、坪井のSG初優出である。運営の手伝いに来ていた若手選手や、浜名湖のスタッフたちがこれを応援しないわけがなかった。食い入るようにピットでモニターを見つめていた誰もが、自然発生的に安堵の声をあげ、喜びを表現したのである。
 今年3月の女子王座の際にも、準優で徳増宏美が2着に入ったときには、これに近い現象が起きていたのだから、静岡の選手やスタッフは本当に熱い! いや、普段の様子を見ている印象から言えば、熱いのではなく温かいといったほうが適切だろうか。温かいうえに、仲間意識も強いのである。菊地孝平などは、レース後、坪井がまだウィニングランも済ませてないうちから迎えに出て、ひとりバンザイをしながら、自分のことのように喜んでいたものだ。
 前半のピットリポートでも書いたことだが、朝から坪井の表情が硬かったことは、事実だといっていい。それは優勝戦直前まで変わらなかったし、1号艇でのSG初優出で、緊張と無縁でいられるわけがない。先輩の服部幸男や仲間たちと話をしているときなどには笑みを浮かべていることも多かったものの、そんな笑顔はどこか強張っているようにも見えていた。
Vs3i0064b_1  勝利者インタビューにおいて、坪井は「これがホームゲームなんだなという気がしました」とも話していたが、周囲の温かい声と気持ちが、坪井を後押ししていた部分もあったのに違いない。
 レース回顧については、別の記事で挙げられているが、「0.03のスタートと、1周1マークの微妙な旋回」という紙一重のレースぶりからいっても、坪井は、いろんな意味でギリギリのところで戦っていたのだろう。
 普段から、レース前には「10分前にカポックを着る」などと、小刻みなタイムスケジュールを決めているという坪井は、今日もその通りにレース直前の時間を過ごしていたそうだ。
 たとえば本番ピットに入ってからは、長い時間、「何かを拝むようなポーズ」を取っていた。昨日も同じ様子が見られていたので、これもやはり「いつもの決められた行為」なのだろう。拝みポーズのあとには、ボートに仰向けのようになって精神集中……。そして、ピット離れの間際には、最後の屈伸運動……。そうした「一連の予定行動」の中で、アドレナリンが頂点に達したのか、逆に鎮められたのか。そのどちらなのかは、わからなかったけれども、それによってようやく、あのギリギリの戦いができる精神状態になっていたのかもしれない。
 紙一重の部分もあったとはいえ、坪井が「強い心」の持ち主であることは間違いない。その勝利は心から祝福したいし、今後の飛躍も期待したいところだ。

Img_4351b  優勝戦間際の時間帯において、目を離せなかったのは辻栄蔵(3着)だ。とにかく、レース前1時間くらいの辻はすごかった!
 他の選手などに声をかけられたときには「ハハハハ」と大きな笑い声を上げたりしていたものの、それ以外のときには、ひたすらペラと向き合い続けていたのだ。朝からずっと、ペラ調整は続けていたのだが、とにかく片時も目を離したくないような状態になったのは10R前あたりからだ。
 ボートにペラを付けてエンジンを回したあとに、「哲学者」のような顔つきになり、長く考え込む。そして、ペラを外すと、ペラ小屋に駆け戻り、再びペラを叩く。そんなことを、何度も何度も繰り返していたのである。
Tsujidash  納得いかない部分が大きすぎたのか。それとも、ある程度まで納得できているからこそ、これ以上は考えられないというほどの極限状態にまで持っていきたかったのか……。
 そのどちらなのかは、なかなか判断がつかなかった。なにせ、ボートとペラ小屋の往復作業は、11Rの締め切りが「あと3分」だというアナウンスが流れるまで続けられていたのだ。そして、発売締め切りが間もなくであることを知らせるブザー音が鳴りだしてから、ようやく駆け足で戻っていったのだ。それから数分も経たないうちに、展示ピットに入るため、カポックを着て出てきたのだから、忍者さながらの綱渡りだったのである。
 展示航走のあとで見られた辻の顔には、さすがに憔悴の色が見られたものの、納得できているような笑みが浮かんでいた。その際の通り道で、インタビューを受けていた菊地の前を通るときには、カメラに向かって、おちゃらけた顔まで向けて「いらぬサービス(?)」をしていたほどだ。
 やはり、あの時点で辻は、納得の仕上がりにできていたといっていいはずだ。レース後には「スタートはナイスショット」「出足は良かったし、乗り心地も良かった」とコメントしている。
 また、1周1マークの紙一重の攻防については、坪井が「辻選手に申し訳なかった」ということを何度も繰り返していたのに対して、あれは「自分の判断ミス」と言ったのだから、辻という選手は、どこまでも気持ちがいい男だ。
 心技体――。今日の辻は、背中にそんな三文字が書かれたTシャツを着ていたが、それらが揃っている男だとも言っていい。

 残りの四選手についても、レース後はそれぞれに、結果を納得できていたようだ。
Img_4291b  とくに2着の山崎智也は、結局、今日は、ほとんどモーターやペラを整備し直すことがなかったが、昨日の時点で仕上がりに納得できていたからこそ、手をつける必要がなかったのに違いない。午後になってからも原田幸哉や向所浩二と話しながら、曇りのない笑みを見せているようなところが何度も見られたものだ。
「1マークでもっとしっかり差してよけばよかった」と、あの攻防を振り返りながらも、「エンジンは十分、納得している」「これでスタンダートでもいけるのがわかりました」とコメントしている。
 今日にしても、1着は取れなくても2着は外さない。そんなレースができる今の智也は、やはりすごい!
(PHOTO/山田愼二、池上一摩=辻・下 TEXT/内池久貴)


| 固定リンク | コメント (1) | トラックバック (0)
トラックバック
この記事のトラックバックURL:
コメント

@nifty記者方々、お疲れ様でした。
今回も楽しく記事読ませて頂きました。
坪井康晴選手。男になりましたね。
私ももっと安定感のある予想をして、節間全レース集計プラスを目指します。
また、頑張ってペラ叩いてきます。
では、次回オーシャンカップも宜しくお願いします。

投稿者: しげ爺 (2006/06/28 1:25:23)
コメントを書く




※メールアドレスは外部には公開されません