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この特集では田中工業「黒須田守」をはじめとした5名のライターから競艇にまつわるさまざまなレポートをお届けします。
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連鎖する喜びと焦燥――準優勝戦、後半のピット

 ふうっ。
 10R。レースから引き上げてきた植木通彦は、大きく息を吐き出した。勝負に出ての3着だった。
「おとなしく2着を走っていればよかったかな」。そんなコメントも残していたが、確かにそういうレースをしていたならば、優勝戦に残れていたには違いなかった。
 それでも、自分で口にしているほどには、艇王の表情に、悔恨の色は見られなかった。地元SGだからこそ、勝負に出たのだし、結果については仕方がないと割り切れていたのかもしれない。
 SG優勝戦に乗る植木の姿はやはり見たかったが、このレースでは「いいものを見せてもらった」という思いが強く残った。こういう勝負が見られてこその競艇だからである――。

1img_4945  レースの詳細については、レース回顧の記事に譲るが、植木が1着をもぎ取りにいったことで生まれた隙に飛び込んだのが魚谷智之(1着)である。
 本人は「ビックリしました。笑いながら入っていきました」と語っているが、もちろん、そんな余裕があったはずはないだろう。前半戦のピット原稿でも「オーラに近いものが感じられた」と書いているが、自然体でレースに臨めていたからこそ、一瞬のチャンスを逃さず優出を決められたのである。
 魚谷は、その後も、同期の横西奏恵と笑い合ったりしながら過ごしていたが、明日も、今日と同じような表情で過ごすことができたなら、もうひとつ上の大きな仕事を果たしてくれるかもしれない。

 このレース、2着の坪井康晴は、レース後しばらく複雑な表情をしていたように思われた。
 共同会見が終わりかけていた頃、モニターにレースのリプレイが映し出されると、「どんなレースか見たいですね。それで反省します(笑)」と言って、本当にモニターに見入ってしまった。
 そして、はっきりとは聞き取れなかったが、「やっぱり反省ですね」というようなことをぼそりと言って、苦笑いを浮かべながら、会見場を去っている。
 優出の権利を獲得しても、納得できないところは素直に悔やむ。あくまでも貪欲なSG覇者の姿勢がそこに窺えた。

3r0010758  11R。こちらもまた波乱のレースとなってしまい(やはり詳細は、レース回顧記事を参考にしてほしい)、仲口博崇(転覆)と接触して失格になった田村隆信がレース中に引き上げてくると、レースをそっちのけにして田村のもとに走った。
 田村の引き上げを手伝っていたのは、同期の井口佳典と森高一真だったが、こうしたときには声をかけないのが一番というように無言で作業を手伝っていった。もちろん、レースが終了して、田村が他の選手たち全員に謝罪を終えたあとには、再び井口や森高が田村のもとへと寄ってくる。そうやって、田村がある程度の冷静さを取り戻した頃合いを見計らって慰めの言葉をかけていたのだ。
 結果論といわれるかもしれないが、実はこのレースの直前、筆者は黒須田記者に対して「なにか田村に落ち着きがない気がする」ということを話していた。
 これはあくまで想像に過ぎないが、85期の3人が3つのレースに分かれて準優勝戦に臨んでいたのだ。そのことで心に期するものがあったのではないのだろうか。そこで、10Rの井口が躓いてしまったために(4着)、「自分こそが!」という気持ちが強く出たのではないかとも思われるのだ。
 先走りになるが、12Rの85期・湯川浩司も、やはりレース前には緊張の表情を浮かべていた気がするし、そして結局、6着に敗れているのだ。単なる勘繰りと言われればそれまでのことだが、85期3人の結果には、「負の連鎖」のようなものを感じずにはいられなかった。
 ちなみに、接触の当事者である仲口は、問題のシーンを振り返って「いちばんスピードが出ていたときなんで、一生懸命やっても、人間の力ではどうしようもなかった」と語っている。その言葉には憤りに近いものが感じられるわけだが、それを引きずったりはしないところが競艇選手の素晴らしいところだ。
 12R前になると、長い間、田村と話しているところが見かけられた。ひたすら申し訳なさそうにしていた田村に対して、笑みも見せていた仲口は、やっぱり男なのである。

4img_6323  85期に感じたのが「焦燥の連鎖」であったなら、「喜びの連鎖」を感じさせられたのが、兵庫支部と静岡支部だった。
 11Rでは、兵庫・吉川元浩が1着、静岡・重野哲之が2着となり、それぞれ10Rに続くかたちで各支部2人目となる優出を果たしているのだ。
 この日の吉川は、朝から誰よりも熱心にペラを叩いていた一人だった。レース後の共同会見では、表情が重いようにも見えたが、「一走入魂で、魚ちゃんと一緒にがんばりたいと思います」と、笑顔で会見を締めくくっている。同期のつながりだけではなく、同支部のつながりだって、やっぱり強いわけである。
 一方、SG初出場初優出のプレッシャーはないかと記者陣から訊かれたときに「(同支部の)坪井さんがいるんで」と笑っていたのが重野だ。
 この日の重野は、あまり作業をしているところを見かけられなかったが、他の選手たちとは離れた場所に腰掛けて、長い時間、静かに水面を見つめている姿が2度、3度と見かけられた。そうやって、自分なりに精神統一していたのだろう。一日中厳しい表情をしていた重野が、レース後になって爆発させていた笑顔がとても印象的だった。
「(こんなことは)最初で最後なんで」とも口にしていたものの、明日の重野が「もうひとつ上の欲」を出す気になるかが注目される。

5img_6521  12R。こちらはとりたてて連鎖と強調するほどのことはなかったけれども、勝った松井繁のもとに駆けつけた魚谷智之が、ピットに響き渡るような大きな声で笑っていたのは新鮮だった。
 その松井はレース直後、横西奏恵の拍手で迎えられると、昇降機の手前でウィリー風に、ボートをウィ~ン。
「おお! 決めてくれるなあ」と見ていたら、ボートを降りてヘルメットを脱いだ瞬間には、口を真一文字に結んで厳しい表情になっていた。そんなところでは、王者の風格を見せつけられた気がしたもののだ。
 初日、2日目と躓いた松井は、4日目の勝負駆けを見事に決めて、さらにはこの勝利で優勝戦1号艇をゲットしたのだ。こうした足取りと、プライドあふれる表情を見ている限り、明日の「銘柄一人旅」も現実味を帯びてくる。

6r0010762  このレース、2着は中村有裕だった。レース前にはお得意のストレッチを行なっているところも見かけられたが、「大一番に向けての理想の精神状態のつくり方」はすでに掴みきってといえるのかもしれない。
 レース後はすぐにインタビューには向かわず、自分のボートを洗い続けているのも彼らしいところだった。同支部の先輩・守田俊介にそれを手伝ってもらい、気持ちもほぐれていたのだろう。共同会見の最後には「インコース以外でSGを獲れるチャンスが巡ってきたので、楽しみにしてます」と口にしたのだから、こちらも楽しみになってきた。
 こと「名前」でいうならば、松井が抜けているには違いないものの、勢いに乗る男たち5人が、どんなレースで松井に挑むのか――。優勝戦のピットの様子と本番の熱闘が楽しみになってきた。
(PHOTO/山田愼二、内池 TEXT/内池久貴)


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