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この特集では田中工業「黒須田守」をはじめとした5名のライターから競艇にまつわるさまざまなレポートをお届けします。
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12戦士、集う――賞金王決定戦、前検のピット

 能書きはあえて書くまい。賞金王決定戦、ゴングが鳴った。
 本日は前検。9時30分から公開でボート・モーター抽選を行ない、昼前には装着。その後、点検や調整、試運転などを行ない、8R発売中に明日の11R組が、9R発売中に12R組が前検航走(スタート練習、展示)を行なった。その後は、共同インタビューに応えたり、整備や試運転を思い思いに行なっている。
 何はともあれ、12名のピットでの様子を記していこう。

 まず、初出場組だ。
2006_1220_01_597  表情の良さが目立ったのは、中澤和志だった。総理杯優勝以来、もうひとつの成績が続いて、賞金王を迎えることになってしまった中澤、その間のSGではピットでもあまり目立ったところがないというのが正直なところだ。しかし、今日はハッキリと目につく清々しい表情。なんだか、去年の笠原亮を思い出した。共同会見では、モーターに大きな手応えを感じたとも語っていて、前検航走以降はほとんど手をつけずに格納したようだ。しかも、ほんの一瞬のことだったので確証はもてないのだが、もし見間違いでなければ、帰宿の一便に乗り込んだように見えた(10R後に出発)。実際、11R近辺から後、決定戦組で姿を見かけなかったのは、中澤とあと一人だけ。台風の目は、ズバリこの人ではないか、と思う。
 坪井康晴も、前検後は比較的のんびり過ごしていたクチ。まったく気負ったところもなく、テンションが上がっていない。いつもの坪井康晴がそこにいる。これはすごいことだろう。「やっぱり雰囲気が違いますね。……周りの見る目が(笑)」。うん、これはかなり冷静だと言えるだろう。実際のレースを迎える明日、どう変化を見せるのか、注目してみたい。
2006_1220_01_055  魚谷智之は、たとえば吉川元浩あたりとピット内を移動したりしているときには、笑顔が目立った。「心も身体も最高の状態で、ここに来れました」と会見で語っていたが、たしかにその様子はアリアリとうかがえる。メンタルトレーニングで精神力を高めたという魚谷、明日も明鏡止水の心境で迎えるに違いない。「力を出し切ります」、開会式などで最近そう言うことの多い彼だが、それが可能なメンタリティを身につけたのだ。初出場なんてことは、まったくどこ吹く風で戦える男だろう。
  いつも通りだなあ、と言わざるをえないのは中村有裕。必死にモーターと向き合い、とことん点検をし、ひたすら調整に時間を費やす。その姿勢が誰かに似てるなあ、と思ったら、今垣光太郎ですよね。で、そんな彼だから、雰囲気はいつものSGとまったく同じ。ことに、MB記念以降のユーユーとは1ミリも違いがないように思える。調整を終えた時間はかなり遅い部類だったのだが、そのうえで「悪いところが見つかりませんでした」と会見で語っているのだから、機力も問題はなさそうだ。トライアル初戦のレースぶりが楽しみな一人である。
 もっとも緊張感が伝わってきたのは、意外なのかそうでないのか、ともかく三嶌誠司だった。決してガチガチになっている感じではないけれども(前検からそうだったらヤバいし)、チャレンジカップの優勝戦の日よりも表情に硬さを感じるのだ。「賞金王では勉強してきます」とチャレカ優勝後に語っていた三嶌だが、もし結果を意識しすぎてのこの雰囲気だったら、ちょっと気になる。明日、三嶌の表情に変化はあるだろうか。

2006_1220_04_135  整備室で長く過ごしたのは、川﨑智幸である。12R前まで本体を開いていたのは、彼だけである。何しろ、共同会見に現われるヒマがないほど(いちばん最後の登場でした)、徹底的に調整を続けていたのだ。前検からここまでやる選手は、ほとんど見たことがないぞ(光ちゃんだって、こんなにやっていたかどうか……)。明日も同じ時間を過ごすのだろうか。トライアル12R、川﨑の整備状況(部品交換)には注意して見てほしい。彼が今日誰よりも相棒と接していたのは間違いないからだ。
 濱野谷憲吾もまた、かなり長く整備室にいた一人だ。川﨑ほど大がかりに調整していたふうには見えなかったが、真摯な表情でモーターと触れ合う姿が印象的だった。整備室にいない時間は、ペラ室でも姿を見かけた。両方をバランス良く調整していた、という感じだろうか。ひとまず、明日前半の動きをちょっと注目してみたい。

2006_1220_01_536  ペラ室で姿をよく見かけたのは、ディフェンディング・チャンピオンの辻栄蔵。実は、モーター装着後、ボートを水面に降ろしたのがもっとも遅かったのが辻で、装着場にボートがある間も、ペラが外されていたのだから、早くからペラをチェックしていたということだ。着水する直前、辻と挨拶を交わしたのだが、そのときの表情はもう、ひたすら明るく、満面の笑顔。思わず嬉しくなった僕であるが(笑)、すいません、そのため、その笑顔に硬さとか気合とかが隠されていたかどうかは判断できませんでした。ただ、会見での様子は「気合モード」に突入している感じで、ジョークを程よく織り交ぜながらも、言葉の端々に力が入っているように感じられた。連覇、あるかもしれないなあ。そう思った。
 エース機を引き当てた瓜生正義は、見かけるのはもっぱらペラ室、という感じだった。いや、もちろん試運転もしてるし、整備室でも見てるんだけど、ペラ室で過ごした割合がもっとも高かった一人のように思えた。で、かなり先入観に影響された物言いとなることは否定できないけど、少なくとも去年より、表情に力強さがあるように見えるのである。エース機を引いた心強さなのか、それとも今年の瓜生は一味違うのか。まずは明日のトライアル初戦で、そのへんの判断をつけてみたい。ちなみに11R6号艇で、5号艇に上瀧和則がいるが、「コースは上瀧さんについていきたい」と表明している。6コースと決め打ちして考えないほうが良さそうだぞ。

 さて、今日の決定戦組で、もっとも慄えたのはこの二人だ。
 松井繁と上瀧和則である。
2006_1220_01_585  まずは松井だ。決定戦組で試運転に最初に飛び出したのが、松井と坪井だった(足合わせでした)。早く試運転すりゃいいってもんじゃないけど、その前向きな気合にまずは唸った。いったん試運転を中断し、ピットに戻ってくると、これがまた、実にリラックスした表情ではないか。肩に力が入りすぎているとか、入れ込んでいるとか、そんな状態とは正反対の穏やかさなのである。笑顔もたくさん見られた。まさに王者の笑顔と見えた。
 かと思うと、ピット内を一人歩いている姿からは、明らかにオーラが見えるのだから、圧倒される。何といえばいいのだろう……緊張とリラックスの調和なんていうレベルではなく、存在そのものがすでに突き抜けているかのような、“強者”の象徴と映るのである。
 驚いたのは、さらに遅い時間帯だ。11R前、なんと試運転用ピットに松井のボートが繋留されていた。ん? 松井、まだ試運転するなのか? そうなのだ。あの松井が、こんなに遅くまで水面を走りまくったのである。弟子の山本隆幸との足合わせを何周も何周も続け、再び繋留所に戻ってくると、微調整をしてまた水面に飛び出していく。まるで新人選手が旋回の練習をするかのごとく、いつまでもいつまでも走り続けたのだ。結局、12R発売中もまだ走っていたのだから、畏怖するしかない。その合間に行なわれた会見では「明日、何もせんでいいように、今やってるんです」と言ってはいたが、それにしたってすごいことだ。これが王者か。これが真の王者の姿か。賞金王決定戦というのは、この人がいなければ始まらない。昨年は不在だっただけに、なおさらその思いを強くさせられた、王者の前検だったのである。
2006_1220_04_101 そして、上瀧。何を隠そう、本日、シリーズ戦の選手も含めて、いちばん最後まで試運転をしていたのは、この男である。そう、松井よりもさらに遅くまで、水面を走り続けたのである(そんなに差はなかったけれども)。上瀧がようやく試運転を終えたのは午後4時15分。試運転が許されるギリギリの時間まで、上瀧は走りに走ったのだ。
 声も出ないほど驚嘆していたら、長嶺豊さんも同様のようだった。「クロちゃん、すごいよなあ。こんな時間まで走ってるのは、上瀧と松井だけやで。すごいよなあ」。長嶺さんは、続けて決定的なことを言った。
「明日走るのは、この時間帯やもんな」
 そうか、そういうことか。松井も上瀧も、だからこそ最後まで水面から離れようとしなかったのだ。今日と気候がそれほど変わらなければ、時間帯による気温や湿度などの気象条件も変わらないはずだ。だからこそ、その手応えを確かめずにはおれなかった。松井や上瀧ほどの選手が、そこまでやっていたのである。凄すぎるよ。本当に凄すぎる。ここまで勝負に純粋になれる松井と上瀧は、最高の競艇選手である。

2006_1220_01_060  さて、賞金王です、思い切り気にさせていただきましょう、気になる山崎智也。えっと、中澤の項を読み返してください。「11R近辺から後、決定戦組で姿を見かけなかったのは、中澤とあと一人だけ」、それが智也なのであります。試運転に出たのは松井と坪井の次と、早い部類だった智也、仕事を終わらせるのも早かったということだろうか。松井と上瀧の姿を絶賛した舌の根も乾かぬうちに何だが、こうした決断の早さもまた強者の証ではある。前検航走前には、エンジン吊りなどで姿を見かけているが、笑顔と凛々しさが絶妙にブレンドされた、いい表情ではありました。気合、こもってると思うぞ。悲願の賞金王奪取に向けて、明日は素晴らしいレースを期待してます!(PHOTO/中尾茂幸 TEXT/黒須田守)


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