この特集について
ボートレース特集 > 心の闘い――賞金王決定戦ファイナル後半のピット
この特集では田中工業「黒須田守」をはじめとした5名のライターから競艇にまつわるさまざまなレポートをお届けします。
ライタープロフィール
カテゴリー
関連リンク
競艇サポーターズ
関連書籍

 ボートレース特集

心の闘い――賞金王決定戦ファイナル後半のピット

 一年に一度の数時間……。午後のピットに居ることで、この時間がいかに特別なものであるかが実感された。

1img_9264  午前中もピットを取材して、記事をUPするためにいちど記者席に入っていたわけだが、その後にまたピットに戻ってみると、空気がはっきり変わっているのがわかったのだ。そして、空気以上に変化していたのが、選手たちの「顔」だった。
 まず、目を引かれたのが山崎智也だ。前半のピットリポートでは「不機嫌そうにも見える特有の表情」と書いていたが、午後の智也は、男が見てもドキドキするような「色気漂う表情」になっていたのだ。
 結果はともかくとして、今日の智也は最高の精神状態でレースを迎えられたものと思われる(写真はレースが近づいてきていた時間帯のもの)。
 レース後には、結果を自分の心に刻み付けるような引き締まった表情も見せていた。今年前半には、絶対的なまでの強さを見せつけていた智也だが、その輝きは少しも失われていなかったのだ。

2doukis  もう一人、その表情が強く印象に残っているのが瓜生正義だ。智也の表情に色気が漂っていたのとは違い、瓜生の場合は、なんとも「澄んだ目」になっていたのだ。これはもちろん、こちらの勝手な想像に過ぎないが、無心に近い状態になっていたからこそ、こうした“顔をつくる”ことができていたのだと思われる。
 魚谷智之もまた、智也や瓜生とは違う表情をしており、こちらは心からリラックスしきれているのがわかる笑みを何度も浮かべていた。JLCのリポーターから「緊張してない?」と訊かれると、「ぜんぜん!」と答えながら、かちこちになっているようなロボット歩きを演じてみせただけの余裕があったのだから驚かされた。
 魚谷と瓜生は同期であるわけだが、そこに原田幸哉と横西奏恵も加わり、とても大一番前とは思えないほど和やかなムードになっている時間も見られていたのだから、個人的には、魚谷と瓜生と智也が、三者三様の表情になりながら万全の精神状態になっていると考えていたものだった。

3tsub1224  午前中からその表情には大きな変化はなかったと受け止められたのは、坪井康晴と中村有裕の二人だ。坪井は「真摯な表情」で一日作業を続け(写真で、口に咥えているのは整備のための部品)、ユーユーは最低限の作業の中で「いつもの自分」を貫き通した。
 レースの1~2時間前にストレッチをするユーユーがいつもどおりなら、レースでボートに乗り込む前に長い長い敬礼をする坪井もいつもどおり。これができる選手たちの心の強さにも、ただただ驚かされたばかりだ。
 午後のピットで取材をしながら、カメラマンや他のライターと話をするたび、「みんないい顔になっていますね」と声を掛け合っていたものだが、“それぞれのゾーン”に入っていくような「こうした顔たち」を見られただけで、自分がいま、ピットに居られることが、とても幸せなことなのだと実感されたくらいだ。

4r0011766  そして、松井繁である。
 実をいうと、午後の松井は、他の5人とは別の意味で、ものすごく気になった。午前中のピットでは、とびきりの笑顔を浮かべていたかと思えば、すぐにゾーンに入っているような表情に切り替えられるなど最高の精神状態になっていることがその顔から窺えたわけだが、午後の松井はちょっと違ったのだ。他の選手たちと話しているときには笑みを浮かべるなど、一見それほど変化がいないようでいながらも、一人でピットを歩いているときなどには「特殊な表情」を浮かべていたのである。
 緊張感がふくらんできているのがはっきり伝わってきたが、誰が見てもわかるような重苦しさを漂わせていたわけではない。笑みを浮かべ、歌でも口ずさむようにしてスキップに近いような歩き方になっているときなどもあったのだが、そうした振る舞いや表情に、どこか無理があるのが感じられたのだ。少しでも油断をすれば心が押し潰されそうなプレッシャーを感じていながらも、なんとか自分をリラックスさせようと必死に闘っていたのに違いない。
 10Rのシリーズ戦優勝戦で、同期の服部幸男が勝利に手が届きかけながらも2着に敗れたときだけは、はっきりと表情に暗い影があらわれていたものだった。そんなこともあり、正直いって筆者は「このプレッシャーに松井は勝てない」と判断していたのだ。

 だがしかし……。
 松井は強かった! このプレッシャーに打ち勝った松井は、本当に強かった!! その強さを目の前にして、こちらの体が震えるほどの感動が、今日のレースにはあったのだ。

5r0011821_1   1マークを先頭で回ったとき、ピットからは歓声が起きている。他の選手や競艇場のスタッフが上げる歓声とは違い、聞き慣れない類いの女性や子供の声だった。振り返ってみると、それは松井の家族たちのものだった。
 ガッツポーズでゴールを駆け抜けた松井は、ピットに引き上げてきたあと、ウィニングランに出て行く前にその家族のもとへと駆けていった。そして、映画でも観ているような感動的な抱擁のシーンを見せてくれている。
 まだ自身の興奮がおさまらないでいながらも、心底ほっとしているのがわかる表情になった松井は、「ちょっと待ってて」と家族に声をかけてから、ウィニングランを行ない、表彰式に出て行った。
6img_9448  何度も何度も頭を下げて、これまでにはないほど長い時間をかけたウィニングラン。
 そして、第一声とまとめの言葉として「皆さんの声援のおかげで優勝できたと思います。ありがとうございます」と同じ言葉を繰り返した表彰式。
 それらをこなしたあとに再び家族のもとに戻ってきた松井の顔は、そのときようやく「やさしいパパ」のものになっていた。
 松井とは、いろんなバリエーションで「最高の顔」を見せられる男であるのだろう。そして、繰り返しになってしまうが、本当に「心が強い男」なのである! 個人的にはそのことをしっかりと記憶に刻まれた賞金王決定戦であったのだ。

7shig1224 ――最後に付け加えておきたい。勝利後の松井を真っ先に祝福したのが、互いの師匠同士のつながりがあることから親しくしている重野哲之だったが、この重野について、どうしても書いておきたいことがあるのだ。
 一節の最終日ではいつものことだが、ペラ小屋では、土壇場間際まで調整に励む優出選手の作業が続けられながらも、展示航走の少し前あたりには、さっと選手がいなくなり、整理整頓が行なわれて、「無人地帯」になるのが通常だ。そのペラ小屋に残り、他には誰もいないところで作業を続けていたのが重野だったのである。
 この作業は、普通ではとても考えられないことにも、11Rが終わったかなりあとまで続けられ(多くの競艇場では、10R頃までにペラ小屋を片付けることが義務付けられている)、とうとう係りの人がペラ小屋に来て、何かの声を掛けてくるまでやめなかったのだ。重野の視線の先にあるのは、正月シリーズであり、「その後」であるのに違いない。そんな重野の様子を見ていると、聖なる一戦を目前にしながらも、すでに2007年の闘いが始まっていることを実感したものだった。
 重野哲之、この男は化ける! 間違いなく化ける!! そして、この重野に限らず、来年もまた「光り輝く新星たち」が次々と現れてくるのが予感されたのだ。

 競艇は、技術やモーター、ペラだけではなく、「人間力の闘い」であり、「心の闘い」といえるだろう。少なくとも筆者はそう思うし、だからこそ、競艇は最高におもしろいのだ! そのことが再確認された最高のクリスマスだった。
 松井、ありがとう。決定戦の選手たちや、シリーズ戦の選手たち、ありがとう。そして、競艇よ、ありがとう。
(PHOTO/山田愼二=山崎、松井3枚目 池上一摩=瓜生&魚谷、坪井、重野 内池久貴=松井1、2枚目   TEXT/内池久貴)


| 固定リンク | コメント (0) | トラックバック (1)
トラックバック
この記事のトラックバックURL:
賞金王決定戦と有馬記念 【がんばりません】
競艇は好きなので見ることがあっても競馬はワケがわかんないので、何年か前の高松宮くらいしかやったことがなかったのですが、ことしははちょうど開催日に名駅まで出かける都合があったので、両方チャレンジしてみる... 続きを読む
受信: 2006/12/24 19:58:08
コメント
コメントを書く




※メールアドレスは外部には公開されません