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この特集では田中工業「黒須田守」をはじめとした5名のライターから競艇にまつわるさまざまなレポートをお届けします。
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やっぱりスペシャルな舞台――賞金王決定戦、トライアル3日目前半のピット

 トライアル最終戦の朝である。と同時に、賞金王シリーズ準優勝戦の朝でもあり、慌しく動いているのは、こちらの出走選手が多い。まあ、当然である。トライアル出場選手には、まだまだ時間はたっぷりある。というより、勝負の時間はまだ先だ。静かな時を送っているほうが、むしろ自然なのかもしれない。

2006_1222_01_636  そんななか、松井繁が早くも始動していた。昨日のコメントによれば、初戦で気にかかっていたグリップのかかりも良化し、足はほぼ仕上がっているはずである。それでもまだ、松井は満足していないのだろう。シリーズ準優組が試運転に励んでいるなかに、ただ1艇、決定戦組のボートが走る。松井の本気度が伝わってくるシーンだった。いや、本気度などという言葉には収まりきれない、松井の思いが水面に立ち上ったシーンだと言うべきだろう。

2006_1222_01_395 実はもう一人、朝から試運転を繰り返しているのが、気になる山崎智也である。ここまでで、もっとも智也の動きが激しくなっている、と言っていいと思う。試運転を走っては、ペラを外して調整へ。ボートに戻ってくると、ペラを装着して、また水面へ。パワー不足を一気に解消するべく、忙しい時間を過ごしているのだ。移動している際の表情は、闘志の塊とも言うべき、凛々しい表情。端正なマスクが、むしろ威圧感を醸し出しているほどだ。勝負駆けに向けて、智也には早くもスイッチが入っている。機力一変まであると思うぞ。

2006_1222_01_315  整備室の前に、川﨑智幸のボートがあった。モーターは本体が外された状態で、室内を覗くと案の定、川﨑が整備をしていた。初戦でキャブレターを変え、昨日はピストンリング2本、クランクシャフト、シリンダケース、キャブレター、ギアケースを交換。ピットでの川﨑は、モーターと格闘しっぱなしである。さらに今日も、ひたすら整備に時間を費やす。水面で行なわれているレースが終われば、もちろんエンジン吊りに向かうのだが、整備室とボートリフトとの往復はもちろんダッシュ。一秒たりとも無駄にしたくないという風情である。この努力がどこまで実るだろうか。

2006_1222_01_312  大きな動きを見せていたのは、ほぼこの3名と言っていいだろう。装着場のいちばん奥で三嶌誠司が調整をしていて、それが気になりはしたが、あとは比較的穏やかな時を過ごしていた。もちろん、ペラに集中している濱野谷憲吾や瓜生正義なども、川﨑と同様に、「整備をしている」と言うべきなのだが、それでも川﨑のような「何かしなければ、どうしようもない!」とでもいうような焦燥感は、現時点では感じられないのだ。辻栄蔵も、田中信一郎や白井英治らと談笑しながら歩いていたりして(手にペラを持っていたので、ペラ室に向かっていたと思われる)、どこか余裕すら感じられた。
2006_1222_01_400  初出場組も同様で、中村有裕は、表情や動きはまったくいつも通り。魚谷智之は、昨日までと同様、非常にいい表情で、緊張と弛緩をうまくコントロールしているように思える。中澤和志も、決定戦進出が苦しくなってきたからといって、昨日までと表情を変えているようには思えない。坪井康晴にいたっては、中尾カメラマンと談笑していて、何を話しているかと思えば、「カッコいい写真が撮れたのであげますよ、と言ったら、喜んでたよ」とのこと。いや、そんな話もまともにできないほど緊張していたとしたら大いにヤバいのではあるが、それにしても坪井の平常心には驚くしかないだろう。

2006_1222_01_325  ただ、少し考えたことがあった。果たして、平常心でいいのだろうか、ということだ。そりゃあ、いいに決まってるんだけど、賞金王決定戦という舞台の重みを考えると、むしろ普段より始動が早く思える松井や、こちらが気後れを感じるほどの智也のほうが自然ではないか、と思ったりもしたのだ。試運転から上がってきた松井が、僕のすぐそばを通り、すれ違うとき目が合ったので、当然あいさつをした。最近のSGでの松井は、ふっと表情を緩めたりしながら、朗らかにあいさつを返してきたものである。ところが今日は、ぐっと表情を引き締めたまま、小声で「うぃっす」と言いつつ、小さな会釈を返してきただけなのである。あの松井が、明らかにいつもと違う側面を見せているのだ。上瀧和則も同様だ。身もすくみそうな迫力を発散しているのはいつものことでも、そのなかになぜか穏やかさを感じたりする。智也もそうだが、彼らは明らかにスペシャルな何かをまとっているのである。そう考えると、もしかしたら初出場組は「平常心でいなければ」と意識的に気持ちをコントロールしており、しかもそれが必ずしもプラスに働かないのではないか、などとまで考えたりもしたのである。もちろん、それが正しいかはわからないし、正しくても結果に直結するわけではない。ただ、いろんな意味で賞金王決定戦はスペシャルな舞台なんだ……そんなことを考えた前半のピット、だったのである。やっぱり、すげえよな、賞金王って。(PHOTO/中尾茂幸 TEXT/黒須田守)


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