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この特集では田中工業「黒須田守」をはじめとした5名のライターから競艇にまつわるさまざまなレポートをお届けします。
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それぞれの思い――優勝戦後半のピット

「よーし! 80やぁ!!」
 10レースが終わったあと、優出メンバーが次々にボートを展示ピットに着けていく中で、島田一生らと話し込んでいた三井所尊春は、そう叫んでから、ボートを水面に下ろしていった。
 これはおそらく、「前付け宣言」だったと捉えていいだろう。笑い合って話をしていた中で最後に言った言葉なので、どこまで本気だったかはわからないものの、どれだけ深くなっても1コースを取りに行く、という気持ちをあらわすものだったはずだ。
 午前中は作業をしている姿が見かけられなかった三井所にしても、午後にはきっちりとペラ調整を行ない、優出6人のうち、誰よりもいい精神状態でレースに臨めているようにも見えていた。
B1img_0313  だが……、三井所の思惑は、ピット離れから狂ってしまう。
 ピット離れが良かったのは、1号艇・出畑孝典、6号艇・山本修一であり、結局、三井所は3コースに入ることになったのだ。レースについての詳細は『優勝戦私的回顧』に譲るが、さらに三井所はスタートにも遅れてしまい、絶望的なスリット通過になってしまったのだ。レース前は自然体に見えた三井所だが、“勝利への渇望”が誰より強かったことが、裏目に出てしまったのかもしれない。10R後にできていた選手たちの輪の中では“優勝宣言”までをしていたのだから、そうして自分自身を追い込んでいたともいえるだろう。
 道中の踏ん張りによって3着まで押し上げた三井所だが、レース後の顔は、本当に悔しそうなものになっていた。その表情は、かなり長い時間が経っても変わらず、こんな悔しそうな男の顔は見たことない、というほどのものになっていたのだ。
 いろんなことを悔やんでいたのだろう。そして、いろんなことを噛みしめていたのだろう。あえて“失敗”と書かせてもらうが、今回の失敗を噛みしめて、三井所はまた一回り大きくなっていくのに違いない。それができる選手が三井所であるはずだ。

B2debata_1  本命に押されていた1号艇・出畑孝典も、三井所と変わらないほど、いい精神状態でレースを迎えられた選手だと思う。
 展示航走の前には、誰より早く控室の前に姿をあらわして、カメラマンたちのにレンズを向けられる中で、カメラマンを気遣う余裕までを見せていた。仕上がり具合を尋ねられると、「あとは天命を待つだけです」とも答えていたのである。
 だが、その後に「フライングだけはせんように……」と付け加えていたことが、レースに出てしまったのかもしれない。山本の前付けもあった中で1コースは守ったものの、かなり深いスタートとなったうえに、スタートタイミングは、優勝戦の本命としては微妙といえる0.25だったのだ。
 レース後の片付けがひと段落したあとの出畑は、スリット写真を手に取り、食い入るようにそれを見つめていた。その時間はかなり長く、10秒くらいは目を離さなかったのではないかと思う。そして、ぽつりと「あかんわ」と呟くと、そのスリット写真を持ったまま、ピットをあとにしたのだ。
 もしかしたら出畑は、このスリット写真を持ち帰るつもりなのかもしれない。
 三井所が失敗を噛みしめたなら、出畑はこのスタートを忘れない。
 そんな“お土産”を手にして、新鋭王座の舞台を去っていくつもりなのだろう。

B3r0012394  最後の最後まで、優勝があるかと思われた男、それが大峯豊だった。結果は2着に終わってしまったものの、こちらもまた「いい男」である。
 今日一日を通して、作業をするところはほとんど見かけられなかったが、時おりアリーナで他の選手と話をしてるときなどには、見ていて実に気持ちのいい笑みを何度も浮かべていたものだ。とくに展示航走を待つ間には、三井所と話しながら、完全にリラックスできていることがわかる最高の笑みを見せていた。
 展示航走のあと、飄々とした感じで引き上げてきたのも大峯だった。展示航走後はそれぞれに厳しい表情になっていたりするのが普通だが、このときの大峯は「飄々」という他には形容詞が思い浮かばないくらいのムードを醸し出していたのだ。個人的なことを書かせてもらえば、ピット取材をする身として、舟券はかなり早い時間帯に買っておき、電話や投票はできないピットに入ることになるのだが、もしこの段階で買い足すとしたなら大峯だな、という気持ちにもさせられたほどだった。
 そして結果は、「惜しくも……」としか言いようがない2着。
 レース後の大峯は、「ターンミスですね。悔しいです」と記者に対して答えていたが、その悔しそうな表情が、またなんとも「いい顔」だったのだ。
 こういう選手は絶対に伸びる! 大峯とは、ひと言ふた言しか言葉を交わさなかったが、このシリーズを通して、いちばん好きになった選手でもあったのだ。

B4r0012392  早足の解説になって申し訳ないが、江夏満は、今日一日、心理状態を掴みにくい感じで作業をしていた。
 やはり、その表情は少し硬くなっていたとも思われるが……、展示航走を待つ間などには、出畑と話しながら、実に彼らしい笑みを見せていたものだ。
 レース後も比較的、サバサバした感じになっている印象を受けている。

B5r0012366  今日一日を通して、もっとも慌しく動いていたのは山本修一だった。ペラ調整をしている時間ももっとも長かった選手だが、ふと気がつくと、ピットを歩いている姿などが何度も見かけられたものだ。
 ちょっと落ち着きがないな、という印象を持ったが、山田カメラマンから聞いたところによると、他の記者の質問に対して「何かをしていないと、落ち着かない」というようなことを話していたそうなので、やはりそういう精神状態だったのだろう。
 レース後には、三井所に対して「ごめんな」と謝っているところくらいしか見かけられたなかったが、山本は山本で、彼らしく一日を過ごし、「最後の新鋭王座」を悔いなく戦ったといえるはずである。

 優勝を飾ったのは石野貴之である――。

B6r0012372  午後にはペラ調整をしている姿が見かけられたが、やはり昨日とは一変していて、作業をする時間はかなり短いほうだった。
 アリーナ席でいい表情を見せていたところを写真に撮っているが、撮影時間を確認してみると、15時25分となっている。
 展示航走待ちのとき(16時前)、他の選手たちが笑い合って過ごしているときには、その輪の中に姿は見かけられなかったが、それより少し前には写真のような表情を見せていたわけだ。……そんな過ごし方をしていたということとレースの結果は関係ない……。こじつけといえばこじつけに違いないのだが、あの輪の中にいなかった男が優勝したという事実は、なにか不思議な気がしてならないものだ。

B7img_0272  レース中のアリーナでは、歓声と悲鳴が交差していたのは言うまでもない。
 当たり前のことだが、大峯を応援する選手もいれば三井所を応援する選手もいて、出畑、江夏、山本を応援する選手もいるのだから、いくつもの声援が絡み合うのは当然である。勝敗の大勢が決した2周1マークでは、「差せ~!」という絶叫が聞こえ、それに応えて石野は見事に差している。
 三井所のことを、勝利への渇望は誰より強かったのではないか、と書いたが、石野もまた、三井所とほとんど同じくらいの気持ちになっていたのに違いない。
B8r0012413  誰もが「勝ちたい!」と切望していたのは当然であるが、三井所と石野は「勝たなければならない!」という気持ちになっていたのだと思う。こうした点については、見ているこちらの勝手な印象に過ぎないことだが、そうした精神状態が裏目に出たのが三井所であり、その精神状態に打ち克ったのが石野だったということなのだろう。
 三井所のことを「こんな悔しそうな男の顔は見たことない」と書いたが、レース後の石野は「こんな嬉しそうな男の顔は見たことがない」というほどのものになっていた。嬉しいというよりは、ホッとしたというのに近いかもしれないが、とにかく石野は最高の笑顔を爆発させ続けていたのだ。「爆発」という他には形容詞が思い浮かばないくらいに弾けた笑顔を見せていたのである。
B9u4w0109  表彰式において石野は、「前回(の優出)は気持ちの面であまいところがあったので、それを直したいと思っていました」とも話しているが、昨日の時点で艇を仕上げていた石野は、今日一日を「心」と闘っていたともいえるのだろう。そして、それに打ち克てたという喜びからの笑顔の爆発だったのに違いない。
 表彰式での石野は「総理杯の切符も“自力”で手に入れたので、そこで結果を残して、まぐれと思われないようにして、常に上のレベルで戦っていきたいと思います」とも気を吐いている。
 石野貴之24歳。今年の新鋭王座で飛び出したスターは、今後も間違いなく、眩しすぎるほどの輝きを放ち続けてことだろう。

(PHOTO/山田愼二=1枚目、7枚目、池上一摩=2枚目、9枚目、内池=3~6枚目、8枚目  TEXT/内池久貴)


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