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この特集では田中工業「黒須田守」をはじめとした5名のライターから競艇にまつわるさまざまなレポートをお届けします。
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万谷章、63歳の挑戦⑦

2007_0321__452  第2レース。万谷章のSG最終章。インを取りきった万谷親ビンはコンマ17で先マイを目指したが、コンマ11の原田幸哉に煽られ、コンマ12の重野哲之の割り差しを喰らって5着に沈んだ。ピットに帰還した親ビンに笑顔はなく、6日間でいちばん険しい表情だった。40号機を分解、清浄しながら、「あかんかったぁ」とポツリ。しかし、もうレースは終わったのだ。私は今後のことに、話題を切り替えようとした。
――お疲れさまでした。今日はまっすぐ帰るんですか?
 力なく頷く親ビン。
「うん……あ、帰れんわい」
 何か用事でもあるのかと思ったが、そうではなかった。
「これだけの稼ぎじゃ、家に入れてもらえん」
 こう言って、やっと親ビンは笑ったのである。その笑顔にも、悔しさがにじんでいたけれど。
 モーターを格納して、選手控え室へとトボトボ歩く。さてさて、今後の明るい話題はといえば……。
――次なる目標は、100Vっすね!
 目下99V、デビュー通算100優勝に王手をかけている親ビンである。が、親ビンの答は素っ気ないものだった。
「あかんわぁ……」
 そんなそんな、一般シリーズならVのチャンスは山ほどありますって! などと激励しようとしたが、この「あかんわぁ……」はまるで意味が違っていた。
「スタート、行けんかった。あかん……」
 親ビンの心は、2Rから1ミクロンたりとも離れていなかったのだ。そして、親ビンは搾り出すような声で言った。
2007_0321__050 「今日なぁ、メッコ(メイチの気合い)入っとったんじゃ。それなんに、スタートが……(歩きながら、右足の太ももを右手でバシッ!!と叩いた)……それでも、2番(幸哉)だけなら負けなかった。4番(重野)か、アレが見えて、もうあかんかったわ」
 驚いた。悔しそうに太ももを叩いた親ビン。どれだけ本気で1着を狙っていたか、叩いた音の大きさでわかる。万谷親ビンは、まだ物足りないという感じで立ち止まり、大声で叫んだ。
「スタートじゃあ!」
 その声を聞いた上瀧和則が、茶々を入れる。
「うん、メッチャ応援しとったんじゃ、あそこで落としたらいかん」
 上瀧にもたれるようによろけながら、親ビンが苦笑する。
「はあぁぁ、そうじゃろ、けど、落としてもうたんじゃ~」
 上瀧は細い目をさらに細めて、「このぉぉ、根性なしぃぃ~~~~!!」。この一言で、親ビンはやっと歯を出してニッコリ笑ったのだった。
 節間1勝の夢は叶わなかったが、63歳での3着3本、4着2本は立派の一語。そして、最終日の最後のレースまで勝ちにこだわり、負けた己をとことん責めた姿には、ただただ感動するしかない。枯れるどころか、これから一花咲かせようとする若者のようだった。来年、免許の更新が控える親ビンだが、今日の姿を見る限りは67歳までA級でいられるだろう。通算100Vへ、A1級復帰へ、これからも若々しい親ビンのモンキーを見守っていくことにしよう。親ビン、お疲れさま、そして、気迫溢れるレースをありがとう!!(Photo/中尾茂幸、Text/畠山)


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