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この特集では田中工業「黒須田守」をはじめとした5名のライターから競艇にまつわるさまざまなレポートをお届けします。
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勝負駆けとカウリング――4日目、後半のピット

Cimg2596  9R後くらいだっただろうか、午後のピットに足を踏み入れると、すぐに異様な光景が目に飛び込んできた。カウリングがないボートが、装着場に数台置かれていたのだ。とっさにレースでの接触による故障と思って、ボート番号を照合すると、ひとつは鎌田義のもの。カマギー、事故ったっけ……? 必死に記憶を辿っていたら、カマギー、元気マンマンで姿を現わして、記者さんたちと話し始めた。ひとまず、身体は無事か……。ホッとしつつ、もういちど記憶を探る道に戻ると、うーむ、カマギー、別に危ない場面はなかったよなあ。勝負駆けをしっかり成功させたんだし……。
 で、艇修理を担当する方に聞いてみました。はい、話は簡単。明日の準優勝戦に出場する選手のボートは、すべてカウリングを艇番の色がついたものに換えるのだそうです。優勝戦ではおなじみのカラー・カウリングですが、この総理杯では準優勝戦でも見られる! そのために、準優当確を決めた選手のボートからカウリングを外して、下準備をしていたというわけなのだ。すなわち、カウリングがついていないボートはすべて、勝負駆け成功の選手たちのもの。ボート番号をさらに照合してみると、たしかに田中豪、井口佳典、石川真二……、裸ン坊にされたかのような姿ではあるけれども、この時点では栄えあるボートたちなのである。
2007_0319__184  そのなかに、平田忠則や山本隆幸、飯島昌弘らのボートも発見。山本が5・80、平田と飯島は5・67で予選を終えているのだが、だというのにしっかりカウリングが外されている。そう、ボーダーは大変なことになっていた。9R終了時点で、松井繁の5・60(11Rに出走)が18位となっていたのだ。19~25位はすでにレースを終えていて、それより下位でレースを残していて、18位以上になれる可能性がありそうなのはほんの数人。この時点で18位以内に入っている予選終了組は、5・67でも充分、準優当確と言えそうだったのである。平田と飯島は苦笑いも見せていたのだが(一時は、諦めていたでしょうね)、しかしこれは実にツイている!2007_0319__163  混戦模様であればあるほど、彼らを後押しした運みたいなものが怖いような気がする。それはともかく、こんな状況であるから、ピットでは選手はもちろん、関係者全員が、得点状況をいつも以上に気にせずにはおれない空気になっていた。実際、ボートの係の方は記者さんたちに順位を確認しまくってたし。

2007_0319__099  10R、賞典除外の髙濵芳久、得点率上位の吉田弘文、瓜生正義が上位を独占した。勝負駆けを抱えていた者が着外に消えたのだ。4着・安田政彦の顔には、さすがに精気がない。しかし……計算してみると、安田は18位以下には落ちない! ボーダーが上がる気配がまるでないぞ! 着替えを終えて控室から出てきた安田は、得点率の計算をしたのかどうかわからないけれども、飄々とした風情でモーター格納のため整備室に向かった。ま、安田はいつもこうなんですけどね。味のある男、安田政彦。ベスト18に生き残った、その心中やいかに。

2007_0319__162 11R。得点率トップの植木通彦が鮮やかに快勝。予選1位での準優進出を決めた。レース後の笑顔を見れば、もう磐石でしょう、艇王は。一点の翳りもない表情からは、風格が滝のように溢れ出ていた。2着は松井繁。18位から12位にジャンプアップの2着だ。得点率は6・00だから、通常のボーダーであっても勝負駆け成功。さすがである。レース後は、星野政彦と笑い合っていたが、ヘルメットを脱ぐと、笑顔というよりはむしろ複雑な表情に見えた。そうか、勝負駆けなど王者にとっては二の次だったのかもしれない、と思った。2007_0319_11r_035 1号艇でありながら、1着を獲ることができなかった。その悔恨を噛み締めてもいたのであろう。もちろん、勝負駆けを成功させてホッとした思いもあったはずで、そのあたりがなんとも微妙な顔つきに見える理由だったのだと思う。やっぱり、王者は最高だ。

_u4w0100  12R。エンジン吊りが終わったあと、ボートリフトのすぐそばにしゃがんで、水面を見ている男がいた。鳥飼眞と瓜生正義。二人とも、勝負駆けを成功させて、準優進出を決めている。出走表を確認すると……そうか、上瀧和則が出走しているではないか。レース前に上瀧とどんな話をしていたのかはわからないが、鳥飼も瓜生もスタート展示がかなり気になったのだと思う。その上瀧は、展示からイン奪取! それを確認した鳥飼と瓜生は、笑みを浮かべながら控室に戻った。ちなみに、彼らの後ろのほうでは、田中豪も水面を見つめていた。こちらは、濱野谷憲吾の様子が気になっていたのだろう。
 展示から戻ってきた上瀧は、実にいい笑顔で関係者と話していた。充実しきった精神状態を表わすかのような顔つきは、きらきらと輝いていた。それを見た僕は、いったん記者席に戻ったのだが、そこで得点率を計算していて、気付いてしまった。もし烏野賢太か三嶌誠司が大敗して、上瀧が1着となれば、18位に届くではないか! 上瀧は、それを知っていて前付けに出たのか。それとも、意地を見せつけるためだけの前付けだったのか。いずれにしても、これぞ男・上瀧である。
 記者席での仕事が思いのほか長引いて、片付いたのは12Rのファンファーレが鳴ってから。仕方ない、12Rは記者席で見るか……上瀧が逃げ切った! 烏野は? 三嶌は? 烏野は市川哲也との2番手争いを演じているが、三嶌は後方を走っている。こ、こ、これは!
_u4w0032  僕は大急ぎでピットへと走った。上瀧、渾身の勝負駆け成功も見たい。でも、三嶌にはお世話になってるし、なんとか残ってほしい。私情も混じって、非常に複雑な思いを抱えつつ、ピットへと走る。到着。ちょうど、戦いを終えた選手たちがボートリフトへと帰ってきたところだった。うがっ、し、しまった。走っている間にレースが終わってしまったから、上瀧の1着は確実として、烏野と三嶌の着順がわからん。カポック着脱場に戻ってきた上瀧は、やることはやった、という納得の表情。ピットに帰還した直後には、鳥飼や瓜生と声をあげて笑い合っているところを目撃している。結果的に2等だった烏野は淡々とした表情、そして三嶌はまずは顔をしかめながら他の選手たちに「ごめんなさい」と謝って回っていた。ベスト18に残ったのは、上瀧か三嶌か……。
Cimg2602  結果を知ったのは、ボートのカウリングによって、だった。並んで置かれていた上瀧と濱野谷のボートにカウリング交換の係の方たちがやって来て、「こっちは違う」と上瀧のボートを指差したのだ。そして、別の場所に置かれていた三嶌のボートからは、カウリングが外された。カウリングが表現した、勝負駆けの明暗。着替えを終えた三嶌が明るい顔で控室から出てきたことは嬉しかった。一方で上瀧の思いが届かなかったことが哀しかった。その頃、上瀧は勝利選手インタビューの真っ最中。なんとなく上瀧の顔を見るのが怖くて、三嶌の笑顔に心を弾ませたところで、ピットを後にすることにした。三嶌さん、おめでとう。明日は優出を決めてください。そして、上瀧よ、やはりあなたはカッコいい!

Img_9444  さて、そんな勝負駆けの悲喜こもごものさなか、不思議なことがピットで起こっていたので報告します。いや、実は私、そのときピットにはいませんでした。撮影中の山田愼二カメラマンの報告なのですが、なんと、本日、水神祭が行なわれたというのです。水神祭? 今日、SG初勝利とかあったっけ……。今節、水神祭があるとすれば、あとは鎌田義だけのはず、今日は1着じゃないし…………と山田カメラマンの報告に首をかしげるしかなかったのですが、次の山田Cの言葉にぶっ飛びましたよ、はい。
「山室の水神祭だったよ」
Img_9455  や、や、山室展弘!? なぜ山室が水神祭!? たしかに今日は1着を獲ったけど、あなた、SG覇者じゃないですか! 山田Cによれば、同県の川﨑智幸のレース終了を待って行なわれたという水神祭。しかも、報道陣が立ち入ることのできない、試運転ピットのいちばん端っこで行なわれたそうです。それでもカメラを構えるカメラマンたちに、辻栄蔵が大笑いしながら「やめたほうがいいよ。怒られちゃうよ」などとジョークを飛ばしていたとか。怒られてもかまいません。だって、水神祭じゃないですか。この儀式、山室選手を祝福するためにも、載せなければ男が廃ります。でも、何を祝福?
Img_9463 これがですね、結局、誰にもわからんのです。水神祭に参加した同県の寺田千恵も、「なぜ山室さんを落としたのか、わからない」。山室を投げ込んだ人たちですら、何の水神祭か理解していないのであります。まさしく、謎の水神祭。
 それでも、ひとつだけ言えることは、山室選手、ますます大好きになりましたよ! やっぱりこの人がいるSGは、たまらなく面白い! これからもドシドシSGに参戦して、我々を楽しませてください! 山室、サイコー!

2007_0319__030  さてさて、無念の予選落ちでも気になる山崎智也。1号艇でイン発進、しかし吉田弘文のマクリを浴びてしまった瞬間、ベスト18のイスは智也の手からこぼれ落ちた。結果論でしかないが、1着なら余裕でボーダーをクリアしていたのだが……。レース後の智也は、昨日と同様に、微笑を浮かべていた。その様子は、あえて詳しくは書かない。昨日の記事をご参照ください。ただ、今日はひとつだけ違った。脱いだカポックをテーブルの上に置こうとして、それが落ちてしまったので拾おうと下を向いた瞬間、すっと暗い顔になったのである。係の方に「ごめんなさーい」と謝りながら、自分で拾い上げたのだが、その間じゅう落胆を感じさせる顔つきで、しかし拾って顔を上げたときには、また微笑が戻っていた。間違いない。心の中には微笑みとは正反対の悔しさが渦巻いているのだ。
 着替えを終えると、寺田千恵とジョークを交し合うなど、なんだか憑き物が落ちたかのように、スッキリした表情になっていた智也。明日は気楽に、山崎智也らしさを見せて欲しい、そう思うしかなかった。(PHOTO/ 山田愼二=山室水神祭 中尾茂幸=飯島、平田、安田、植木、松井、山崎 池上一摩=上瀧、鳥飼&瓜生 黒須田=カウリングのないボート TEXT/黒須田守)


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