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この特集では田中工業「黒須田守」をはじめとした5名のライターから競艇にまつわるさまざまなレポートをお届けします。
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戦場の空気――2日目、前半のピット

 キリリと冷え込む平和島競艇場。明日はもっと寒くなるということですよ。平和島にお越しの際は、充分お気をつけてくださいませ。
 そんな冷気が、なんとなく爽快な総理杯のピット。昨日はあまり長い時間の滞在ができず、ようやく腰を据えての取材ができた今日、選手たちのリラックスした雰囲気が実に心地よく、気持ちのいい空気を感じずにはいられないのだ。
20070316__070  とりわけ、その気分上々ぶりが伝わってくるのは、大阪勢。松井繁、田中信一郎、山本隆幸(兵庫だけど)、石野貴之らに静岡の金子良昭が輪になって話し込んでいるのを見つけて、こっそり様子を眺めていると、最後は全員がドワッと頬を緩めて、笑いながら散っていく。あららぁ、楽しそうだなあ……。松井にすれ違いざま朝の挨拶をすると、ふっと柔らかい表情になって、「おはよっす」。去年の賞金王決定戦では、厳しい表情を崩すことなく会釈を小さく返しただけの松井だった。もちろん舞台がまったく違うのだから、精神状態も同じであろうはずがないが、それでもその振る舞いの違いに、思わずこちらの頬も緩むのだった。賞金王のときの松井も魅力的だったけど、こういう松井もいいなあ……。
20070316__014  信一郎は、ドでかいレンズで撮影していた中尾カメラマンに、「アップで撮れてるんやろ? 最近シミが出てきたから、修正しといて」と軽口を飛ばしていたそうである。また、佐藤正子さんに飴ちゃん(大阪流に言ってみました)をもらっているところに池上カメラマンがレンズを向けると、「ちゃんと撮っとる?」と撮影を促していたとか。信一郎は、こういうときのほうが成績がいいという印象があるのだが……。

20070316__119  もちろん、ここは戦場、笑顔ばかりがあふれているわけではないのも当然である。顔を合わせた瞬間、快活に挨拶を投げかけてきた原田幸哉は、一人きりで作業しているときにはむしろ目を吊り上がらせている。報道陣の取材に優しく応えていた山﨑昭生も、いざ自分の世界に突入すれば、思うようにならない機力への思索を、思い詰めたような表情でしている。山﨑の渋く柔和な顔つきが、途端に気難しい職人のような顔に一変だ(そんなときでも、報道陣に声をかけられると即座に優しい顔になるのだが)。山室展弘などは、眉間に深い深いシワを作りながら、鬼のような形相で歩いていたりもしていた。こうした戦士の顔つきは、もちろん先に名前をあげた松井や信一郎にも見ることができるのである。
Cimg2574  象徴的だったのは、3Rのレース後だ。平和島ピットでは、レース後にヘルメットやカポックを脱ぐ場所が、屋外に設置されている。選手控室の入口脇にあたる場所なのだが、レースを終えた選手は次々とここにやって来ては、装備をほどいていくことになる。ピットに帰還するのは着順が上の選手のほうが早いわけだから、着脱場に戻ってくるのも、おおむね着順の通り。3Rでいえば、まず勝った新美恵一が戻ってきて、その後に2、3着争いを演じた金子龍介、田中豪が「最後、ごめーん」「いやいやいや」とレースを振り返りながら、カポックを脱ぎ始める。上位着順の彼らは、やはり表情に明るさが漂っていて、見ているこちらも幸せな気分になる。20070316__093 その後に戻ってきた、太田和美、川﨑智幸は、表情に精気が感じられない。悔しさをぐっとこらえ、しかし決して高揚しない気分を抱えているのは明らかだ。そして、最後はシンガリ負けの寺田千恵。ヘルメットを脱ぐと、最悪の気分が現われた。明らかに苛立ちながら、半ば投げやりに勝負服を脱ぎ、カポックを脱ぎ、グローブを外す。とても話しかけられる雰囲気ではないのだ。時間の流れとともに、明→暗の表情が順々に行き過ぎるカポック着脱場。勝負とはこういうものなのだと、改めて知らされる瞬間である。そして、これこそが勝負事の魅力。短時間での顔つきの変遷はそのまま、競艇選手の本能の発露なのだ。

20070316__095  で、着替えて装着場に再登場のテラッチ、おやおや、顔つきがもう明るくなってる。佐藤正子さんと顔を合わせると、「ぜーんぜん、ダメ!」と苦笑い。「ど真ん中に来てるのに、ぜーーーんぶ空振り!」とバットを振る素振りを見せて、大きく笑った。ひとまず、気分を切り替えることはできたようだった。
 えっと、ここからは「クロちゃんピットで選手と仲良し自慢」となりますので、あらかじめご了承ください、はい。テラッチを追っかけて声をかけると、「クロちゃ~~~ん」。そして、なんたることか、テラッチ、腕を組んできちゃったのだ。わーいわーい、テラッチと腕組んじゃった。「もぉ~、連れて帰ってぇ~~」。ど、ど、どこへ連れ帰れば……というか、ご主人の立間充宏選手、すみません。その様子を見ていたM記者から、「どこの愛人カップルかと思いましたよ!」と怒られちゃいました。ちょいとドキドキした私でありましたが、つまりはテラッチ、3Rの6着が本当に悔しかったのだ。しかし、気持ちはまったく折れていない。まだ巻き返すチャンスはある!

20070316__091  自慢はまだまだ続きます。近頃、ピットで本当によく声をかけてくれるのは、三嶌誠司。2日目にしてようやく今節初顔合わせとなり、「おぉ、クロちゃん!」とニッコリ笑ってくれたのでした。「昨日、本物のクロちゃん、来とったなあ。Wクロちゃんや! 黒石さん(JLCキャスターの加恵さん)が来たら、トリプル・クロちゃんやな!」。そんないつものジョークもありつつ、機力についても質問をしてみる。何しろ、一昨日、昨日と整備室にこもっていたり、装着場内をダッシュで移動していたり、めちゃくちゃ忙しそうな三嶌ばかり目にしていたのだ(挨拶する間もなかったくらいに)。「戦える足ではあるんやけど、もうワンパンチ足りない。うん、もうワンパンチやね」。さらにワンパンチという言葉を繰り返した三嶌は、だはは、僕の出っ張ったお腹にパーンチ! そう、そのワンパンチですよ!……って、そんなわきゃないか。今日は6R1回乗り。メンバーは瓜生、上瀧、松井……うわ、濃い相手ですねえ。「ほんとにねえ。でも、負けないっすよ!」、うむ、これはその“ワンパンチ”が手に入れば、かなりやれそうな感じですぞ。そして、その6R、見事なマクリ差しで1着! 予告勝利! 僕のお腹のご利益があったみたいっすね!

20070316__020  さて、寒かろうが暑かろうが気になる山崎智也。リラックスよりも緊張感が目立つ一人が、智也である。池上カメラマンも、「智也選手は、笑顔が少ないですねえ」と証言しており、この穏やかな空気の中にあって、異彩を放っている一人といえる。とはいえ、決してピリピリしすぎているわけでもなく、緑のカポックを着て5Rの展示準備に向かう際に顔を合わせたので挨拶をすると、ニコッと微笑んだ。まだまだ納得のいかない戦績しか残せていないだろうが、それほど心配する必要もないと見たぞ。(PHOTO/中尾茂幸 着脱場のみ黒須田 TEXT/黒須田守)


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