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この特集では田中工業「黒須田守」をはじめとした5名のライターから競艇にまつわるさまざまなレポートをお届けします。
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神々しい選手たち――2日目、後半のピット

_u4w0114_1  ざわざわと人波が一人の男に向かって打ち寄せていく。飲み込まれたように、輪の中心になったのは万谷章。9R3着、この健闘ぶりに報道陣の関心は一気に高まったようで、万谷の周りをたくさんの人が取り囲んだ。詳しくは別記事に任せるが、人垣のなかで笑う万谷オヤビンの姿はあまりにも神々しかった。この一種異様な光景が、明日も見られますように……。
_u4w0128_1  そのレースで1着をあげたのが、我らがテラッチ、寺田千恵。祝福の言葉をかけると、「ツイてただけよ~」と身体をよじってみせ、長嶺豊さんに「テラッチ、カッコいい~!」と賛辞を送られたときには、「だからツイてただけ~」と長嶺さんの腕をポカポカポカと叩いた。もう、バカバカバカ~ン、って感じ? 別れ際には「まだまだ!」と口にしたテラッチは、この勝利にまったく満足はしていない様子である。明るく振舞うのがテラッチらしさだが、レーサー・寺田千恵の本能は満たされていない。うむ、そんなテラッチの笑顔もまた、神々しいと言うしかないだろう。

 空気がリラックスしている、ということは何度か書いてきたが、それが選手たちの心中をそのまま表わしているわけではない、ということはもちろん理解もしてきたつもりだ。そして、その本質部分が後半のピットでは、露わになっていたような気がする。
 ペラ室、超満員。整備室、盛況。整備室内のペラなどを調整するテーブル、大混雑。気候自体はそれほど変化があるわけではないし、すでに多くの選手が今日のレースを終えた時間帯であるのに、この人口密度。いくらSGとはいえ、2日目の午後にここまで多くの選手たちを“整備ゾーン”で見るのは珍しいことである。これは今日の午前や昨日と変わらない光景であって、それがそのまま2日目の午後に引きずられているのもまた、これまでのSGを思い起こせば、あまりなかったことのように思う。
 2007_0317__265 レースを快勝した三嶌誠司が、陽がとっぷりと傾いてもまだ、モーターと向き合っている。7R1回乗りだった安田政彦も、かなり長い時間、本体を整備していた。そこに、向所浩二もやって来て、ひとしきりレース回顧と今後の方向性の相談。おや、魚谷智之もその輪に加わったぞ。おっと、その横には鎌田義がやはり本体を整備しているではないか。兵庫コネクションが、モーターと格闘しながらも、互いに情報を交換していたわけだ。絶好調・兵庫支部のパワーの源がこれなのかなあ……2007_0317__253 などと考えていたら、整備室内にひときわ大きな笑い声が響く。こ、この声は……。カマギーと大きな声で談笑していたらしいその人は、やはり上瀧和則だった。上瀧も三嶌と同様、6R1回乗り。かなりの時間を、整備室で費やしていたことになるぞ。整備室の奥では、井口佳典がギアケースをやっているところも見かけているが、2日目午後にこんなにも大勢の顔ぶれを整備室で見るSGって、やっぱり珍しいような気がするなあ……。

2007_0317__656  ペラ室の盛況ぶりも、生半可ではない。引き戸の上半分が透明なガラスになっており、外から覗くとガラス越しに見える頭、頭、頭(みな座ってペラ叩きしてますからね)。ざっと見渡したところ、赤岩善生、川﨑智幸、正木聖賢、烏野賢太、中岡正彦、中澤和志あたりを確認。さらにチェックしようと覗き込んでいたら、誰かがペラ室に入ろうとドアを開け、そちらを一瞥した濱野谷憲吾と目が合って、ちょいと気まずい思いをしたりして。試運転を終えた坪井康晴が、モーターを格納したあとに小走りでペラ室に駆け込む姿も目撃した。2007_0317__648 その後も、ときどき覗き込みに行ったが、植木通彦がいたり、田中信一郎がいたり、平田忠則がいたり、金子龍介がいたり……入れ代わり立ち代り、選手たちがペラ調整に励んでいるようだった。10R終了後には、帰宿バスの一便が出発し、何人かの選手がそれに乗り込んでピットを後にしているが、その後もまだペラ小屋の盛況ぶりは変わらないのだから、これもやっぱり珍しいような気がするんだよなあ……。

2007_0317__106  そうした山盛りの整備の結果、正解を出し始めている選手もいる。松井繁もその一人だろう。11Rは3コースから見事なレースを見せて、王者ここにありを印象づけている。レース後、カポック着脱場へと歩を進めながら、ヘルメットの奥の目が実に晴れやかに輝いている。弟子の山本隆幸や、同県の石野貴之、仲よさげに談笑しているシーンをよく目撃する江口晃生と、関係の深い面々が対戦相手だったこともあるのだろうが、レース終了の挨拶を交わす際にも、目は笑いっぱなしだ。カポック着脱場では、珍しく6人が勢揃い(午前ピット記事でも書いたように、けっこうバラバラに戻ってくることも多いのだ)。そんななか、松井は実に爽快な微笑みを浮かべて、レースを振り返っている戦友たちを見つめていた。勝者は語らず。ただ穏やかな空気を発散するのみ。そんな余裕がうかがえて、王者の矜持に触れることができたような気にさせられた。エンジン、かかってきたぞ。
2007_0317__433 12Rで6コースからのマクリ差しを決めて、濱野谷憲吾を仕留めてみせた吉田弘文は、特にレース前に、メンタルの充実振りを感じた一人だった。やはり整備室、ペラ室周辺で見かけることが多かったのだが(整備室とペラ室は、ほんの10mほど離れた向かいにあります)、やや下向きの視線で一点を見据えながら歩く姿からは、自信のようなものがうかがえていたのだ。もちろん、それはレースを数十分後に控えての気合の発露だったのかもしれないし、逆にただならぬ緊張感に包まれていた可能性だってないわけではないが、ともかく遠目にも目立つくらいの雰囲気で過ごしていたのは間違いのないことだった。まさか6コースから濱野谷を撃破するほどとは、予想以上だったけれども。明日からは人気になりそうなので、舟券的妙味はないかもしれないが、目を離してはならない男がまた一人増えたということは言えそうである。

2007_0317__787  さて、あらら? ちょっと苦戦気味か? でも気になる山崎智也。後半10Rは1マークでキャビって5着。レース後、申し訳なさそうに、他の出走メンバーにおわびをして回る智也がいた。うむ、表情が冴えない。着替えを終え、モーター格納に向かう足取りも、どことなく力弱い気がする。格納後は、ペラ室に飛び込んで調整に励んでいたが、その際もいまひとつ覇気のない顔つきに見えたのがちょっと気になった。僕には、展開の綾であるようにも思える敗戦だったのだが、勝負師はそんな言い訳に与することは絶対にない。この苦々しい顔が、明日からの反撃の大きな糧になる、そう思う。(PHOTO/1、2枚目=池上一摩 それ以外=中尾茂幸 TEXT/黒須田守)


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