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この特集では田中工業「黒須田守」をはじめとした5名のライターから競艇にまつわるさまざまなレポートをお届けします。
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それぞれの時間――優勝戦前半のピット

1u4w0020 「今日こそは頼むで! 手裏剣ターンでな」
 朝のスタート練習がひと段落ついた午前10時過ぎ、瓜生正義にそんな声を掛けたのは同期の魚谷智之だった。
 顔をくしゃくしゃにして、何かの言葉を返していた瓜生は、今日こそ“無冠”を返上できるのだろうか……。
 今朝の瓜生もやはり、彼らしくスマートな自然体で作業をしているように見受けられたものだ。
 スタート練習後、ボートやモーターの各所をチェックしていたかと思えば、ペラ小屋、ペラ加工室と場所を変えながら、時間のムダなく整備を進めていた。それでいて、気負いや悲壮感のようなものはまるで感じられないのだ。
 これが瓜生スタイルだといえば、そうには違いないが、表面には出さなくても、心に期するものがないはずはない。静かな男が、この写真のように、レース後にも笑顔を爆発させるところを見てみたくなってきた。

2u4w0096  瓜生も作業をしていたプロペラ加工室に、やはり10時頃から籠もっていたのが植木通彦と濱野谷憲吾だった。
 今朝の新聞各紙でも、「艇王vs地元のエース」といった見出しが躍っていたが、歩調を合わせたようにそうして作業をしているところを見ていると、ますますその気になってくる。
 偶然といえば偶然に過ぎないが、ずっと加工室で作業をしていた2人は、2R前後には、ほぼ時を重ねて今度はペラ小屋に移って作業をしていた。
 狭い加工室で作業をしているあいだも言葉を交わしているような様子は見かけられなかったし、ペラ小屋に移ってからは、かなりの距離を空けていた。それがまた、なんとも「緊迫感のある空気」を作り上げていたのだ。
 今日は、植木、濱野谷それぞれに、納得いくまでペラを仕上げる、という点で一致していただけにすぎないのだろうが、ピットでは朝から、そんな「対決ムード」が醸し出されていたのである。

3img_6049  1Rが終わったあとにペラ小屋に入ったのは吉田弘文だ。調整作業は2R終了頃まで続けられ、その後はボートにペラを着けていた。
 筆者がピットを離れる段階ではまだボートを水面に下ろす様子はなかったが、比較的、早い段階で試運転に出るのではないかとも予想される。
 吉田に関していえば、こちらが確認した範囲でいえば、他の選手と声を掛け合うようなところは見かけられなかった。
 そして、気になるのはその表情が少し硬いように見えたことだ。昨日の準優後の共同会見では、必要以上といえるほどに饒舌だっただけに、そのギャップがやけに目立った。これを「集中」と取るか、「緊張」と取るかは難しいところだ。

4img_0355  午前中は、あまり作業をしているところは見かけられず、ピットの端で、レースを見たりしていたのが井口佳典である。
 焦って行なうような整備もないという意味では、「いい状態」にあるのだろう。
 2レース後、重野哲之のモーター格納を手伝ったあと、早くも試運転に出て行ったが、その際には、きりりと表情を引き締めていた。こと雰囲気ということでいえば、井口の気配はバツグンなものがある。

5r0013505  やはり10時過ぎに、装着場の端っこにある「唯一の日向」といえる場所で、ボートとカポックを乾かしながらJLCキャスターや解説者の清水克一さんらと談笑しているところが見かけられたのが三嶌誠司だ。
 耳をそばだてていたわけではないが、「6枠だからね」などという笑い声も聞かれた。そういう意味ではいえば、まるで気負いはない状態になっているのだろう。
 だが、昨日のレース後にも「1等を狙える位置につけたいですね」と話していたように、“勝負に出るためのポイント”を作ってくるのは間違いないところだ。
 報道陣との談笑のあと、ボートを装着場の中央に移してモーターのチェックをしている場面も見かけられたが、そんなときには別人のような顔つきになり、声を掛けるのもためらわれるほどの集中力が伝わってきたものである。
 で、そうかと思えば、その作業のほんの少しだけあとのこと……。ちょうど2Rの頃に、水面の傍に行き、整備員の方と何かを話しながら水面を覗きこんでいる姿が見られた。レース後、「何を見ていたんですか」と訊いてみると、「どこにでもいますけど、スズキの子がいたんです」「外敵もおらんから、ずっとおりました」と丁寧に教えてくれた。
“敵”をつくるタイプではない三嶌にとって、レースとは常に「自分との戦い」なのだろう。
 昨年のチャレンジCもそうだったが、他の選手とはまるで違った時間の過ごし方をしている三嶌を見ていると、そんな気にさせられるものである。
(PHOTO/山田愼二=3、4枚目、池上一摩=1、2枚目、内池=5枚目 TEXT/内池久貴)


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