この特集について
ボートレース特集 > 準優勝戦 私的回顧
この特集では田中工業「黒須田守」をはじめとした5名のライターから競艇にまつわるさまざまなレポートをお届けします。
ライタープロフィール
カテゴリー
関連リンク
競艇サポーターズ
関連書籍

 ボートレース特集

準優勝戦 私的回顧

2007_0421_10r_067 「今年の名人戦は、みんな進入で頑張ってくれたの~」
 長嶺豊さんが唸る。名人戦の醍醐味は進入争い。そう言ってしまっておかしくないほど、コース取りに命を懸ける男たちがたくさんいる。スキあらば、内を分捕る。だから、内枠はスキを見せない。それでも、内を分捕ろうとする。だから、内を取られまいと突っ張る。そんな光景が、いったい何度見られたことだろうか。
「それに、レースも迫力あったなあ。みんな、ツケマイの練習、しとるんちゃうか」
 長嶺さんが唸りつつ、笑う。名人戦のもうひとつの醍醐味は、まさにレースの激しさ。突っ込み、切り返し、何でもあり。かと思えば、外からぶん回して交わし去っていく。1マークはもとより、道中も目が離せない、ガチンコバトル。スピードではSGにはかなわなくても、意地の突っ張りあいはSG以上だと思わせられる場面が、頻繁にあったものだ。
 準優勝戦。進入のドラマのカギは、奇しくも黄色のカポック、5号艇が握っていた。そして、レースのドラマのカギを握っていたのは、ある縁を有していたあの男たちだった――。

10R 最年長と最年少のワンツー
①山口博司(長崎)
②加藤峻二(埼玉)
③井川正人(長崎)
④高山秀則(宮崎)
⑤鈴木幸夫(愛知)
⑥大西英一(東京)

2007_0421_10r_071 5号艇・鈴木幸夫。この名前があるだけで、彼がインを狙ってくるのは織り込み済みだ。初日10Rに組まれた、イン屋の三重奏。鈴木、関忠志、西島洋一のなかで、準優に駒を進めてきたのは、もっとも若きインの鬼だった。
 ただし、このレースの内枠勢は、ちょっとばかり厄介なメンツだった。1号艇は地元・山口博司。レース後、「勝ち負けは度外視で、インを死守するつもりだった」と語っている山口は、自分を育ててくれた水面で1号艇の権利を譲るわけにはいかなかった。2号艇は、走る人間国宝・加藤峻二。普通であれば、それほど内寄りにこだわる男ではないが、今日は「絶対に2コースに入るつもりだった」と、“イン屋の若造”にコースをくれてやるつもりはなかった。さらに、3号艇にはもう一人の地元・井川正人がいた。今節は積極的にコースを取り、なんとしても故郷の水面に錦を飾ろうと気合を込めて走っていた。スタート展示では鈴木を内に入れているものの、カドに引かなかったのは「本番では譲らじ!」の意志表示だろう。それに、もし自分がダメでも博司だけは……ポールポジションを手にした後輩を守ろうとする男気を持っている男である。
 ピットアウト。鈴木は己の仕事に忠実に、大きく回り込む。しかし、行く手を阻んだのは、赤いカポックだった。井川がガッチリとブロックし、山口と加藤は狙い通りの枠番主張。4人それぞれが、それぞれの生き様を水面に投影すれば、こういう並びになってしまうのも仕方のないことかもしれなかった。

 このレースのドラマのカギを握っていたのは、やはり加藤峻二御大だった、と言うべきであろう。
2007_0421_10r_081  4コースに甘んじながらも、トップスタートを切った鈴木幸夫が、1マークではツケマイを放った。インの鬼の、意地のツケマイ。ただ逃げるだけの俺ではない!と、自分を外に弾き出した3人に、怒りの一太刀を浴びせる。しかし、機力ではやや劣っていた鈴木の渾身のターンは、井川、加藤の頭を叩くところまではいっても、インの山口まではとても届かなかった。あとは、旋回スピードによって、2番手に食い込めるかどうか。鈴木は、外に進路を取り、そのまま握り続けてバック水面へと飛び出ていった。
 こうなると、山口はしっかりと先マイするのみ。鈴木が握ってきているから、加藤、井川が自分を叩きにくることはない。それより外の高山、大西が来ないことも言うまでもない。主導権を握ったインが、するべきことは確実な先マイ。山口には、それを果たせる実力はある。そして、たしかに山口は磐石のイン逃げを放っていた。
2007_0421_10r_093 しかし! その山口のノド元に匕首を突きつけた男こそ、加藤御大だった。山口のモーターは出ている。外からは何も来ない。したがって、ターンもそれほど流れていない。ガッチリと鉄条網を張ったかのように、山口はふところを防御したはずなのだ。だが、山口の内側に、御大は水面を切り裂くような差しを入れた。その名の通り、峻烈なターン。瞬く間に、御大の艇が山口とビタッと並ぶ。そのまま併走状態でバックを駆ける。通常、この状態を「競り合い」と呼ぶが、もはやそんな表現がふさわしくないほど、主導権は御大に移っていた。
2007_0421_10r_099 2マーク、最内を差して伸びた大西が、イチかバチかの突進を見せた。大西、一世一代の大バクチである。しかし、御大には何の影響も動揺も与えなかった。大西が突っ込んでくるのを予期したかのようにターンマークをややあけて回った御大は、これが65歳のターンかと目を疑うような全速旋回で、大西が自分に迫ってくるよりも早く、2マークを駆け抜けていた。山口は、冷静に大西をやり過ごした。しかし、御大は大西のターンなどどこ吹く風で、駿風のように水面を疾駆したのである。
 決着は、ここでついた。気がつけば、今節最年長と最年少のワンツー。しかし、御大の走りは、そんな隠しテーマを忘れさせる鮮やかさをまとっていた。

11R 福岡支部同士のワンツー
①荘林幸輝(熊本)
②原田順一(福岡)
③桑原淳一(東京)
④松野京吾(山口)
⑤金井秀夫(群馬)
⑥佐藤勝生(広島)

2007_0421_11r_149  5号艇・金井秀夫。今節、加藤御大に次ぐ長老。深いシワが刻まれたその顔は、迫力充分であると同時に、長い年月を戦い抜いてきた年輪のようにも見える。御大が若々しさで後輩を圧倒するならば、金井は年輪の重みで若い者を睨みつける。原田順一以外は、50~51歳という“若手”たちが相手のこのレースで、金井がひと睨みで内コースをせしめるのは、確定的と言えた。
 スタート展示では、桑原淳一が抵抗を見せている。桑原としても、簡単に内を明け渡すつもりはない。これが、本番では桑原を早々と出し抜いて、3コースを獲得。生意気な若造の突っ張りは、本番で跳ね返せばいい。3コースを守れなかった桑原は、仕方なくといった感じでカドに引く。ダッシュ艇の誰よりも後ろまで艇を持っていった桑原からは、大先輩相手に意地を貫けなかった苛立ちを見たように思った。
2007_0421_11r_161 さらに内水域でもドラマがあった。荘林幸輝がピット離れで遅れたのだ。荘林はレース後「自分が遅れたのか、原田さんが良かったのか」と首を傾げていたが、原田は「ピット離れはいいようですね」と自分が突き抜けたのだと語っている。しかし、原田は荘林の進路をふさぐようなことはしなかった。「まあ、同県だからねえ」とレース後に苦笑いを見せた原田。荘林は熊本出身の福岡支部。原田は福岡出身の福岡支部。同支部同士の間にある、目に見えない絆が進入を穏やかなものにしていた。

2007_0421_11r_158  レースのドラマは、進入のドラマを引きずるような格好となった。原田の後輩への温情によってインをキープできた荘林が、トップスタートから逃げる。ホームではやや挟まれたような形になりながらも、原田が後輩の逃げにしっかり追随する。バックで完成したこの隊形は、残り5つのターンマークを回りながらも、まったく揺るぎなくゴールまで維持された。3番手を桑原と松野が競り合う場面もあったが、それは遠い世界で起こっている出来事のようだった。
 気がつけば、いや、すでに気付いてはいたが、福岡支部のワンツー。ともに「九州だから、大好きな大村だから」と気合を込めて戦ってきた二人が、優勝戦のピットを手に入れた。

12R 鮮烈マクリと戦慄差しのワンツー
①岡孝(徳島)
②大嶋一也(愛知)
③小林昌敏(山口)
④吉田重義(大阪)
⑤水野要(兵庫)
⑥陶山秀徳(熊本)

2007_0421_12r_059  5号艇・水野要。たしかに一般戦などでは内寄りから攻める選手であり、今節も1走を除いて3コース以内から戦っているが、このメンバーでどこまで動くことができるのかは、流動的だったと言うしかない。実際、スタート展示では枠なりに収まっている。
 ところが、水野は本番まで、強烈な一撃を隠していた。ピットアウトと同時に、ロケットのように鋭い飛び出しを見せた水野は、あっという間に小林と吉田を交わし去り、大嶋の横にピタリと吸い付いていた。奇襲作戦が成功したのだ。
 これが、小林と吉田のコンピュータを狂わせる。水野に内を取られたのは仕方ない、と考えた小林。それでも4コース死守、あるいはスロースタートにこだわった吉田。レース後、「吉田さんが中途半端なところで艇を向けたから、仕方なく引いた」と小林は語っているが、もし吉田がもう少し外へと艇を流してから舳先をスタートラインに向けていたら、小林は4コースを選択せざるをえなかったかもしれなかった。展開は、まるっきり変わっていた。

2007_0421_12r_068  進入での思惑違いは、スリットにも影響を見せていた。F2ながらトップスタートを切った岡。5カドからの発進がケガの功名的に好スタートとなった小林。しかし、その内の3艇に異変が起きた。大嶋、水野、吉田がヘコんだのだ。
 岡にとって、こんなに厄介なスリットはない。小林の攻撃をまともに喰らうことになるのだ。一枚の壁もなくマクリを受け止めなければならないインは、もはやもっとも不利なコースに堕していると言うべきだろう。逆に、小林にとっては、こんなにありがたいスリットはない。ターンマークへの最短距離が約束されているからだ。5カドとなったことが、むしろ勝利への最短距離でもあったのだから、ツキは完全に小林に向いていたと言える。
2007_0421_12r_073  一気に絞ってマクリ体勢に入る小林。必死の抵抗を試みる岡。小林が鮮やかな弧を描いてバックへと抜け出したとき、岡の艇は引き波に飲まれ、ズルズルッと外へ滑っていった。万事休す。ここで勝負は決した……と誰もが思った。
 これが腕の差、なのだろうか。ターンマークあたりには、岡と小林の作った引き波が口を開けて待っていた。二人が作ったポケットに飛び込めば、落とし穴に自ら足を踏み入れたかのように、失速するはずなのだ。ところが、大嶋はあっさりとその魔物を飛び越えて、するりと先頭に立っていた。2007_0421_12r_091 小林と岡の航跡を軽く乗り越える差しハンドルを、大嶋はスルリと入れてみせたのである。マクリ艇の外側の差し。それが逆転のセオリーと言われている。しかし、大嶋はマクリ艇の内から、巧みすぎる差しをねじ込んだ。これを腕の差と言わずして、なんと言うのだ。バックの内寄りを疾走する大嶋。外から追走する小林。勝負あり、だ。
 この二人のワンツーには、特別な縁はない。登番の下1ケタが0という共通点があることはあるが、こんなものはこじつけに過ぎない。そこにあるのは、ただただ鮮烈だった小林のマクリと、ただただ戦慄を覚えさせられた大嶋の差し、のみだ。(PHOTO/中尾茂幸 TEXT/黒須田守)


| 固定リンク | コメント (0) | トラックバック (0)
トラックバック
この記事のトラックバックURL:
コメント