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この特集では田中工業「黒須田守」をはじめとした5名のライターから競艇にまつわるさまざまなレポートをお届けします。
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大村名人戦ベスパフォ~初日

 いきなり1Rから⑥佐藤勝生がコンマ00、①吉田重義がコンマ01…気合いほとばしるドッキリSで名人戦は開幕しました。名人位の称号が欲しい、でもって来年の総理杯のチケットも欲しい。大ベテランたちの熱闘にスタンドは最終レースのゴールまで沸き続けておりました。
 まず、今日の準ベスパフォは福岡の57歳、陸の上では気のいいオッサン、水面ではピリ辛の勝負師に変貌するこの人気者に贈りましょう。

7R/これぞ、ダービー王の気迫!

2007_0417__221  おっとりとした博多弁で笑いをふりまく「艇界の和み系オヤジ」原田順一も57歳。近年はA1とA2を行ったり来たりなんですが、さすがSG2Vの実力者。正味の力を魅せつけてくれました。
 6号艇の7Rは5コース進入。インから逃げる石川正美と2コースから差した足立保孝の1-2で順当か、と思った瞬間にズッポリと割り差した原田。バックは内から261ののっぴきならない3者併走状態に。こんな展開は真ん中の選手がいちばん不利なんです。しかし、原田の気合いが凄かった。ゴリゴリと左右の艇の真ん中をこじ開け、まずは内の足立を競り潰して外の石川との一騎打ちに。態勢は半艇身ほど不利でしたが、原田は一歩も引く構えを見せません。
「これ以上かぶせてきたら、2マークで道連れにしちゃるけん、覚悟ばしときんしゃい!」
 はい、インチキ博多弁ですみませんが、そんな気合いで艇を外にぶつける原田。これには年上の58歳だけど後輩という微妙な立場の石川も、呆れ果てたように身を引いて差しに構えました。完全に気迫の勝利。2着をよしとせず、あくまでアタマにこだわった原田の粘り勝ちでありました。去年の名人戦は未勝利でしたから、一昨年の鳴門GI以来ちょうど1年半ぶりの特別勝ち。
 今節の順ちゃんは、ちょっと違うぞ。
 思わず唸ってしまいましたが、K記者の話を聞いて(←前半ピットレポート参照)なるほどと感じ入りましたね。『BOATBoy』でK記者が特注選手に推奨した。それが嬉しくて、記事を切り取って保管までした、と。もちろん、K記者のために勝ったわけではありません。
「ワシを忘れちゃ困る。名人戦ではまだまだ主役でいられるし、優勝してひとつの区切りを付けたい」
 そんな自負と意欲と情念があればこそ、雑誌の小さな記事に心を震わせ保管までする行為に至ったと思うのです。今日の7Rは、まさにそんな決意の発露でありました。
 原田順一の5コースからのまくり差し。
 名人戦ならでは、とも言えるけれど、特別レースでは非常に珍しい光景を見ることもできました。今日のような瑞々しいレースを重ねていけば、自然に優勝へ総理杯へと道が拓ける。それだけの力と独創性を携えた男であることを、今節の原田はイヤというほど見せつけてくれるでしょう。

 そして、今日のベスパフォは、もうおわかりでしょう。いきなりのピンピン発進で観衆のド肝を抜いた『走る人間国宝』しかありませんな。

2R&10R/あまりにも自然なピンピン発進

2007_0417__242  加藤峻二、65歳。65歳です。48年の間に12887回走って3162勝した鉄人の辞書に、「衰え」という単語は存在しません。はい、怒るファンもいるでしょうが、私、その若さに敬意を表して峻ちゃんと呼ばせていただきます。
 今日の2RはGIの5301走目!! 3号艇の峻ちゃんは枠なりのスロー3コースから軽~く内の2艇をまくってしまいました。3連単は25000円ちょうど。ヒモが人気薄だったせいもありますが、やはりファンの間でも「65歳で勝つまではどうか」という思いが脳裏をかすめるのでしょう。
「もう1回だけ、ここに来れるよう頑張ります」
 勝利者インタビューで謙虚にこう言った峻ちゃん。その「もう1回」の機会は、4時間後に訪れました。
 10Rの峻ちゃんは4号艇。しかし、相手がやばかった。③関忠志⑤鈴木幸夫⑥西島洋一が艇界を代表する生粋のイン屋なんです。あれよあれよと外に追い出されて、最年長の峻ちゃんは6コースへ。
「後輩のクセにナマイキな!!」
 な~んて峻ちゃんは絶対に思いません。今節の52選手の希望コース(事前にアンケートを取るのです)を見回して、「外」という文字が入っている選手はただひとり。他の51選手は「内」か「内中」か「中」か「全」なのに、たったひとりの選手だけが「中外」を希望しているのです。それは誰か……はい、名人戦クイズにするまでもなく、答は峻ちゃんであります。後輩の51人が全部前付けに来ても、平気で入れちゃうんですよ。
2007_0417__336  で、10R。例によって絶対にFを切らないマイペースのスタートで、峻ちゃんはアウトから最内差しを目指します。唯我独尊というより明鏡止水。煩悩とは無縁の自然さで、「ただそこに1マークがあるから行ってきま~す」という風情で走っています。内水域では、鈴木幸夫が振り込んだり関忠志と中尾英彦が接触したりの大アクシデント。峻ちゃんは天界からそれらの事象を見下ろすような感じで先頭に立っておりました。
 急がば回れ、君子危うきに近づかず、漁夫の利……さまざまな言葉が浮かびましたが、峻ちゃんはただただ真っ直ぐに自分の道を走っていただけなんです。それが48年間も無事に強く走り続けてきた最大の秘訣なのでしょう。仙人の境地って、実はこんなことのような気もします。ふと気がつけば勝っていた、そんな感じで3連単の配当は300倍でありました。
「これで打ち止めです」
 2度目の勝利者インタビューを受けた峻ちゃんは、またまた謙虚にこう言いました。そして、65歳のスーパースターは「明日からも頑張ります」と言って、深々とカメラの前に頭を垂れておりました。より深く頭を下げるべきは、私を含めたすべての競艇ファンであり、他のすべての競艇レーサーだと思います。もちろん、峻ちゃんの前で。様々なことを学び、刺激され、触発され、感動をもらい、ただ走る=ただ生きることの素晴らしさを水面で実践してくれる峻ちゃん。目の前にあるものと真摯に向き合ってさえあれば、太く長く楽しく生きることができる。何度も教えてもらったのに、また今日も新鮮な驚きとともに65歳の峻ちゃんから学んだ気がします。
 この名人戦を優勝して66歳で総理杯へ……凡人の私は今日のピンピンでさらに夢を膨らませたわけですが、峻ちゃんにとっては今日の連勝も単なる人生の通過点。過去も未来も同じで、ただ今を通過するのみ。そんな人なんだなぁ、とつくづく痛感したピンピンでありました。(Photo/中尾茂幸、Text/畠山)


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