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この特集では田中工業「黒須田守」をはじめとした5名のライターから競艇にまつわるさまざまなレポートをお届けします。
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重く、味わいのある会話――3日目、後半のピット

 SGやGⅠでもそうそう違いがあるわけではないけれども、名人戦のピットは、10Rを過ぎたあたりから静寂に包まれている。たとえばSGは、いつも感心しているように、遅い時間帯まで試運転を続けている若手がいたりする。名人戦は、これがない。体力面では若いモンに分があるのは仕方のないことで、身体を休めることもベテランにとっては仕事のうち。それも、わりと早くから閑散とした空気になっていく理由のひとつだろう。また、エンジン整備やペラ調整に関しては、長年、本当に長年、積み上げてきたノウハウが彼らにはある。特に3日目ともなれば、ある程度の目安はついているわけで、仕事の切り上げも早くなって当たり前であろう。
2007_0419__059   もちろん、整備をしている選手が皆無なわけではない。10Rを終えたばかりの尾崎鉄也は、着替えたあとすぐに本体を外して整備室に飛び込み、かなり繊細に整備をしていた。隣には、山口博司。地元から一人でも多く準優を出したいという思いもあってか、心配そうに覗き込んでいた。やがて、隣県の佐久間理もやって来て、尾崎の相談に乗っているようだった。佐久間といえば、上瀧グループの重鎮。上瀧は「ペラは隠すな。情報も隠すな」と後輩に教えているそうだから、困っている人間には手を貸すという信念がこのグループを貫いているのだ。なるほど、佐久間の男気がそれを象徴しているということだろう。尾崎はその後、たった一人、ペラ室にこもり、12Rが始まる直前までトンカンと音を発していた。連勝発進から一気に星を落としてしまった尾崎は、明日の勝負駆けに渾身の気合で臨むことになるのだろう。
2007_0419__905  尾崎が整備室で頭を悩ませている頃、整備場では同じ10レースを走ったメンバーが、モーターの後点検をしていた。
「もっともらしいこと言うからさあ、それで♪%$#*?……」
「あはははは」
 最後のほうは聞き取れなかったが、大声で小林昌敏が言って、佐藤勝生が小声で笑った。小林が軽口で冗談を投げかけたようだ。小林の声は、静かなピットによく響いていた(その割に、ちゃんと聞き取れなかったけど)。2007_0419__415 その後も「荘林さんが……」「ああ、荘林さんが……」と、10レースを2コースからマクった荘林幸輝の話題をしている模様。これもなぜだか、よく聞き取れない。荘林にマクられたのは、おぉ、当の小林ではありませんか。そして、佐藤はカドから好スタートで飛び出したものの、荘林に伸び返されて万事休していた。
 そこに、勝利選手インタビューを終えた荘林が戻ってきて、後点検を始めた。また小林の声が響く。今度はそれなりに聞き取れました。
2007_0419_10r_005 「勝ちゃんが、『本番はベタ水面になるから、スタートが早くなる』っていうからさあ。思わず、『????』って見ちゃったよ~」
 なるほど、こういうことか。スタート展示を終えて、一期違いで同じ中国地区の小林と佐藤は本番での見通しについて意見交換をした、と。展示では小林がコンマ09、佐藤はF、この感覚で本番も行ってしまうと、ベタ水面になるだろうから、やばいことになる、と。そこで小林は本番で、少しゆっくりめに起こした、と。ところが、ベタ水面にはなってなかったから、遅いタイミングになってしまった、と。外を見ると、佐藤は素晴らしいスタートを切っている。荘林も自分より前にいる。「????」……小林の気持ちはよくわかる(笑)。結局、コンマ33。展示の感覚で行っていたら、逃げ切れていたかもしれませんね。そりゃ、軽口も飛び出そうというものだ。あ、別に口論になっていたわけではないですからね。親しき間柄の軽口の応酬。そんな感じで、小林もにこにこと笑っていました。その後は、整備場内を小林の大声と荘林のちょっと高めの声が交錯し続けてました。もしかしたら、こうした言葉のやり取りのなかから、ヒントみたいなものを得ているのかもしれないっすね。
 そんな声をBGMにふと整備室に目をやると、田中伸二が機歴簿に見入っている。残念ながら這いまくっているモーターだが、このままでは帰れない、ということだろうか。

2007_0419__174  桑原淳一の逃げ切りで決まった11Rが終わると、ピットはさらに閑散となっていった。聞こえるのは、先に書いた尾崎の槌音のみ。だ~れもいないピット……と思っていたら、山口博司、水野要、鈴木幸夫らが装着場に現われた。そして、翌日分の艇旗艇番を用意している。これ、通常は若手の仕事。同県もしくは同地区の最若手が、先輩たちの翌日の1走目の艇旗と艇番をセッティングしていくのだ。だから、前夜版をもってピットにいると、若手たちが「すみませ~ん、見せてくださ~い」と覗き込みに来るのである。その仕事を、今節はベテランがやっている。そりゃベテランしかいないんだから当然だけど、不思議な光景に見えるのもまた当然というもの。どこかに前夜版が掲示されているのか、僕や記者さんに聞きにくる選手はいないけれども、テキパキと手際よく仕事を進めている。
 そこに、レースを終えたばかりの大嶋一也が現われた。そうか、愛知支部では彼が新兵なんだ。とはいっても、大部分はすでに幸夫さんが進めていたから、大嶋は自分の分の黄色い艇旗と5番のプレートをつけ、ついでと言ってはなんだが、ボートのチェックなどもしていた。すると、11Rをともに走った石川正美も現われた。
2007_0419__113  「石川さん、前夜版、見た?」
「うん」
「セッティングはした?」
「うん……俺、明日は1回だけだもん」
 字面だけだと、なんてことのない会話のように見えるが、このときの石川はなんだか寂しげに見えた。11Rは6着。これで明日は1着条件という厳しい勝負駆けになってしまった。初戦の6着以外は順調にポイントを重ねていたのに、ここへ来ての頓挫……。心浮かないのも、当然かもしれない。なんだか、明日の1回乗り、応援したくなったぞ。
2007_0419__809_1 2007_0419__810  そのシーンを見ていると、刀根辰治と陶山秀徳が肩を並べて装着場に登場。なにやら会話を交わしつつ、装着場を徘徊し始めた。徘徊ってのは、言葉が悪いかな。というのは、この二人、装着場に落ちている鉄クズを拾い集めていたからだ。これもまた若手の仕事なのだが、通常はマグネットを使って集めているものだ。だというのに、刀根と陶山は会話に興じながら、腰をかがめて拾っている。ぐるりと一周して、手のひらに拾った鉄クズを集めている二人に、思わず最敬礼しそうになった。ご苦労様です! いや、もしかしたら、何か二人でヒミツの会話でも交わしていたのだろうか? 二人は花の42期、同期生ですからね。
2007_0419__418  ん? 整備室には、まだ田中伸二の姿があるぞ! 11R前にその姿を見た彼を、11R後、しかも12Rがけっこう迫っている時間帯に、同じポジションでまた見かけたのである。あれからずっと、機歴簿を見て、考え込んでいたというのか。ただし、今度は隣に佐藤勝生も座っている。今日はもう、モーターを格納してしまった。しかし、どうしても気になるところがある。これまでのモーター成績や整備履歴を調べて、当たりくらいはつけておこう。そんなところだろう。そんな田中に、佐藤も手を貸さずにはいられなかった、ということだろうか。実際にモーターを触らなくても、できることがある。田中の背中は、そんなことを物語っていた。

 12R、傾いてきた陽射し、心地よい風、アリーナに選手が集結した。いち早くやって来たのは、沖口幸栄とおぉ、岡孝。岡をこの場所で見るケースが多いですなあ。そこに石川正美も加わって、水面を見ながら、特に言葉を交わすこともなく、陽光と風を浴びていた。うーん、いい感じの黄昏であります。
2007_0419__088  レースは金井秀夫が2コースからイン加藤峻二を差して1着。だが、実はこのレースにはちょっとした異変が起きていた。スタート展示、インを奪ったのは高山秀則、2コースは関忠志だったのだ。しかし本番はイン加藤、2コース金井。まったく違う進入になっているのである。形だけ見れば、本番でも回りこんだ4号艇の高山を3号艇の林がブロックして、関は内に潜り込む機会を失った。ポッカリ開いたふところに、艇番通りに1号艇・加藤、2号艇・金井が入る。そんな感じ。レース後、カポック脱ぎ場で顔を合わせた当事者たちは、当然のように、そのことを振り返った。まずは、林が笑いながら、口火を切る。
2007_0419__732 「本番のほうはかかってただろ?」
「うん、足が滑っちゃって(笑)」
「お前、練習で見せすぎだよ(笑)。ほんと、驚いたよ」
 林、高山、加藤の順番です。展示では高山が出て行ったので入れたが、本番では林の艇が高山にかかる形になっていたから譲らなかった。そうだよね、高山? まったくっす、足がすべっちゃったもんで、出ていけなかったっすよ、林さん。2007_0419__503 高山、スタート展示であんなに行くから、みんなに警戒されちゃうんだよ、まったくもう、まだまだ若いよなあ。まさか俺がインになるとはさあ…………そんなところでしょうか? 加藤御大は昨日のちょい悪オヤジ選抜と同じ3着だが、昨日のレース後よりはずっと気分よさげだった。林も高山もそうだが、意外な展開になったもんだから笑っちゃう、てな感じでしょう。もっとも、結果的に想定外の5コースとなってしまった関は、ピットに戻ってきたときには、ちょっと憮然としていた表情に見えましたが。

 熟練たちの、それぞれの会話。正直、私のような若造の新米には、聞き取れなかったり完全に意味が取れたかどうか危ういもののほうが多かったが、しかしそこにはきっと、想像を絶するほどの経験から生まれた重い言葉があるのだろう。また、同じ苦労を星の数ほどしてきた彼らだけに通じる言葉や感覚もあるのだと思う。それらを完璧に理解はできなかったかもしれないけど、そんな会話は実に耳に心地よいものだった。金言、箴言はいつだって、人生の先輩から生まれるものなのである。あ、我らが気になる大西英一、今日は誰かと会話を交わしているところをあまり見なかった。去年の名人戦では、誰よりもたくさんの言葉を聞いた気がするのに。今節の大西は、まだお茶目な発言を聞かせてはくれないのである。明日こそ!(PHOTO/中尾茂幸 TEXT/黒須田守)


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『しげ爺の競艇名人戦予想』 2007/04/20 【しげ爺の競艇予想】
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