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この特集では田中工業「黒須田守」をはじめとした5名のライターから競艇にまつわるさまざまなレポートをお届けします。
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変わる空気と空模様――準優勝戦前半のピット

1img_9718  昨日までとは空気が変わった――。朝のピットを取材に行くと、すぐにそう感じた。
 昨日は勝負駆けの日でありながらも、ピットのあちこちでは「同窓会的な和やかな場面」が見かけられていたが、そうした場面に出くわすことがぐっと減り、準優勝戦メンバーを中心に黙々と作業が行なわれていたのだ。
 整備室でモーター本体に手を入れている準優メンバーはさすがに見かけられなかったが、ペラ小屋や装着場などを見ていれば、すぐに準優に出る18人の存在が確認される。
 他のSGやGⅠでも、準優勝戦の午前中には姿が見かけられない選手が何人かは出てくるものなので、これはなかなか珍しいことなのだ。

2img_1110  ピットの空気の違いをいちばんに実感させてくれたのは水野要だ。
 水野の姿は、「一般戦のピット」でも見かけたことがあるが、気持ちを張り詰めたような表情で作業をしていた様子が、強く印象に残っていた。しかし、昨日のピットの水野は、それとは別人のように、いろんな選手と話しながら笑顔を見せ続けていたのだ。
 それが、今日は今日で、また一転!
 昨日の笑顔を封じ込めたように、一般戦のピットと変わらず表情を引き締め、作業を続けていたのである。
 昨日までは気をゆるめていたということではまったくないが、「勝負モードに入ったのだな」と、ひと目見たときから感じたものだ。

3img_9684_1   今朝、「ペラ小屋の住人」になったように、長い時間、ペラを叩いていたのが“走る人間国宝”加藤峻二だ。
 隣にいた桑原淳一と話をしているところも見かけられたが、ほとんどの時間は他の選手と口をきくこともなく作業をしていたのだから、その集中力には驚かされたものだ。
 その桑原(トップの写真)も、今朝のピットで気になった一人といえる。
 ペラ小屋を出たあと、装着場で、ボートに着けてあるモーターを見ていたが、その時間が非常に長く、細部にわたってモーターを確認している姿には「静かな闘志」がみなぎっているように見えたのだ。その雰囲気がなんとも良くて、見ているこちらも応援したくなってきた。

4img_1187  TVインタビューを求められた荘林幸輝は、「作業をしながらでいいですか?」と答えていたが、その後は当然、作業の手を止め、インタビューに応じていた。
 それくらいやるべき作業が山積みになっているのだろうかとも思ったが、これは筆者が以前に行なった取材でも「仕事に行った以上は仕事のことだけ目いっぱいやろうと思ってるんです」と答えていた荘林の性格から来ているものなのだろう。
 インタビュー後もとりたて慌てて作業をしている様子ではなかったので、「今日の作業はどうですか?」と確認してみると、「今日はやらないと思います」との答えが返ってきた。
「(スタート)特訓のあと、微調整をするかとは思いますが、それまでは予備のペラを叩いていようかと思っています。この節で使うものではないんですけどね」と続けるのだから、本当に時間をムダにしない人なのだ。
 荘林は「朝の時間帯では気候がどうなるかもわかりませんから」とも話していたが、とにかく気候の変化が激しい今年の名人戦だ。
“今節の大本命”といわれる大嶋一也などもエンジン吊りの手伝いなどには出てきていても、自分の作業をしている様子はなかった一人である。準優勝戦に向けては、“特訓後の微調整”が大きなポイントになってくるのだろう。

5r0013800  早い時間帯にはボートの各所をチェックしていた金井秀夫が、アリーナ付近でひと息ついていた姿が絵になっていたので、カメラを向けると、金井は顔を皺だらけにして(←もとからではあるが……)、ニッコリ。
「写真撮られちゃった。煙草吸ってるところ」と、いたずらっ子のように言ったので、「今日の作業はどんな感じになりそうですか?」と、やはり確認してみた。
「今日はのんびりですね。試運転をしてからです」と言うので、やはり荘林と同じような状態にあるわけだ。
 昨日までとくらべて、ピット全体の空気は引き締まっているとはいえ、それぞれの選手は、自分のやるべきことと、やる必要のないことをしっかり把握しており、余裕を失わない。“いかにも名人戦”といえる「大人のピット」なのである。

6r0013802  1Rで勝利した西和則にも声を掛けてみた。西は昨年の名人戦で、「(成績的に)もう名人戦には出られないだろうから」と、同期である水野とのツーショットを撮ってほしい、と僕に言ってきてくれた選手なのだ。
 そのことを話して、「今年も出場されているじゃないですか」と振ってみると、「ちょっと頑張ったら、たまたま出られたんです」と笑顔を見せてくれた。
「1Rもお見事でした」と続けると、やはり「たまたまです」との回答。「02のスタートになってしまいましたから」とも苦笑していたが、そんな西は、本当に謙虚で、気のいい人なので、大好きだ!
 その1号艇で6着に敗れた西島洋一は、以前に取材したこともあるので、「今節はモーターが厳しいようですね」と話しかけてみると、苦笑しながら頷いていた。
 それでも、2Rが始まる前には、偶然ながらも、西と西島の「ザ・ウェスタンズ」が並んで作業をしているところが確認された。モーターを点検し、回転数を確認したあと、西は係留所付近でボートを走らせ、状態を入念にチェックしていた。
 たとえ準優に出られなくても、選手の前向きな姿勢は変わらない。
 この人たちが作業をしている姿は、見ていて本当に気持ちがいいものなのだ。

7img_9714 「艇界のクロちゃん」こと黒須田守でなくても(本日からピット担当が変わりました)気になる大西英一はどうかといえば……、“通勤着にマスク”という姿でペラ小屋で作業をしていたのだから、気にならないわけがない。通勤着は通常、自分のレースが終わったあとに、宿舎に戻るのを待つ選手が着替えるものなのだから、こんな時間にそれを着ている選手などは見たことがなかったのだ。これも「大西流」といえばそれまでかもしれないが、その理由はいったい何なのか?
 TVのインタビューに対して、「僕は歌なんか歌ったことがないんです。照れ屋ですから。目立たないように生きています」と、準優とはあまり関係がないような回答をしていたあとに、「どうして通勤着にマスクなんですか?」と改めて訊いてみた。
 すると、「風邪で少し熱が出ちゃって、脱げないのよ。鼻水出ちゃって恥ずかしい」と言うのである。「今日は一回乗りでよかった。……熱かったり寒かったりするでしょ。もう、ぜんぜんダメ」とも続けていたが、そう言いながら、とても“ぜんぜんダメ”には見えないのがまた大西らしいところだ。
 そのしばらくあとには、競馬のジョッキーが着る勝負服のようなデザインのジャンパーに着替えて、ハキハキ、他の選手のエンジン吊りを手伝っていたのだから、やはりこの人は元気である!
 風邪などには負けず、昨日と変わらぬファイトを見せてくれるものと確信された。
(PHOTO/山田愼二、内池=金井&ザ・ウェスタンズ TEXT/内池久貴)


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