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ボートレース特集 > 優勝戦 私的回顧
この特集では田中工業「黒須田守」をはじめとした5名のライターから競艇にまつわるさまざまなレポートをお届けします。
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優勝戦 私的回顧

鬼心のインモンキー

第8回競艇名人戦 優勝戦

①荘林幸輝(51歳・熊本)
②加藤峻二(65歳・埼玉)
③大嶋一也(49歳・愛知)
④山口博司(48歳・長崎)
⑤原田順一(57歳・福岡)
⑥小林昌敏(51歳・山口)

2007_0422__081  大嶋一也、初出場で初V。終わってみれば、圧倒的な優勝候補の独壇場だった。抜群のピット離れから加藤峻二の抵抗を振りきってイン奪取。100mを切ったあたりの起こしから、スリットはコンマ11のトップS。これでは他の選手に勝ち目はない。1マークを、ただ握って回るだけで第8代の名人が決定した。
「本当は、3コースから勝ちたかったんですけど……」
 表彰式での大嶋の言葉は、いささか歯切れの悪いものだった。スタート展示は枠なりの3コース。それが、あまりのピット離れの良さとイン屋の性で、小回り防止ブイをくるりと先取りした。大半の観衆が描いていたレースはここで完全に崩れたわけで、大嶋としても不慮のイン戦だったに違いない。不本意とまではいかないだろうが。
 このシリーズ、大嶋は孤独な戦いを強いられていた。クラスはB1とはいえ、実力はスーパーA1級。ただひとり、「SG常連」という肩書きを背負っての参戦だった。
2007_0422__015 「名人戦……まだピンと来ないんです」
 表彰式で、歯切れの悪い言葉が続く。自分がこの名人戦に出ていいのか、優勝したがこれでよかったのか……尊敬すべき大先輩たちと水面をともにしつつ、大嶋の胸中には複雑な思いが去来していたことだろう。
 大嶋以外の5人には、それぞれ勝ちたいという強い思いがあった。荘林幸輝は9人も参戦した42期の代表として白いカポックをまとっていた。「花の42期」と呼ばれながら、SGはいまだ無冠。ここを勝って、来年の総理杯へ。それが荘林だけではない42期9人の総意だったはずだ。
 65歳の加藤峻二には最年長GI制覇と66歳でのSG参戦という凄まじい記録がかかっていた。本人にそんな意図はなくとも、私も含めて全国のファンがその偉業を期待していた。
 山口博司には唯一生き残った地元の戦士として、スタンドに詰めかけたファンのためにも勝たねばならない、という強い思いがあった。
 原田順一はつい3、4年前までSGの常連として最前線に立ち続けた男だ。「まだまだワシを忘れてもらっちゃ困る」という、のっぴきならない自負があった。
 小林昌敏には、去年、万谷章のまくりに一歩及ばず準優勝に敗れた悔しさがあった。今年こそは、の思いは誰よりも強かったはずだ。
 では大嶋一也には……高いモチベーションを保つべき要素が、見当たらない。来期からバリバリのA1に復帰する大嶋。GIはもちろん、ダービーなどのSG参戦もほぼ約束されている。この名人戦を勝たなくとも、自力で来年の総理杯のチケットも勝ち取れる男でもある。
 はじめて名人戦のピットに立った大嶋の気持ちは、ある程度察しがつく。GIに斡旋されないロートルA級戦士たちの決意。優勝はともかく、この名人戦を同窓会のように楽しみにしているB級戦士たちの笑顔。それらと一線を画して、SG常連の大嶋はピットに立っていた。
2007_0422__096  そして大嶋は一刀両断のインモンキーで、他の5人の切実な思いと名人戦ならではの空気を切り裂いたのだ。精鋭の武士が先輩の武士を斬る哀しみ。そんな哀愁が、大嶋の顔にへばり付いていた。
 あと3年もすれば、同じくSG常連の今村豊、西島義則、山室展弘などが一斉にこの名人戦の舞台になだれ込む。おそらく、彼らもまた大嶋と同じような複雑な思いを抱くに違いない。同時に、名人戦の本来の意義も問われることになるだろう。
「本当は3コースから……」
 大嶋一也は様々な複雑な思いを喉の奥に詰め込んで、勝った。勝つべくして勝った。いや、心を鬼にして勝った、というべきか。(Photo/中尾茂幸、Text/畠山)


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