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この特集では田中工業「黒須田守」をはじめとした5名のライターから競艇にまつわるさまざまなレポートをお届けします。
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さまざまな笑顔――3日目、後半のピット

_mg_5497  人は、ツラいときにも笑える動物である――5Rで、田中信一郎がフライングに散った。地元SG。不調に終わった昨年一昨年のリベンジ。鳴門周年を優勝して、故郷に戻ってきた田中は、誰よりも気合を強く抱いて笹川賞に臨んだ一人のはずだった。5Rも、5号艇から敢然と前付けに出てインを奪ったのだから、ここに懸ける思いはハンパではなかったのだ。しかし、結果は非情だった。まさかのスリットオーバーにより、予選最終日を待たずして終戦。レース後に行なうもろもろを終えて、モーターがいったん運び込まれた整備室に向かう信一郎は、笑みを浮かべていた……。
 その笑みを、どう判断していいのか、よくわからなかったというのが正直なところだ。焼けるような胸の内を覆い隠すための笑みだったのか。それとも、後悔を残さない戦い方ができたことへの彼なりの満足感だったのか。どちらとも思えるし、どちらとも違うような気がする。わからない。ただ、信一郎は、艶やかな笑みを浮かべていた、のである。
 信一郎は、戦った。真っ向から、戦った。その結果のどこに瑕疵があるというのだろう。彼の笑みを見て、必ずや近い将来、強くてどうしようもない信一郎が帰ってくることを確信した。そういえば後半10R後、彼は今日も即座に整備室に飛び込んで、本体を整備していた。昨日と同じように。一昨日と同じように。信一郎の笹川賞はまだまったく終わっていない。明日からも、全力で戦う。

01_0248  人は、ツラいときにも笑える動物である――11R、先頭を走っていた吉川元浩が、3周バックで白井英治に追いつかれ、逆転を許してしまった。ターン漏れならともかく、直線で大きく開いた差が詰められるのは、実に珍しいシーンである。風にあおられたのか、バウが浮いて、艇の安定を欠いている間に、内から白井に喰らいつかれてしまった。吉川にとっては、理不尽な敗北だった。
 ピットに戻ってきた吉川は、さすがに瞳の奥に怒りを隠せなかった。もともと男っぽい顔つきであるが、さらに目がキュッと吊り上がり、ぶつけどころのない怒りにぐっと耐えている。そのままカポックも脱がずに整備室に向かった吉川が、モーターを格納して控室に戻ったのは、ほかの選手が姿を消してから5分ほども経過していた。
 吉川が控室前に戻ったとき、ちょうど着替えを済ませた選手たちがモニターで11Rのリプレイを見ていた。そのすぐそばにいた池上カメラマンによれば、吉川はモニターに見向きもせずに、控室へと入っていこうとしたそうだ。ところが、それを仲間が止めた。
_mg_5519 「まあ、まあ、まあ、一緒に見ようや」
「そうや、反省会しようや」
 大笑いしつつ、からかうように吉川の手を掴んだのは、同じレース3着の松井繁と、12Rの展示を終えた上瀧和則。こんなこと、めったにないんだから、見とかな損やでえ。そうやそうや、どうしてこうなったか、じっくり見てみようや。なあ、ゲンコウ? 思わず吉川は破顔一笑して、その輪に加わった。
 たぶん、吉川は救われた、と思う。悔いの残る失敗も、周りが笑ってくれるから救われる、ということがある。ピットでは、上瀧がよく、こうして仲間の後悔を解消している姿を見かけるが、それが勝負師たちの優しさ、なのではないか。もちろん、吉川の抱いてしまった悔しさが、ゼロになるわけではあるまい。明日を終えての得点状況次第では、そこで失ってしまった2点を惜しむ事態だってあるかもしれない。しかし、仲間とともに笑えたことで、心の重石が軽くなるということはある。(吉川をさらに追い詰めようとする駆け引きの可能性もあるけどね)戦友同士の絆。ガチンコでぶつかり合う者たちの気遣い。

2007_0530__457_1  人は、ツラいときにも笑える動物である――その上瀧和則は、12Rで2コースから果敢に外を攻めたものの、流れて5着。快進撃がストップした。ピットに戻ってきた上瀧は、仲間の前では笑顔を見せていたが、一人になって控室へ歩き出すと、途端に厳しい表情となった。まあ、これは報道陣が群がっているあたりではいつもの光景ではあるけれども、今日はやはり、悔しさを噛み締めているように見える。その面差しには、やっぱり鬼神のごとき迫力がある。
2007_0531__069  その上瀧を、展開を突いて差し抜けた池田浩二が待ち構えていた。最近、二人が仲良さそうに行動をともにするシーンを何度も見かけており、支部は違うものの通じ合うものがある二人のようだが、そんな上瀧と池田が同じレースを戦い、明暗を分けた。上瀧がマクったからこそ、池田に展開が向いたということも言えるわけで、だからだろう、池田はまず苦笑いを上瀧に向けて、ペコリと頭を下げた。ありがとうございます、とも、勝っちゃってすいません、とも受け取れる、そんな笑顔。それを見た上瀧は、口元をほころばせて、池田にひとつ、うなずいて見せた。まあ、しゃあないのう、といった感じの笑顔を見せながら。戦い終わればノーサイド。ましてや、仲間に勝利がもたらされた。笑って祝福する器量は、上瀧にはある。
 ただ……僕には、上瀧の目が完全には笑っていないようにも見えたのだが……。敗戦の直後は、どうしたって悔恨を拭い去り切れない。それが勝負師というもの。後輩の勝利を称える心と、自身の敗北に苛立つ心と、両方が同居する複雑な胸中。勝ち負けの世界で生きる者の本能は、常に引き裂かれそうな思いを強いる。だから、いつだって勝利だけを目指す。

2007_0530__023  人は、ツラいときにも笑える動物である――もちろん、嬉しいときにも人は笑う。3日目時点で予選1位に立った瓜生正義。ついに、悲願達成か……そんな予感に満ち溢れる、最高の成績。こうなったら、本気で期待するしかない。
 瓜生は、どんなときでも感情の起伏を表に出すタイプではなく、いつも穏やかで優しげな顔つきを見せているが、この絶好の成績のなかでも、瓜生はさして変わらない表情で、レース後の時間を過ごしていた。これが強みでもあり、また彼を無冠の帝王たらしめている要因でもあるのだろう。
2007_0531__204  ただし、今日は一度だけ、満面の笑みをレース後に見かけている。どの時間帯だったのか、はっきりと覚えていないのだが、何Rだかが終わって、エンジン吊りに多くの選手たちが出てきているときだったことは間違いない。これまた誰だったのか確認し切れなかったのだが、何か声をかけられた瓜生が、そちらに振り向いて、それはそれは素晴らしい笑顔を向けたのだ。童顔の瓜生だけに、ピュアさも感じさせるもので、気分の良さがそのまんま伝わってくる笑顔。これ、最終日最終R後にも見たいでしょう! ねえ? 明日、大敗しなければ、準優で待望の1号艇が回ってくる。優勝へのカウントダウンが始まる! 明日もきっと、笑顔の瓜生に会える。

2007_0530__576  人は、ツラいときにも笑える動物である――気になる山崎智也には、むしろそれを強く感じるということを、総理杯あたりから何度か書いている。今日もそうだ。前半6Rで転覆を喫してしまった智也にとって、12R1号艇は絶対に落とせない正念場。しかし、上瀧の攻めに抵抗している間に、池田に差し抜けられた。そしてレース後、池田は上瀧に笑いかける前に、智也にも同じ笑顔を向けていたのである。
 もちろん、智也は笑顔で返した。そして……直後に笑顔は消えた。2着に残したことで、勝負駆けには残った。ピンピンという厳しい条件ながら、逆転の目は飛んでいない。それでも……智也の顔にはやるせなさが浮かんでいた。なのに、池田には笑顔を返した。悲しい笑顔。明日は、心からの笑顔に変わるだろうか。(PHOTO/中尾茂幸=上瀧、池田、瓜生、山崎 池上一摩=田中、吉川、モニター観戦 TEXT/黒須田守)


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コメント

笑顔は、絵顔です。
人は、常に変化する生き物です。人は、人がいてこそ人なのです。支えあうことによってこそ、人足りえるのです。
 絵(写真)を見ることは、その場面を心で理解するのにとても有意義な方法だと考えます。
 写すということにより、心(真)が写されます。
顔は、心を写す鏡です。
 人の変化していく姿は、いい事も悪いことも受け入れていく諸行無常(日本人の美徳)をあらわしていて勉強になります。
 人の努力する姿と皆様の感じた心(真)を今後も掲載して下さい。楽しみにお待ちしています。

投稿者: 藤井 幸広 (2007/05/31 21:56:17)
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