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この特集では田中工業「黒須田守」をはじめとした5名のライターから競艇にまつわるさまざまなレポートをお届けします。
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強者の勝負駆け――4日目、前半のピット

2007_0830__0294  松井繁にとって、勝負駆けという状況はどんな意味をもっているのだろう。
 王者と呼ばれるほどの男にとって、4日目を準優当確で迎えることは、何の不思議も感じない当然のことである。むしろ、今日のように2・3着条件で臨むことのほうが訝しく思えたりもする。モーターを抽選で決めたり、生き物のように相場が安定しないペラが重大な要素だったりする競艇においては、松井であろうと予選道中を苦戦してもおかしくないのに、常に上位で当然と思われてしまう松井繁という存在。もちろん、王者の宿命、である。
 では、簡単とは言えない条件を強いられている松井が、パンパンに張り詰めてピットにいるのかというと、そうではないから驚かされたりもする。懸命の整備を続ける齊藤仁が、松井と足合わせをしていた。二人して係留所に戻ってくると、仁はボートを降りるや猛ダッシュで松井のもとに駆け寄り、松井がアドバイスらしきことを始める。神妙に聞き入る仁、真剣に言葉を投げかける王者。組み合わせの意外性も含めて、不思議な光景のように思えた。勝負駆けに対峙しているはずなのに……。
 その10数分後、松井は鎌田義と額をつき合わせるように、話し込んでいた。鎌田は1Rで転覆していて(体のほうは「問題ないっす!」とのこと)、モーターを洗浄し、ようやく組み直しが終わって再装着していたのだが、そこに松井が歩み寄ったかたちだ。ときに、声をそろえての大笑いも聞こえてくるから、深刻な話をしていたわけではなさそう。松井は、ペラを手に何度か歩き始めては、また鎌田のもとに戻って会話を続け、そして爆笑……。松井と鎌田はよく行動をともにしているが、それにしてもやっぱり不思議な光景。勝負駆けに対峙しているんですよ、彼は……。
2007_0830__0386  王者ともなれば、勝負駆けなどという概念は、ほとんど意味をもっていないのか。常に確勝を求められるのだから、得点とか勝ち上がりなどとは別次元で戦っているということなのか。おおいに考えさせられた、今日の松井繁……。

2007_0830__0234  松井とは対照的なのが、菊地孝平だ。菊地は、ボーダー6・00と想定すれば、準優当確。もちろん、予選2位という好ポジションにいるだけに、準優の好枠を狙って少しでも上位の着順がほしいところだが、しかし胃がキリキリと痛むような思いとは無縁のはずである。だが、今日の菊地は「思索モード」に入っていた。菊地がここ一番で見せる、もはや周りなどいっさい目に入らないがごときの、物思いにふける姿。レース直前だけでなく、ピット内を移動している際にも、そんな様子なのだ。まさしく、頭脳というコンピュータがフル回転している状態。聡明な菊地孝平を象徴するワンシーンでもある。
 こんな彼をもっとも見かけることができるのは、やはり優勝戦や準優勝戦だ。そして最近では、条件つきの勝負駆けに臨む日も、時折見かけるようになっていた(昨年の浜名湖グラチャンでは初日からだった)。そんな菊地が、当確マークをつけた今日も見られた。これが菊地の進化なのか。それとも……。残り2日の菊地孝平が楽しみになった。

2007_0829__0313 「ダメだーっ」
 後ろから聞き慣れた声が聞こえた。振り向くと、平石和男。こんな言い方はおかしいけれども、満面の苦笑いだ。2R、1号艇を活かすことができず、ほぼ終戦という状況に、平石は笑うしかなかったのだろう。
「簡単に期待を裏切っちゃってねえ……」
 自嘲気味にそう言う平石に、どんな言葉をかけていいのか、わからなかった。渾身の勝負を実らせることがかなわなかった戦士に、何を言ったらいいのだろう。いや、それはこちらの考え過ぎかもしれない。平石は、困ったように顔をしかめた僕を見ても、苦笑いが……いや、むしろごく普通の笑顔になっていたのだから。本人にとっては気持ち的にも決着がついていて、だからこそ“自嘲することができる”状態になっていたのかもしれないのだ。これもまた、勝負駆けの真実、かもしれない。

2007_0830__0211  勝負駆けだからなのか、整備室に意外な顔があった。瓜生正義である。瓜生は予選3位。アシ色は相当よく見えているのだが、いったいこれ以上何が必要なのか。しかも、本体を調整しているのだから、驚くしかなかった。僕がピットにいる間に、その真相を確かめることのできる余裕がなかったことは申し訳ないが、12R登場の際には、部品交換状況などに注意してほしい。
2007_0829__0832  本体整備をしていたもう一人は、吉川元浩。1着、2着という好発進ながら、その後の停滞により、今日は2着条件。一転して、苦しい戦いを強いられることとなった。初日あたりには「悪いところがない」という機力コメントだったのだが、変調があったのだろう。ある意味、今日の前半、もっとも忙しそうにしていたのが吉川である。これが報われれればいいのだが。
2007_0829__0684  忙しそうといえば、今垣光太郎がピット内を走っているところを何度か見かけた。これはもう、いつもの光ちゃん。試運転、整備室、装着場などの間を駆け回っているのが、光ちゃんスタイルなのだ。ただ、いつもと違う、特にシリーズ前半と違うのは、手にペラを持っていた点。もう本体に手をつけるところはない、ということかもしれないと思った。2着条件も、1号艇ならクリアは難しいことではない。

2007_0831__0310  さて、勝負駆けと関係ない一日を過ごすことが寂しすぎる気になる山崎智也。先ほど、平石のことを記したが、その後、彼が歩み寄ったのが、智也のところだ。ペラを装着する智也と、平石は談笑。しかし、平石が去った後の智也はすーっと表情を硬くしていった。間違いなく、現状に納得していない智也がそこにいた。やはり、男っぽいのだ、智也は。(PHOTO/中尾茂幸 TEXT/黒須田守)


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