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この特集では田中工業「黒須田守」をはじめとした5名のライターから競艇にまつわるさまざまなレポートをお届けします。
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チルト3の憂鬱――3日目、前半のピット

2007_0829__0813  1R。チルト3を履いた坂口周が、思い切り引いた位置からスロットルを握る。
「あら、遅いんじゃない?」
 ピットの記者席で見ていた佐藤正子さんが、その瞬間に呟いた。現役を離れたというのに、選手を経験された方の見立てには驚嘆させられる。そのとおり、坂口はスリットに近づいていっても、内の艇団から遅れたまま。コンマ53というドカ遅れのスタートで、チルト3の威力を発揮できないまま、スリットで戦いを終えた。
2007_0829__0667  なんとか守田俊介をかわして5着で入線した坂口は、ピットに戻ってくると、「ぜんぜんダメ」と言いながら苦笑いを連発した。出迎えた菊地孝平や坪井康晴も、苦笑い。といっても、それはそれは優しい苦笑いで、坂口を癒そうとしているものだったのは間違いない。ようするに、スタートがわからなかった、のだ。スタート展示はコンマ27のフライング、本番はコンマ53の後手。たしかに、伸びアシはすごい。坂口も試運転でその手応えはつかんでいたからこそ、本番でもチルト3に挑んだ。しかし、レースには、スタートという要素もある……。このじゃじゃ馬を乗りこなしてきたミスターチルト3の偉大さが改めて実感された瞬間だった。
2007_0829__0149  ところが……。続く2R、そのミスターチルト3も蹉跌を味わわされる。阿波勝哉、痛恨のフライング。コンマ06の勇み足。赤坂俊輔もコンマ02のスリットオーバーで、全体的に速いスタートだったことで、出し抜きたい阿波もレバーを握る勘が狂ったのか。ちなみに、佐藤正子さんは「置きにいってたもんねえ……」とおっしゃっていた。もしかしたら、阿波はすでに認識していたのかもしれない。
2007_0829__0633  ピットに戻った阿波は、まず競技本部まで走って行き、おそらく説諭を受けて装着場まで再び駆け足。エンジン吊りを手伝った関東勢に頭を下げて回り、最後は同じレースに出ていた選手代表の大嶋一也のところにいって、深々とお詫びをした。大嶋は、気にするな、というふうに、右手をあげて応えた。菊地が、さっき坂口にも向けていた優しい苦笑いを阿波にも向けていた。やっちゃいましたね、そんな風情はきっと、阿波の心を軽くしたはずである。
 一連の“チルト3の憂鬱”を見ながら、複雑な思いはどうしてもぬぐえなかった。レースを、いや競艇自体を面白くするはずのチルト3ブームが、一方でその扱いの難しさゆえに、こうした痛々しい状況を生むこともあるということ。チルト3は禁断の果実なのか……。しかし、僕は主張したい。エキスパートである阿波はもちろん、チャレンジした坂口も素晴らしい! だから、これがムーヴメントの逆風にならないことを祈りたい。そのためにも、チルト3チャレンジャーたちを称えたい! 坂口、頑張れ! 阿波、このあとも超絶ストレートを見せてくれ!

2007_0829__0897  革新的な必殺技に挑む若者の姿は清々しいが、一方で円熟のベテランたちの貫禄も粋な美しさをたたえている。2R、進入で動いた6号艇の大嶋一也だったが、その際、2号艇の平田忠則が水をもらうことになってしまった。外から動いたのは、4号艇の田頭実もそうだったし、平田自身も抵抗する動きを一瞬見せていたから、決して大嶋だけがその事態を生み出したわけではなかったが、レース後の大嶋はヘルメットを脱ぐ間もなく、平田のもとに駆け寄った。何かを話しかけ続け、最後に右手をあげて謝意を示す。選手代表、今節最年長のベテランが、まだ若手の部類に入る80期の平田に頭を下げる。なかなかできることではあるまい。そして、これこそが長きにわたって激戦を戦い抜いてきた者の潔さ、であろう。まさしく、武士、である。そんな大嶋に対し、平田はむしろ恐縮ぎみ。そりゃそうである。ということは、こうして後輩に謝ることが、牽制にもなっているのか。ともかく、そこには歴戦の強者だけが醸し出せる奥深さがあった。
2007_0829__0318  時間は前後するが、1R前のこと。装着場では、平石和男がかがみ込んで、ペラを装着していた。彼はBOATBoyが誇るライターさんでもあり、だからピットで会うたび、軽快に挨拶をかわしてくれる。今日ももちろん、笑顔を見せてくれている。その場を少しの間離れて、再び戻ってみると、平石のもとには熊谷直樹がやって来ていて、真剣な表情で話し込んでいた。で、これがまた嬉しいのだが、僕の姿を認めた熊谷は、会話の最中だというのに会釈をくれる。もちろん僕は恐縮して、ペコペコと必要以上に会釈を返したりしてしまうのだが、彼のこうした男っぽさにはひたすら敬服するしかない。
 で、驚いたのは、二人の会話はかなり長い間、続いていたことだ。選手同士がレースの合間に装着場などで交わす会話は、もちろん時間も内容もさまざまだが、それほど長くは続かないように思える。整備、調整に忙しい時間帯の会話だから、まずは必要なことを集中して話しているのだろう。だというのに、延々と、しかも真剣な表情で話を続ける平石と熊谷。彼らだからこそ分かり合える、ベテランならではの話があるということか。そんないぶし銀たちのすがたは、とにかく素敵なのだ。

2007_0829__0798  一気に話の方向性が変わるが、えー、ハツラツとした若者は気持ちがいい、というお話です。モーターを吊る架台置き場のあたりに突っ立っていたら、山崎哲司が架台を運ぶため、やって来た。中尾カメラマンの写真の弟子ということで、中尾氏をアゴでこき使っているワタシにも仲良くしてくれるわけだが、ふと僕の腹を見て、ツンツンと突き始めた。「メタボ~! メタボ~! やばいっすよ、これぇ~!」。いや、テッちゃん、メタボどころじゃありません。何しろ、ワタシ、山崎哲司2人分の体重ですから、はい。「マジっすか~。しっかし、これ……産まれる寸前じゃないっすか~」。万年臨月状態ですから、はい。産まれたら、名付け親になってね。「だっはは~」、大笑いしたテツは、架台を滑らせながら、しかもその架台に乗っかってローラースケートみたいに軽やかに滑走しながら、去っていきましたとさ。うーむ、みなさんもメタボには注意しましょう。ワタシは手遅れですから。

2007_0829__0440  さて、今日はなんとしてもポイントアップを!気になる山崎智也。様子自体は昨日とあまり変わらないが、ペラ調整にかなり熱が入っていた(ま、いつもペラ調整は熱心にしていますが)。しかし……6Rは3着。苦しい状況に追い込まれてしまった。明日からも諦めずに頑張ってもらいたいが……。(PHOTO/中尾茂幸 TEXT/黒須田守)


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