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この特集では田中工業「黒須田守」をはじめとした5名のライターから競艇にまつわるさまざまなレポートをお届けします。
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 ボートレース特集

pure――初日、後半のピット

2007_0827__0382  すでに皆既月食が始まっていた頃、だっただろうか。蒲郡競艇時間でいえば、11R前のことになる。齊藤仁が、なんと、装着場からボートリフトへと艇を運び、そのまま着水した。い、今から試運転? すでに一便で宿に帰った選手もいるなか、齊藤仁はまだ水面に出て行って、闇の中を走ろうというのだ。たまげた。
 さらに驚いたことに、試運転のプレートをつけた艇があと2つ、係留所にあった。都築正治、そして阿波勝哉だ。2人と合流した齊藤仁は、やがて足合わせを始める。閑散とし始めていた装着場に、エンジン音が轟いた。なんだか、昼間よりもずっと大きな音のように聞こえた。
2007_0828__0084_2  アナウンサーの坂田博昭さんに、齊藤仁は言ったそうである。明日は2Rと6R、だから今試運転しても、明日どうなるかはわからないんです。そりゃそうだ。気温が下がり、風が心地よく感じられる時間帯に、齊藤仁は都築や阿波と走っている。しかし、明日のレースは、まだ日が高く、きっと真夏の暑さを感じさせる時間帯。この試運転でセッティングをつかんだところで、明日のレースに効果を発揮できるかなんて、まったく保証がない。
 それでも、齊藤仁は走らずにはおれなかった。それは、都築も、阿波も、同じこと。都築は地元SGで後悔のない走りをするために。阿波は、一秒でも早く、チルト3仕様を完成させるために。
 今走っても、わからないかもしれない。でも、走らなかったら、何もわからない。
 坂田さんがそう言った。齊藤仁は、己の思いに素直にしたがって、水面に飛び出した。都築も阿波も。みるみる月が欠けていくなか、そんな現象には目もくれず、彼らは走ったのだ。

2007_0828__0058  選手控室前で装着場を眺めていたら、作業を終えた笠原亮が、控室へと足取り軽く戻ってきた。目が合う。笠原は、爽快な笑顔を見せた。
「カッコ悪かったっすねえ」
 9R、笠原は1マークを回って先頭に立ったものの、2周1マークで山本浩次の逆転を許していた。それを指しての、反省の意も込めた言葉だろう。ようするに、ターンミスだった。ターンマークにぶつかりそうになり、レバーを落とした(笠原は「やめちゃったんです」という表現を使った)。そのスキを、山本浩次に突かれたのだった。笠原と話をすると、第一声がこういった反省の弁だったり、ネガティブな自嘲だったりといったケースが多い。いつも自分と向き合い、自分に不足しているものに対してストレスを抱いている笠原ならでは、なのだが……。
 ただ、それにしては、今日の笠原は表情も明るかったし、言葉も決して弱々しいものではなかった。むしろ、ハツラツとしていたと言ってもいい。
「今年はペラも調子いいんですよ。(1周)1マークも、久々にいいターンができたし。足はいいですからね。明日からも楽しみですよ!」
 笠原の言葉には、心情がストレートに表われる。悔しいときも、それを隠そうとしない。ピュア、ということは、実は大きな武器なのだ、と僕は彼に教わった。そんな笠原が明るい、それは嬉しいことだし、明日以降の戦いから目が離せないということを表わしてもいる。

2007_0828__0009  整備室を覗いたら、守田俊介が本体をいじっていた。これまで、何度か彼をSGのピットで見てきたけれども、これは珍しいことではあるまいか。じっくりこっそり観察したところ、ピストンリングを外そうとしているところのようだった(交換したかどうかは、明日の競技情報をご確認ください)。いずれにしても、守田がかなり本気で、機力向上を願っていることは明らかだった。
 彼は、笠原とは反対に、レース後などにも感情を露わにすることはあまりない。それが守田流だし、決して感情に波が立っていないわけではなかろう。それだけに、モーターと真摯に向き合っている姿は、なんだか嬉しい気分になるものだった。そこに、彼の勝負師としての本質が、とうとう見えたような気がしたからだ。

2007_0828__0446  ドリーム戦は、好勝負となった。主役は、原田幸哉だ。渾身のスリットから、一気にマクる。松井繁と競り合う。当然、笹川賞のあのシーンが、脳裏に甦ってくる。松井も原田も、惨敗に終わった。
 ピットに戻ってくると、松井も原田も、苦笑いを見せていた。そしてお互い、挨拶を交わすと、さらに苦笑いは濃くなった。言うまでもなく、二人とも笹川賞を引きずってなどいない。ただただ、共倒れに終わり、他者に漁夫の利を与えた悔しさを共有していたのだ。もちろん、それは仕方ないことだった。松井はマクられるわけにはいかなかった。原田は、マクって決着をつけたかった。そのぶつかり合いは、競艇の醍醐味のなかでもかなり上質なものである。レース後の苦笑いは、実は健闘を称え合ったものだったと言える。
 そんななか、エンジン吊りが終わって、選手が三々五々散りだすと、原田の顔のシワはどんどんと深くなっていった。やはり、苦笑いだけですませるわけにはいかなかったのだ。そのシワは、他の選手、たとえば瓜生正義や辻栄蔵と顔を合わせれば、即座に笑みに変わった。しかし、離れて一人になると、どうしても視線は下を向き、頬には悔しさが浮かんだ。それは、原田がいかにこの地元SGに懸けているかの証。美しいとしか言いようのないものだった。

2007_0828__0083  12Rが終わって、ピットを後にする。記者席へと向かう道を歩みだしたとき、背中で声が聞こえた。「仁ちゃん、明日がんばろっ!」。一瞬、聞き流しそうになったが、すぐに11R前のあのシーンが浮かんだ。はっ、声の主は誰だ……振り向いたが、残念なことに齊藤仁の姿しか確認できなかった。阿波だったのか、都築だったのか、それとも11Rの試運転をどこかで見ていた者だったのか……。明日頑張れ! ピュアな戦士たちよ、頑張れ!

2007_0828__0065   さて、彼もやっぱりピュアな男だと思うのです、気になる山崎智也。5着2本という、不本意な初日。しかし、レース後の智也は、ゆったりと過ごしていたようで、整備室でもペラ室でも姿を見かけず、エンジン吊りの際には控室から出てくるところを目撃している。うーん、なんだか今回の智也、今のところはけっこう謎です。(PHOTO/中尾茂幸 TEXT/黒須田守)


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