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この特集では田中工業「黒須田守」をはじめとした5名のライターから競艇にまつわるさまざまなレポートをお届けします。
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5日目後半のピット それぞれの表情

 ナイターSGの5日目は、照明が点灯するあたりから慌しく時間が流れ出す。

 17時。ぐっと体感気温が下がった。「そろそろやろうかな」といった具合に、上瀧や魚谷が艇にエンジンを装着しはじめる。水面に目をやると、赤岩と川﨑が試運転をしている。ようやく準優勝戦出場メンバーが始動をはじめられる気温と時間になってきたようだ。

Img_6161 係留ピットに視線を移すと、2人の男が体育座りをして、なにやら話し込んでいる。近寄って確認してみると、やはり85期から準優出した二人。田村と湯川である。

 記者は係留ピット内に入ることができないので、どんな話をしているかわからない。が、それにしても、よく話が尽きないものである。まあ、同じ釜の飯を食った同士。たとえ会話がなくても、一緒にいるだけで落ち着くのだろうけど。

Img_0051 1745分。係留ピットのボートの上で、赤岩善生がただひとりたたずんでいる。少し思いつめたような感じで、目線はどこか違う方向へとむいている。何か考え事をしているようだ。そして今考えることといえば、やはりエンジンのことしかない。

 数分後、ふと思い立ったように艇に装着してあったペラを外し、違うペラを取り付けだした。どちらのペラでいくかずっと悩んでいたようだ。

Img_0303  ペラ小屋は準優出メンバーがひしめき合っていた。今日の準優は9~11レースに組まれているため、このあたりの時間帯が最後のペラ調整の時間になるのだろう。服部はやはり定位置でペラを調整し、上瀧もゲージを使いながらペラを確認していた。

 1805分。8レースを終えた艇の引き上げ作業。鎌田義と湯川がじゃれあいながら出てきた。(9レース出走以外の)準優出選手もおおかた引き上げに参加していたが、村田修次はそれに参加せず、係留ピットでひとりペラをみていた。磨かれたペラに、水面の緑が反射して鈍く光る。眼光は鋭いのだが。

 1810分。予選トップ通過の山本浩次が水面に出る。前半戦のピットで書いた気配に、まったく変化はない。この御仁、気負いとかプレッシャーはないのだろうか。山本がマイペースを崩さないのに対して、まだペラが決まらないのか、村田がピットを走り回っていた。

Img_0552 1820分。今日はあまりピットで見かけることがなかった笠原とすれ違う。9レースに出走するため、本番ピットの方向へむかって歩いていった。

 気合の入ったときの笠原は、口が「への字口」になり、少し泣き顔になる。さっきすれ違ったときの表情は、まさにそれ。

 1825分。笠原に続いて、10レース出走予定の魚谷が展示ピットへむかって歩いていく。笠原が泣き顔なら、魚谷はやや怒りを帯びた顔。こちらも完全にレースモードに入っている。

 1830分。9レースの準優一発目が発走間近。瓜生はまだペラをやっている。

 準優勝戦にむかう1時間半。大雑把に時系列で追うと、このようになる。競艇は、人との勝負であり、エンジンとの勝負なのだが、時間との勝負の面も大きい。限られた時間をいかに有効に使うか。それが勝負を分けてくる。

 結果論なのだが、今回はピットでバタバタしていた選手ほど準優で不本意な成績に終わったように思える。

 

Img_0490  9レースが終わり、伝家の宝刀を抜いた市川が引き上げてきた。レース前から周囲の人間に明るく話しかけるなど陽気な感じの市川だったが、レースもまさにご機嫌な競走となった。コンマ02の全速スタートを決めてカド一撃である。長い間SGの準優戦や優勝戦では見ていなかったが、これこそが市川のスタイルだ。

 ヘルメットを取ったあとの面持ちはそんなに崩れていないが、やはりうれしそう。まずは菊地に歩み寄って、「ゴメンな」とあいさつ。

 すると、同じレースで4着に敗れた田頭が市川に話しかけてきた。

「放おらんやったねぇ」

 笑顔でうなずくと、市川は無言でフラッシュの光の中に消えていった。

 後の記者会見では「かなり緊張していた」と語った市川。レース前にそんな感じは微塵もなかったのだが、あとあと考えてみると、周囲の人間に話しかけながら気を紛らわしていたのかもしれない。

 2着の笠原は「ヘの字口」が真っ直ぐになり、スッキリした顔になっていた。昨年の桐生・MB記念や、福岡・ダービーのときには「どうしようもない」という絶望的な雰囲気を漂わせていた。しかしあのころの悲壮感はどこにもない。笠原は完全に自信を取り戻している。 敗れた菊地の表情は固く、田頭は満足げな顔。スタートで放った(結果、Fにならずに済んだ)田村はサバサバした感じで引き上げていった。

Img_6191 10レース。1着になった魚谷は、水面に上がってもなかなかヘルメットを取らない。すぐさま同期の原田幸哉が駆け寄ってきて、おしりをパンッと叩く。

 しばらくしてヘルメットを取った魚谷だが、あまり笑顔はない。優出記者会見でも、淡々と記者の質問に答える魚谷。それは「戦いを終えた男」の表情ではなく、「まだ戦っている男」の面構え。準優を突破した魚谷は、すでに優勝戦に目が向いているのだろう。

Img_0571  一方、2着に敗れた池田浩二は、悔しさをあらわにしていた。

 ピットに上がってくるとすぐにヘルメットを脱ぎ、「くっそ~!」と顔に書いてあるような苦笑い。
 記者会見馬でも水を一口飲んだあと、

「あ゛~!」

 という、声にならない声をあげていた。優出できた喜びよりも、魚谷に差された悔しさのほうが大きいようである。

Img_0632  そして11レース。さすがのマイペース・山本も、表情はやや上気しているように感じた。なんでも「今節、はじめて緊張した」らしい。そんな気配はどこにもなかったが、山本の内面ではプレッシャーが押し寄せてきていたのだろう。

 2着の赤岩は、なかば放心しているような気配。すべてを成し終えた、充実した放心だ。そして赤岩よりも嬉しそうな表情をしていたのが、地元・愛知の大先輩である大嶋。山本の艇の引き上げを手伝っていたのだが、心の底から喜んでいるのがわかる笑顔であった。

 笑顔、スッキリした顔、無表情、悔しい顔、上気、放心。

 幸せの形がそれぞれ違うように、優出選手がみせた表情はそれぞれ違った。

 明日の優勝戦。いったい誰が、どのような表情をみせてくれるのだろうか。

(Photo・山田愼二 Text・姫園淀仁)


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