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この特集では田中工業「黒須田守」をはじめとした5名のライターから競艇にまつわるさまざまなレポートをお届けします。
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優勝戦のピット風景

Img_1050  ウイニングランを終えて帰ってきた魚谷智之を、3人の男が出迎える。魚谷と同じ兵庫支部の吉川元浩と鎌田義、そして同期の原田幸哉である。

「魚ちゃん!」

 原田幸哉が、まるで自分が優勝したような表情で声をかける。ヘルメットのシールドを上げた魚谷が、嬉しそうに目で応える。
 その後エンジン格納を手伝ってくれている「尼崎最強伝説」をともに作っていく、吉川、鎌田とガッチリ握手。そして、地上派中継のヒーローインタビューを受けるため、ピットの隅へと小走りに走っていった。

Img_0810  けっこう遅い時間まで、ファイナリストたちはペラの調整を行なっていた。

 19時。もうすぐ10レースが始まる時間だというのに、ペラ室には市川哲也、池田浩二、笠原亮の3人がいた。誰も口を開かない。ガラス越しにヒリヒリした空気が伝わってくる。前半のピットでは明るかった市川も、いまは声をかけられないオーラを醸し出している。

Img_0843  同じく池田の表情もかたい。SGを2勝しているとはいえ、やはり地元SGとなると違ってくるものなのだろう。写真を撮ろうとカメラを向けたら、不意に視線が合った。他意はないのだろうが、睨むような鋭い視線であった。

 あまり姿を見かけなかったのが、1号艇の山本浩次。スタート練習が終わって軽くペラを確認したあとは、おそらく控え室に引っ込んでしまったようだ。

Img_0917  10レース発走と同時に、笠原のペラ調整が終わった。前半のピットでは、やや気負った気配がみえた笠原だが、レースが近づくにつれリラックスできているように感じた。そのへんは市川と対象的だ。もちろん、師匠の服部をはじめ、東海勢の選手たちからいろいろと声をかけられるのが、いい方向へむいているのだろう。
 陸に上がっている艇にペラを装着。ゴロゴロと艇を転がして、リフトの方向へと向かう。その顔をみると、やはり「への字口」になっていた。ボートも心も臨戦態勢が整ったのだ。

Img_0900  市川と笠原がペラ室から出て、しばらくして池田も調整終了。ところが、優勝戦発走まで1時間を切った時間に赤岩がペラの確認をはじめた。

 新兵の山崎哲司がペラ室の掃除をしている横で、念入りにペラゲージを使って確認する赤岩。ハンマーは使っていなかったようだが、試運転で何か気になるところがあったのだろうか。ただ、顔つきはいたって普通だったので、これが赤岩のルーティーンなのかもしれない。丁寧に、丁寧に、ペラを確認していた。

Img_0905  控え室から出てきた山本浩次は、やはりトボトボと歩きながらピットへ向かう。

 魚谷智之はいたって普通の感じで、ピットへ向かう。

 やや胸を張ってピットへ向かったのは市川哲也。

 池田と赤岩の愛知コンビもピットに。

 笠原亮はひととおりストレッチをしたあと、走ってピットへ行く。

 そうして十数分後、優勝戦は始まった。

 

 思えば、魚谷が勝つべくして勝ったレースであった。昨日の準優勝戦1着後の表情が、それを物語っていた。準優出に喜ぶものに対して、魚谷は「まだ戦っている者」の表情をしていたのだ。そこにはやはり意識の差があったように思う。いまの魚谷にとって、SGの準優戦は通過してしかるべきゲートなのであろう。

Img_6442  本日のピットでは、魚谷の集中力を垣間見る出来事があった。10レース「特選B」が終わり、展示ピットの方向へとむかって歩き出す魚谷。顔はキリリと引き締まっている。はたからみても集中しているのがわかる。完全な勝負モードだ。
 ところが数分後、魚谷がダッシュで展示ピットから戻ってきた。顔は苦笑い(左の写真がそのときに撮影したもの)。「何かトラブルか?」と思いきや、プロテクターをピットに持っていくのを忘れていたのである。

 これを「集中している」ととるか「緊張している」ととるかは紙一重。だが自分を笑うことできるというのは、自分自身が見えている証拠。おそらく究極にまで集中していたのだ。そして、その集中力は、優勝戦のスタートで、1マークで、炸裂した。

Img_1057  ヒーローインタビューが終わるとすぐに、魚谷は救助艇へ乗るように促される。水上ステージで優勝選手表彰があるのだ。
「魚谷選手、おめでとうございます!」
 救助艇に乗り込んだ魚谷に、報道陣の誰かが声をかけた。魚谷が満面の笑みを返す。 今節、魚谷が心の底から本当に笑えたのは、これがはじめてだったかもしれない。

 笑顔の魚谷を乗せた救助艇は、大勢のファンが待つ水上ステージへと走っていった。

 

(PHOTO・山田愼二 TEXT・姫園淀仁)


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