この特集について
ボートレース特集 > 優勝戦私的回顧
この特集では田中工業「黒須田守」をはじめとした5名のライターから競艇にまつわるさまざまなレポートをお届けします。
ライタープロフィール
カテゴリー
関連リンク
競艇サポーターズ
関連書籍

 ボートレース特集

優勝戦私的回顧

 細かい雨が降っていた。スタンドにちらほらと傘が咲く。ファンファーレが鳴った。

Sn2_2555  微妙な進入であった。
 2号艇の田中信一郎が鋭いピット離れを決めて、1号艇の高橋の前に出たのだ。予想外の進入に、場内がどよめく。

 小回り防止ブイを回り、白と黒の2艇がネトロンに寄る。写真にあるように、前に田中、うしろに高橋という状態となった。おそらくこの時点で、田中信一郎はインを取り切ったと確信したはずである。

 田中が先に2マークを回る。深いインは避けたいので、ゆったりと舳先をスリット方向にむけた。
 田中の艇と2マークには微妙なスペースが空いていた。その隙間にあとから回ってきた高橋が艇を入れてインを奪った。

Sn2_2559  おそらく田中の心境としては、「なんでスペースがないのに艇をネジこんでくるんだ」だろうし、高橋の心境としては「スペースが空いているんだから入って当然」だろう。

 俯瞰で見ていたわけではないので微妙としかいいようがない。ただ待機行動違反がついていないことを考えると、スペースがあったと考えるのが妥当なのだろう。個人的な感想も「インを主張するのであれば、有無をいわせないくらいスペースを詰めておくべきだったのではないか」というものだ。もちろん、そんなことをすると深い進入になってしまうのだが……。

 

Sn2_2573  微妙であった進入に対して、レースはあっさりと決着がついた。
 高橋勲がコンマ11のトップスタートを決めて、1マークをスルリと回る。2コースの田中信一郎も、3コースの魚谷智之も、届きそうにない。この瞬間、高橋の逃げ切り勝ちがほぼ濃厚となった。

 高橋勲がデビューしたのは91年4月。
 4年後の95年5月に、江戸川で初優勝を果たす。ちなみにこのときの2着は、同支部の後輩・濱野谷憲吾であった。

 デビュー7年目には、福岡・全日本選手権でSG初優出を果たす。将来の東京支部を支える存在として、高橋の未来は前途洋々だったはずだ。
 ところがこのレースで優勝したのは濱野谷。高橋は2着に敗れる。ここから高橋の苦難の歴史ははじまった。

Sn2_2603  GⅠ優出12回。SG優出4回。SGの準優出も十数回を数える。なのにタイトルが取れない。記念タイトル奪取を後輩に越される。
 90年代末期から2000年代初頭にかけてSG常連であったが、04年の福岡総理杯優勝戦のフライングが原因となり、SG戦線に顔を出すこともめっきり減っていた。前途洋々であったはずの前途は、気づくとどこかにいっていた。

 最終コーナーを回り、高橋がゴールを駆け抜ける。その瞬間、ド派手なガッツポーズが飛び出す。長い間に蓄積された鬱憤を吐き出すように。

Sn2_2703  SG初優出となった全日本選手権から9年。奇しくもあのときと同じ全日本選手権で、春の平和島のSG覇者、己と因縁深い〝東都のエース〟が不在の地元SGタイトルを、高橋はひとりで守りきった。地元ただひとりの男が、51人の兵を退けて勝ったのだ。

 ウイニングランをする高橋勲。スタンドにむけて何か大声で叫んでいる。何を叫んでいるかは、口の動きを見てすぐにわかった。

「あ・り・が・と・う・!」

 雲の切れ間から出た夕陽が、スタンド対岸のビルのスリットから暖かく差し込んでくる。雨は止んだようである。

(PHOTO/中尾茂幸 TEXT/姫園淀仁)
 


| 固定リンク | コメント (0) | トラックバック (1)
トラックバック
この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/106923/16700340
競艇SG全日本選手権、優勝は高橋勲選手! 【おでぶのお気楽日記】
昨日、平和島競艇場で競艇SG全日本選手権の優勝戦が行われました。 優勝は唯一の地元選手、高橋勲選手でした#63893; 優勝戦メンバーは 1号艇 高橋勲(神奈川)・・・SG未勝利 2号艇 田中信一郎(大阪)・・SG4V 3号艇 魚谷智之(兵庫)・・・SG3V 4号..... 続きを読む
受信: 2007/10/09 12:43:07
コメント
コメントを書く




※メールアドレスは外部には公開されません