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この特集では田中工業「黒須田守」をはじめとした5名のライターから競艇にまつわるさまざまなレポートをお届けします。
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男たちの痺れる闘い――優勝戦後半のピット

1img_4711 「昨日のほうが緊張していて、今日はいい意味で集中できていました」
 優勝した高橋勲は、表彰式でそう言った。

 今日一日ピットで取材をしていた印象からいっても、その言葉に嘘はないと思う。前半のピットリポートでも書いたことだが、昨日の高橋は重苦しさのようなものを抱え込んでいるようだったのに対して、今日の高橋は何かが吹っ切れたような表情で作業を続けていたのだ。
 だが、内心ではいろんなものと闘っていたには違いない。なにせ、平和島で行なわれるダービーにおいて、地元選手は一人しかいなかった中で、優勝戦1号艇を勝ち取ったのだ。そこまで来れただけでもホッとした部分はあったはずなのに、昨日のレース後にも「ここからが本番」と言ったように、さらに兜の緒を締めて闘わなければならなかったのである。

2img_7035  午後の高橋は、本番ピットのすぐ脇の待機ピットで作業をしていることが多く、自ら『孤独との闘い』を選択しているようでもあったのだ。

 ただし高橋は、決してその世界に独りで閉じこもったきりになっていたわけではない。
 7R後に田中信一郎と足合わせをしたあとには、笑顔になって、互いの足についてを評価し合ったりもしていた。また、9R後のスタート練習のあと、やはり装着場の隅でひとりボートをチェックしていたときに、リポーターが話しかけていっても、すぐに笑顔となって、長い時間、話をしていた。
「準備万端です」
 リポーターによれば、そのとき高橋はそう話していたそうだ。昨日の時点でかなりのレベルまで足は仕上がっていたはずなのに、今日も、早朝からほとんど休む間もなく作業を続けることで、そう言い切れるところまで持ってきたのだから、相当のエネルギーが必要だったことだろう。……そのうえで、ピット離れで後手を踏み、ぎりぎりの形で1コースを死守して、逃げ切ってみせたのだ。
 最後の最後まで集中力と勝利への執念を切らさなかったところに高橋の「強さ」があるのだろう。

3r0015011b  ウィニングランを終えて、表彰式会場に移ろうとしていたとき、後ろから「イサオ!」と声が掛かったかと思うと、移動用のボートに乗り込もうとしていた高橋のあとを追って、その家族が駆けてきた。
 おそらく奥さんとお子さんだったのだろう。ほんの短い間だけだったが、抱擁を交わすと高橋は「……帰ってきてからな」とボートに乗り込んでいったが、お子さんに掛けたその声は、それまでには聞いたことがない、甘い甘いパパの声だった。一日の緊張……、いや6日間、前検も入れれば7日間の緊張が、本当の意味で初めてほぐれた瞬間だったのだろう。
 その後、表彰式のインタビューで高橋は、第一声として「夢のようです!」と口にしていたが、あのときにはもう感無量になっていたのに違いない。
 初戴冠おめでとう!
 今日の高橋に対しては、それ以外に掛けるべき言葉は見つからない。

4img_6969  高橋に限らず、優出メンバー6選手の一日の過ごし方はそれぞれに見事だったと思う。
 個人的な感想でいえば、一日を通して誰より輝いていたように見えていたのはやはり田中信一郎だった。
 朝からその気配はバツグンだったが、午後になってもペラ調整の手をゆるめず、弟子の湯川浩司のアドバイスにも耳を傾けていたかと思えば、「寿司食いたいか」と笑って尋ねてみるなど(聞き違えでなければ、7R後に高橋と足合わせをしたあと、湯川にそう言ったと思う)、確かな手応えを持ち、自信を深めながらレースに臨めていたのに違いない。
 2着に終わった結果については、悔しさがなかったはずはない。それでも、レース後には湯川と話をしながらサバサバとした笑顔も見せていたのだから、こちらも男惚れをしたほどだ。
 今日の高橋は、これ以上ない強さを見せてくれたが、田中もまた別の意味で、男の強さを教えてくれたのだ。

5img_6960  魚谷智之、寺田祥、吉川元浩……。彼らもまた、自分の足についての足りない部分を埋めるべくそれぞれの作業を続け、レースが近づくにつれて、いい顔をつくりあげていたということでは変わりがない。
 とくに寺田祥に関していえば、今節を通して「ポーカーフェイスの男」という印象を強くしていたが、午後には菊地孝平や鎌田義と話をしているなかで、完全にリラックスしているのがわかる笑みを浮かべている場面も見かけられた。
 また、展示航走後には、誰より「澄んだ顔」をしていたような気もする。手応えのあるモーターを引いて、闘っていた6日間では気が張り詰めていた部分も大きかったはずだ。それでも、やれることはすべてやったうえでレースを迎えられたことで、自然にそんな表情が浮かび上がってきたのだろう。SG初優出でありながら、この時間帯にそんな顔を見せられた寺田は、これからまだまだ強くなっていくはずだ。

6img_7078  また、こちらの勝手な印象に過ぎないことだが、金子良昭に関していえば、昨日のレース後や今日の午前中にくらべて、午後になってからは少しテンションを落としていたようにも思われた。足に対する手応えが落ちてきていたのかもしれないし、ピット離れの足を仕上げることができなかったのかもしれない。
 だが金子は、それで完全に落胆していたわけでなく、「自分にできる闘い」というものをいろいろと思案していたのではないかと思う。展示航走の直前に、ピットの水面際まで進んで行って、空を仰ぎ見ている場面があったが、その姿がまた象徴的だった

7img_4781   それぞれの闘いのあとに、頂点を掴めるのは常にたった一人だ。その頂点に立った男に対する賞賛は惜しむものではないのはもちろんだ。
 だが、ピットを取材している立場でいえば、6日間が終わるたび、そこで戦っていた選手たちみんなが好きになる。
 今回も当然、例外ではなかった。
 戦国ダービーならではの熱い闘いに、本当に痺れさせられたものである。
(PHOTO/山田愼二+内池=3枚目のみ TEXT/内池久貴)


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