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この特集では田中工業「黒須田守」をはじめとした5名のライターから競艇にまつわるさまざまなレポートをお届けします。
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小春日和の中で――6日目、前半のピット

   ポカポカのうららかな気候、一節の最終日、ということもあってか、優勝戦の朝のピットはどこかのんびりムード。SGの最終日も近い雰囲気はあるけれども、それよりもずっと穏やかな空気が流れているような気がした。エンジン吊りを待っている鈴木賢一が、ゴルフのシャドウスイングをしていたりして、見ているこちらものほほんとしてしまう。寺田祥も、すでにすっかり吹っ切れているのだろう、白井英治と和やかに過ごしている。
 そんななか、たった6人だけ、やはり異彩を放つ面々がいて、もちろん優勝戦のメンバーである。大勝負を控えた者たちは、この優しい空間に埋没するようなことはありえないのだ。
2007_1109__0596  昨日は、林美憲との絡みなどの際に随所で笑顔が見られた一宮稔弘も、今朝の表情はやや硬い。すでに記念優勝の経験はあるから、ガチガチになっているわけではないだろうが、それでも緊張感の中に身を置いているのは顔つきからしても間違いない。そんな一宮を見かねて、なのか、3Rの直前に濱村芳宏が一宮に声をかけた。濱村はその3Rに出走する。二人の表情は、実に対照的だった。濱村は終始、笑顔を見せている。一宮は終始、真剣な表情のまま。出走直前の濱村が笑っていて、5時間近く経ってからの出走である一宮が硬い表情なのだから、不思議なものである。結局、一宮はいちども頬を緩めることがなかった。やっぱり、不思議なものである……いや、これが優勝戦の重みなのか。
2007_1113_0350 ペラ室を覗くと、川﨑智幸がいた。とりたてて、いつもと違った様子は見えず、その振る舞いにまずは感嘆する。ただ、ひとつ昨日と違うところがあるとするなら、歩く速度がかなりゆっくりになっていたことだ。足の運びが妙に遅く、まるで雲の上を歩いているような足取りで、踏み込みは浅い。ペラ室を出て、出走待機室の入口横にある掲示板まで約10秒かけて到達したが、普通ならば3~4秒で辿り着く距離である。
 掲示物に見入る川﨑に、すっと歩み寄ったのは、またしても濱村芳宏。川﨑の耳元で、こそこそっと何かを囁くと、「アハハハハハ!」。川﨑の笑い声がピットにこだました。濱村はさらに川﨑に内緒話。「アハハハハ!」。川﨑はもうひとつ爆笑。クールに戦うことのできる川﨑が、過度の緊張などしているわけがないのであった。それにしても、後輩と同期に笑いかけていた濱村の姿は、清々しいというしかない。
2007_1109__0393 川﨑とともに地元から優出した吉田拡郎は、装着場の奥のほうでボートに取り付けたモーターをごしごしと磨いていた。よく見ると、モーター上部、すなわち本体がついていない。整備室を覗き込むと、テーブルの上に本体が置かれていたから、それがカクローのものなのだろう。カクローが磨いているのは、本体とキャリボデーの密着部分。ここのわずかなズレは機力に大きく影響するから(今垣光太郎も、よく磨いていたりする)、決しておろそかにはできないわけだが、それを優勝戦の朝に再度チェックしているのは、そうそう見る光景ではない(今垣は前検にやっていることが多い)。GⅠ初優出、カクローはできることはすべてやって、未経験の大一番に臨む心づもりだ。
2007_1113_0636  再びペラ室を覗き込むと、赤岩善生の姿も発見した。昨日までは整備室の隅でペラ調整というかペラ磨きというか、つまりは“叩く”以外の作業をしていた赤岩、優勝戦の今日は“叩く”ほうに移行しているようだ。エンジン吊りに駆けつける姿も見かけたが、表情的には気合充分……まあ、これは優勝戦だろうが敗者戦だろうが、赤岩の変わらぬ顔つきではある。とにかく、雰囲気は非常によい。
 整備室の前あたりに突っ立っていたら、三嶌誠司と目が合った。昨日一昨日はほとんど視線や声を交わすこともなく、というのは勝負駆けの三嶌は常にバリアにも似たオーラを放っているからなのだが、さすがに今日はリラックスしているようで、ニッコリ笑って「おはようございますぅ!」。10m以上離れていたから、特に話すこともなく、ただお互いにペコペコと頭を小刻みに下げ続けるのみ。やっぱり三嶌の笑顔には癒される。
 2007_1113_0656その三嶌に駆け寄ったのが、森高一真だった。ちょうどエンジン吊りに出てきたところだったのだが、まだ笑顔が消えない三嶌に森高は真剣な表情で何かを語りかけた。三嶌の顔から笑みが消え、目つきが瞬時に真剣さを増していく。三嶌が言葉を返すと、森高は何度かうなずいて、さらに言葉を重ねていく。三嶌がそれに応える。言うまでもなく、森高は何らかのアドバイスを求めて、先輩に声をかけたのだった。森高も、三嶌の誠実さにやはり癒されただろうか。

 ところで、3R前、H記者がピットに現われた。予想&レース担当の日の彼は、まずピットにやって来ることなどないのだが、いったい何事?
Cimg3553  実は、BOATBoy12月号の競艇王チャレンジカップ特集で、Hは西島義則にインタビューしている。昨年、競艇名勝負物語という企画でも取材して、同い年ということもあってか意気投合した二人、今回のインタビューでこんな約束をしていたのだそうだ。
「児島に行くって話したら、SGジャンパーをくれる、っていうんだよ!」
 一昨年の津ダービーで、我々取材班が西島からSGジャンパーをもらい、それを読者プレゼントに提供したことを、当時からの読者の皆さんは覚えておられるだろうか。なんと、西島本人が、それを覚えていた! そして、「児島で会ったら、今度はH記者に個人的にプレゼントするよ」と言ってくれたのだとか。いいなあ。
 西島は3R出走ということで、Hはレース終了をピットで待って、その後に挨拶に向かうつもりだったようだが、展示を終えた西島がHに気づいて、「ちょっと待ってて」。控室に戻って数分後、ジャンパーを手にHに手渡した! ちぇっ、いいなあ。
 で、H記者は大喜びで、記者席に戻るとさっそく着込んで仕事をしているわけだが、この男はすでにピットでも大はしゃぎで、何度も見入っては「キャハハハハ!」と、46歳とは思えぬ振る舞いをしていたのである。
2007_1113_0589  それを見ていたのが、前本泰和だった。15mも先からニッコニコで、つかつかとこちらに歩いてくると、さらに笑顔を炸裂させて「おはようございますっ!」。H記者がなおも大はしゃぎしていると、前本は、いやあ、良かったっすねえ、といった感じで笑いかけたのだった。中尾カメラマンによると、前本は西島がSGジャンパーをプレゼントすることを知っていたらしく、まさにそのシーンを目撃して「ああ、あんたでしたか」てな感じで眺めていたのだろう。前本の人の良さそうな笑顔に、H記者はさらに興奮した様子でありました。
 優勝戦1号艇。GⅠ初優勝のチャンス。もっともプレッシャーのかかるはずの男の振る舞いが、これである。あの笑顔からすれば、少なくとも震えて手足が動かなくなるようなことはあるまい。(PHOTO/中尾茂幸 TEXT/黒須田守)


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