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この特集では田中工業「黒須田守」をはじめとした5名のライターから競艇にまつわるさまざまなレポートをお届けします。
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ハートを作り上げていく、ということ――優勝戦のピット 本日の水神祭つき

2007_1109__0541 「ありがとうございましたっ!」
 レースが終わり、モーター返納が終わるごとに、選手の声が響く。自身の、もしくは同地区の仲間のレースが終わり、モーターを返してしまえば、仕事は終了。管理解除となって、帰途に着くのみだ。同県同地区の選手が出走していなければ、多くは優勝戦を待たずして、競艇場を後にするもの。そして今日は、やけに「ありがとうございましたっ」の声が多いなあと、特に11Rあたりで気づく。金子良昭が、整備員さんや検査員さんをはじめとする職員の皆さん一人一人に、おまけにぼけーっと突っ立って返納作業を眺めていた僕にまで、丁寧に挨拶してまわっている。やっぱり金子さん、サイコーっす!……などと一人感動しながら、児島キングカップ優勝戦の6名には地区的な偏りがあることに気づくのだった。
 広島、岡山、愛知、徳島、岡山、香川。赤岩善生以外が中四国地区。まるで“瀬戸内最強決定戦”ではないか。まして児島は瀬戸内海を臨むコース、多少帰りが遅くなっても、家には充分辿り着けるだろう。なるほど、他地区の選手が続々とピットを後にしていくわけだ。ある意味、これは児島キングカップにとっては、もっとも幸せな優勝戦ではないかと思ったりした。

2007_1115_0359  優勝戦。スタート展示が終わる。優勝戦に限らず、ピットに戻ってきた選手たちはいったんカポックを脱ぎ、控室に戻ることが多いわけだが、ただ一人、白いカポックだけはいつまでも前本泰和に着られたままで、装着場を右に左にとさまようように移動していた。
  そう、前本はただ一人、カポックを脱ぐことなく、出走待機室に留まっていた。いちど、カポックを着たままペラゲージなどを控室に運びはしたが、すぐに戻ってきて待機室に収まり、たった一人の時間を過ごしていたのである。これまで、出走待機室から動こうとしない選手を一人だけ見たことがある。というより、最近のSGでは必ず見ている。魚谷智之である。まるで、レースに関すること以外のいっさいを視界から排除し、孤独の中に身を置こうとしているように見えるものだ。前本も、同様に思えた。
Cimg3556  締切10分前くらいに前本は、装着場に出てきて、整備員控室のモニターを覗き込んだ。そこに映し出されているのは、2連単のオッズ。もちろん、前本から売れに売れていることを示す数字がそこには並んでいる。不思議だった。なぜ、前本はわざわざ、プレッシャーの素となるものを見ようとしたのか。平常心で戦うには、余計な情報ではないのか。あるいは、こうして自分を追い込むことが、彼自身のスタイルだというのか。もしそうだとしても、悲願だったGⅠ初優勝がかかる、白いカポックでのレース前くらいは、ルーティンを排除してもいいのではないかと思った。
 前本はオッズを見た後も待機室には入らず、ドアの付近でストレッチを始めた。実は、昨日の準優前にも同じシーンは見ていて、しかしあのときはたしかカポックは着ていなかったはずだ。いずれにしても、これがレース前の儀式なのであろう。入念に身体をほぐすと、誰もいない待機室へと入っていった。1分ほど後ちらっと覗いてみると、お茶を飲み干す姿があった。

 集合合図がかかって、他の5選手も待機室へと戻ってくる。赤岩善生、森高一真、一宮稔弘、そして岡山勢の順番だった。一宮はちょっと寄り道をして、前本と同じようにオッズを確認していた。
2007_1115_0208  面白かったのは、一緒に装着場に姿をあらわした岡山勢だ。前に吉田拡郎、後ろに川﨑智幸という順番で、ほとんど間隔なく姿が見えたのだが、そこから二人の差はあっという間に開いていった。川﨑は、前半ピット記事にも書いたとおり、実にゆったりゆったりと歩き、カクローは早足とも見えるほどに、力強くスタスタスタと歩いていたのだ。やや遠目にそれを眺めていると、川﨑の歩様はまるで無駄な力を使うまいとしているように見える。クールないぶし銀らしい振る舞いだな、と思った。一方のカクローは、まさしく若者らしいハツラツぶり。二人の性質が見事に歩き方に表われていたのだった。好対照の二人を優勝戦に送り込めたのは、岡山勢にとっては理想的なことかもしれなかった。
2007_1115_0091_2  カクローは、待機室に入ってカポックを着込むと、すぐに装着場に出てきた。そして、昨日のピット記事にも書いた“ストレッチらしきもの”を始めたのだった。やはりこれが、カクロースタイルなのだろう。昨日と少し違ったのは、そうして精神統一をしていくカクローに、「カクローさ~ん」と声がかかったことだ。レースを終えた選手がどんどんと管理解除になる最終日ということで、特に終盤レースは決定的に人手不足。それを補うために地元の若手が、整備室の清掃や後片付けに借り出されていて(他の場でも見かける)、そのなかにカクローと親しい新人がいたのである。検査員控室から顔だけ出した若手が(すいません、誰なのかは確認できませんでした)、おどけた様子の甲高い声で叫んだ「カクローさ~ん」。閑散としたピットに響いて、カクローはすぐに声のほうに目をやった。
「もし優勝したら、ガッツポーズしてくださいね!」、後輩の激励にカクローはうなずく。若手は拳を握ってカクローに示し、カクローはもうひとつうなずいた。その間、カクローの表情は引き締まったままだ。力強い視線、きゅっと閉じられた口元。それでいて、後輩から声をかけられて、手振りだけでだが、おどけ返したりもしていたのだから、カクローのメンタルは高いレベルで張り詰めていたのだろう。後輩が青を引っ込めたあともしばらく“ストレッチらしきもの”を続けて、カクローは大地を踏みしめるような足取りで待機室に吸い込まれていった。

 レース内容については、他稿に譲る。前本泰和が、見事に逃げ切り、岡山勢2人が2番手争い、最後はカクローが2着をもぎ取った。
 前本が表彰式へと向かった後のピットは、拍子抜けするほどに淡々とした空気だった。最後の返納作業があるから、全員が実に慌しく動いているのだが、SGで見るような敗者の無念の表情や苦笑いなどは、あまり見かけなかったのだ。もちろん、5人全員が悔恨を胸に秘めているのは間違いのないことだが、それがほとんど表出はしない、というか。目立ったのは、ピットに戻ってきた直後に、カクローが大声で悔しさを表明したことだけだ(それでも、やるだけやった、という思いもあるのか、ヘルメットを脱ぐと笑顔がこぼれていた)。
Cimg3560  そんななか、川﨑智幸が整備室にあるモニターが映し出す表彰式を見つめていたのが気になった。クールなたたずまいに変化はなく、レース前とも変わらない雰囲気の川﨑ではあった。返納作業も、粛々とこなしてはいた。それでいて、表彰式に目をやる川﨑。僕が確認できた範囲では、モニターを見上げたのは優出メンバーでは川﨑だけだった(三嶌誠司が、やけに何度も何度も見てはいたが)。地元エースの目に、どのような光景としてそれは映っていたのだろうか。
2007_1115_0001  返納を終えた赤岩善生が、男っぽく「お疲れっした!」と挨拶をして、控室に駆け出す。それに続くように、他の4名も控室へと戻っていく。最後に、選手班長の小畑実成が選手がいなくなった整備室内をぐるりと見渡し、最高の笑顔で「お疲れ様でした」と挨拶をして、ピットから選手の人影が消えた。児島キングカップが終わった。

 いや、あと一人、勝者を忘れてはならない。前本泰和だ。おめでとう、GⅠ初優勝。ということは……そうです、お初の儀式、水神祭であります! というわけで、ここからは「本日の水神祭」も兼ねて。
Cimg3561  表彰式を終えて救助艇でピットに戻る前本を出迎えたのは、もちろん広島勢。西島義則に池本輝明だ。そこに岡山勢が合流し、救助艇から降りる前本に拍手の雨を降らせる。その直前には、「どこから投げる?」「リフトのいちばん高いところから」「そのブルーシートの上に投げようか?(展示用ピットにかぶせられていたのです)」などと物騒な話もしていた西島らですが(笑)、7節連続V男の輝かしき記念Vに、誰もが満面の笑みを見せている。
Cimg3565  前本が戻ると、すぐに水神祭! 前本がレーシングシューズなどを脱いで準備している間に、小畑実成が「だいぶ冷えてきたなあ。大丈夫かな」と優しい一言を呟きます。森秋光も「早く引き上げられるように、ケブラーとかも脱いだほうがいいんじゃない?」とこれまた優しい一言。すると、身内である西島ががははと笑いながら一言。
「あいつ、明日から休み(F休みです)じゃけ、大丈夫じゃ!」
Cimg3571  お隣の岡山勢の優しい言葉とは裏腹に、鬼ですか、西島さん(笑)。いや、きっと西島は弟子でもある前本の快挙が愉快でたまらないのだろう。西島は本当に嬉しそうに、「休み中、ハワイに行くんだったら案内するぞ」などと言って、前本をからかうのだった。
 それでは行きましょう、水神祭! 敢行場所はボートリフトで、結局半分くらい降ろされた高さから放り投げることに。「師匠が前列で!」と周囲に言われた西島が中心となって、ウルトラマンスタイルに持ち上げたぞ。「何回転させる?」などと、相変わらず物騒な話も飛び出してはいますが(笑)、さあ行こう、1、2の3でドッボーーーーーーーン! 前本は1回転して、すでに薄暗くなり始めた児島の水面に吸い込まれていったのでありました。水は冷たかったでしょうが、最高の気分だったでしょうね、前本選手。とにかく、おめでとうございます!

2007_1115_0022  さて、最後にもうひとつだけ付け加えさせていただきたい。森高一真だ。
 昨年のSGのピット記事では、僕が森高にずいぶんとからかわれた場面を幾度も書いてきた。今年は、SG出場辞退期間もあったが、出場したMB記念も含めて、そうした場面をほとんど書いていない。今節も、肩をひっぱたかれたことは書いたが、その程度だ。実を言うと、MBでも今節でも、森高とはほとんど会話を交わしていないのだ。
 理由は簡単で、去年の森高ではない、からである。挨拶をしても、「おぅ!」と短く返すくらいのことが多く、去年のように笑顔を見せることもまずない。森高は、明らかに変わったのである。
 優勝戦のレース後、森高に「お疲れ様でした」と声をかけると、「おぅ!」と一言だけ。目つきは厳しく、口元は尖っていた。最近の森高そのままである。
 ところが。
 前本の帰還を待つ間、ボートリフトのほうで突っ立っていると、「クロちゃん!」という声が響いた。着替えを終え、管理解除となって、まさにピットを後にしようとしていた森高だった。森高は、遠目にもハッキリわかるほどの満面の笑みを向けながら、「じゃあな!」と右手を高々とあげた。笑顔がさらに弾けた。僕も思わず笑顔になって、お疲れ様でしたと頭を下げた。
 説明の必要はないだろうと思う。森高は変わった。というより、意識して自分を変えた。開催の間と、管理解除となった後のギャップ。これが、森高の中にある決意のようなものを表わしていると思う。正直、最近の森高はちっともかまってくれないから、ちょっと寂しいなー、などと思っていた僕であるが、もうそんなことは考えるまい。レーサーとして、男として自分を磨く森高一真は、最高にカッコいいからだ。(PHOTO/中尾茂幸 TEXT/黒須田守)


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