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この特集では田中工業「黒須田守」をはじめとした5名のライターから競艇にまつわるさまざまなレポートをお届けします。
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太陽系最大の勝負駆け 準優のピット①

2007_1124_0001  最初に、あえて言っておきたい。たしかに、今節は事故が多発している。“呪われたチャレカ”、そんなささやきも耳に入ってくる。だが、選手たちは栄誉を得るため、勝負師としての魂を満たすため、特別な思いを抱いて戦っている。その結果が、時に事故へとつながってしまっているだけだ。考えられる要因もいくつかあるだろう。いずれ問題点を指摘しなければならない時も来るかもしれない。しかし、選手たちのきらめきに、いささかも影を落とすものではないと、断言しておく。無事故完走が基本ではありながら、しかし勝利を求めてやまないレーサーの本能というものがある。それを否定することはできないし、こうして溜め息に包まれる一節が生まれてしまうのも仕方ない。反省するべきは反省し、そのうえでこれもDRAMATIC KYOTEIなのだと認識することも必要だろう。
 正直、僕も今日のピットでは、溜め息ばかりが出た。あまりにもツラく哀しい場面がいくつもあったからだ。それでも、これを受け入れなければならないとも思った。要因については、改めて考えることにしよう。今はただ、賞金王決定戦という特別に輝かしい舞台に立つために、身を切るような勝負を戦ってきた選手に、またそんなステージを用意している競艇という競技に、敬意を表したい。優出選手はもちろん、悲しみに包まれた選手も、事故多発に肩を落とす浜名湖競艇も、みんな頑張れ!

 というわけで、準優のピット。レース前よりもレース後にスポットを当てて、お送りしたい。

10R
2007_1124_0031  フライングを切った選手は、戦線を離脱するため、真っ先にピットに戻ってくることになる。バタバタと駆け足の音がいくつか聞こえて振り向くと、山口剛を先頭に、辻栄蔵、池本輝明がボートリフトに駆けつけていた。西島義則、フライング……。
 ボートが引き上げられて、広島勢はすぐさまボート洗浄にかかる。5日目というのは、その日のレースを終えると、選手が一丸となってボートを洗剤でいったん洗うのだ。スポンジを使ってボートをこする山口たちを、西島が沈痛な表情で見つめている。いや、その瞳が後輩たちの作業を捉えていたかどうかは、何とも言えない。西島はややうつろな目つきで、表情を固まらせて立ち尽くしていた。そんな西島に、後輩たちは声もかけられない。黙々とボートを洗うのみ、である。作業に加わっていた隣県の寺田祥も、端正な顔を崩して、痛恨を分かち合っていた。
2007_1124_0036  まだ西島のボート洗浄が終わり切らないうちに、他の5名もピットに戻ってきた。人気を背負った1号艇の市川哲也は、1マークで原田幸哉、渡邉英児ともつれ合って敗れていた。西島のボート洗浄を終えた辻たちは、もう一人の先輩のボート洗浄に取りかかる。それを、眉間にシワを寄せ、時折、唇を強く結んで、市川は見つめていた。いや、市川の目も、その作業を捉えていたかどうか……。1号艇を活かせなかった市川も、西島と同じような悔恨を抱いていたと思う。
 とにかく……10Rは広島勢にとっては、魔の刻であった。今日、もっともツラい思いをしたのは、彼らだったかもしれない。
 暗澹たる表情をしていたのは、原田幸哉も同じだった。優出していれば、ほぼベスト12を確実なものにできていたはずだった。だが、1マークでその夢は潰えた。優出を決めた佐藤大介にコブシを合わせて祝福を送っていた姿も、少し痛々しく感じられた。その佐藤が、「足合わせしたら、原田幸哉にはかなり分が悪かった。原田幸哉は出てました」と言っていたのだから、幸哉にとってはなおさら痛恨の敗戦だった。
2007_1124_0182  レース直後、幸哉は特別選抜A戦の着順次第で、まだベスト12への可能性を残していることを理解していただろうか。そう、幸哉のROAD to 福岡はまだ幕を閉じていない。自力で賞金王のトビラをこじ開けることが、まだ可能なのだ。
 おそらく、3着に敗れた時点で、幸哉のなかでは諦めが生まれていただろう。モーター格納作業中に整備室に現われた笠原亮が声をかけると、抱きついて顔を笠原の肩にうずめ、泣き真似をしてみせているのだ(笑顔で、だが)。また、その後、記者さんたちと賞金ランクについて話し合う姿が何度も見られた。つまり、幸哉は優出しか考えていなかったのだと思う。
 それでこそ、幸哉だと思う。徹底して勝負にこだわり、自力で道を切り開いていく、それが幸哉だ。その代償として、敗れて落胆する幸哉がいる。その姿が美しいのだ。明日の特別選抜A戦は、優勝戦並みの激闘となる。
2007_1124_0028  2着は、川﨑智幸である。優出を決めたあとも、とにかく冷静。川﨑らしさといえば、このクールなたたずまいだ。優出会見でも同様だった。淡々と質問に応えていく姿が、彼らしかった。
 その表情がちょっとだけ崩れたのが、「優勝=来年3月の地元総理杯への出場権を手にする」という質問を投げかけられた時だった。川﨑はまだ、総理杯出場を確実なものにはしていない。ちょっと苦笑いを見せて「次のSGのことを考えてもしょうがないから」と言って、目の前の戦いに集中したいと語っている。
 それを契機に、川﨑は一気に饒舌になった。ダッシュを選んだコース獲り、スタートタイミングについての質問への答えだ。
「(イン屋である西島がいるから)最初から外を考えてはいました。とにかく、Sだけはフルダッシュで行きたいと思って。今節に限り、(スリットで)僕の前にいたら、フライングですね」
 ニヤリと笑うと、川﨑はさらに続ける。
「西島さんは速いと思ってました。やめなきゃ(放らなきゃ)フライングなのにな、って。西島さんはまず外にはいかない人なので(回り直して6コース。1年以上、アウト発進はない)、西島さんのスタートに惑わされたらダメだと思っていて、だからこっち(右側)には誰もいないもんだと思って行きましたね。普通の選手なら、西島さんについていったんじゃないかな。僕は見えてるから(ついていかなかった)。明日も全速で、このくらいのタイミング(コンマ09)で行きたいですね」
 語っている内容はいたって冷静な判断であり、まさに川﨑らしい。しかし、その語り口のアツさ、スタートへの自信に、特別なものを感じるしかなかった。川﨑は、静かに燃えているのだ。
2007_1124_0099  1着は佐藤大介である。SG初優出。まずは、その喜びに顔をほころばせていた。大介の場合は、それよりも印象に残ったことがある。共同会見を終えて会見場を出ると、JLCの展望番組スタッフと打ち合わせしながら歩く大介と出会った。「おめでとうございます」と声をかけたが、打ち合わせ中だった大介は、軽く会釈する程度で通り過ぎた。ところが、数m歩いたところで、突如「あっ。すいません。ありがとうございます!」とわざわざ立ち止まって、言葉を返してきたのだ。むしろ、こちらが「声かけるタイミングが悪かったな」と反省していたくらいで、だから背中から大介の声が聞こえて、慌てて振り向いたくらいだった。そう、佐藤大介というのは、こんなにも好漢なのである。こんな男が、究極の勝負駆けを突破して、賞金王のピットに立つことになったら、こんなに痛快なこともあるまい。優勝戦の水面では、“ヒール”に変身して、激しい走りを見せてもらいたい。(続く)

(PHOTO/中尾茂幸 TEXT/黒須田)


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