この特集について
ボートレース特集 > 銀河系最大の勝負駆け 準優ピット②
この特集では田中工業「黒須田守」をはじめとした5名のライターから競艇にまつわるさまざまなレポートをお届けします。
ライタープロフィール
カテゴリー
関連リンク
競艇サポーターズ
関連書籍

 ボートレース特集

銀河系最大の勝負駆け 準優ピット②

11R
2007_1124_0027  今度は、瓜生正義がフライング……。賞金王当確の瓜生だから、ショックは薄いのかといえば、そんなことはありえない。準優Fは、しかも1号艇のFは、誰にとっても激しく痛恨だ。ピットに戻ってきた瓜生は、顔色を失っていた。西島と違って、瓜生はボート洗浄を仲間に任せて、すぐに競技本部へ向かって走り出した。フライング選手は、レース後呼び出されて説諭を受けるが、瓜生はもっとも足を踏み入れたくないだろう場所に、自ら向かったのだった。童顔がひきつっていた。
2007_1124_0146   その後に戻ってきた5人のなかで、もっとも肩を落としていたのは、やはり佐々木康幸だった。地元SGで気合が入るのは当然のこと、さらに彼には師匠・服部幸男とともに賞金王に行くのだという決意があった。しかし、それがかなわなかった……。どうしても乗り越えたかった準優の壁に跳ね返されたことへの落胆しかないのは、当然のことだ。たしかに優出“失敗”かもしれないが、誰に迷惑をかける“失敗”ではない。期待に応えられなかったという思いはあるかもしれないが、しかしもっとツラいのは本人だ。だというのに、佐々木は取り返しのつかない失敗をしてしまったかのように、顔をゆがめていた。彼にとって、この敗退はそういう性質のもののようだった。
 10Rと同様に、ボート洗浄が行なわれていたレース後、そこに瓜生が競技本部から戻ってきた。他の5選手に、詫びを言って回っている。皆、瓜生に手をあげて応える。しかし……ここからのピットの主役は、上瀧和則だった。
2007_1122_0876   上瀧は、瓜生が「すいませんでした」と言った瞬間、声を荒げた。
「お前、頭使ってしっかり考えろっ!」
 一喝だった。瓜生はフリーズしたかのように立ち尽くし、深刻な表情で上瀧にもういちど頭を下げた。上瀧は憮然とした表情で、ボート洗浄に視線を戻した。
 僕は、この一喝で瓜生は救われたと思う。誰もが瓜生を気遣うなかの、上瀧の激怒。自分を責める気持ちになっていただろう瓜生の心に、グサリと突き刺さったはずだ。しかし、心の傷を本当に癒すには、実はいちど傷をえぐる必要がある。というより、そうしたほうが治癒が早い場合が多々あるものだ。ましてや、瓜生は仲間や主催者に迷惑をかけたという思いがある。だが、多くはそんな瓜生を気遣う。瓜生にとって、それがツラいことでもあるだろうことは、誰しもが想像できるはずである。そこで、あえて責める言葉を投げた上瀧。意味としては、事故多発の今節ということを考えろ、賞金王当確だからムリする必要があるのか考えろ、賞金王に荷物を背負っていかねばならないということを考えろ……いろいろ考えられるが、そういう部分を超えて、僕は上瀧は本当に優しい男だと思った。本気で叱ったからこそ、瓜生の救いとなる。きっと、上瀧は僕らの目が届かないところで、瓜生をフォローしている。
 上瀧と瓜生は、支部こそ違うが、師弟のような絆を結んでいる二人だ。そういう関係だからこそ、可能だった叱責だったのは間違いない。
 そのことを証明しているかのように、瓜生が去ったあとの上瀧は、一転して表情を変えている。同期の倉谷和信が1着で優出を決めたのだ。
「おっちゃーーーーーーーん! やったなーーーーーーっ!」
 倉谷に駆け寄った上瀧は、天に届くかと思えるほど両手を掲げて(すなわち、バンザイ)、瓜生を叱ったより何倍も大きな声で、倉谷を祝福した。そう、上瀧は不機嫌だったわけではない。むしろ、同期生の快挙にゴキゲンなくらいだったのだ。
「おっちゃん、任せたで!」
 倉谷が、「おぅっ!」と笑顔を返す。任せたで、の前に何かを言っていて、それが「明日は」なのか「賞金王は」なのかは聞き逃したが、とにかく倉谷以上に笑顔を弾けさせる上瀧がいた。
 言っておくが、上瀧は同じレースで敗れたのである。優出を逃したのである。ということは、賞金王行きをも逃したのである。悔しくないわけがない。自分に腹を立てていないわけがない。だが、上瀧はむしろ、瓜生のことを、倉谷のことを、考えていた。その後、2着の西村勝をも笑顔で祝福していたが、上瀧は真剣勝負に敗れたあとでもこんな芸当のできる男なのである。男・上瀧和則。彼の人徳に、感動するしかなかった。
2007_1124_0072  同県勢で明暗を分けたのは、埼玉勢だ。平石和男は、溜め息をついた。優出を決めた西村勝は、たった今書いたとおり、上瀧と笑顔でレースを振り返っていた。二人は賞金王決定戦を経験していて、しかもともに03年。一緒に、賞金王に行った二人なのだ。しかし、今回、埼玉の威信は後輩に託された。その思いを感じ取ったわけではないだろうが、普段からピットでは硬派の表情を見せる西村の顔つきは、ことさらに引き締まっていたのだった。
2007_1123_0162  1着は、倉谷和信。チャレンジカップには選出順位52位で出場した、すなわちメンバー中賞金ランク最下位の男が、チャレカ3回目の優出を決めた。一言、すばらしい。
 共同会見のことだ。終始、淡々と、しかし丁寧に質問に応えていた倉谷が、ふと表情を緩めた。代表質問の記者さんがすべての質問を終えて、他の報道陣に「他に何かありますか?」と追加質問を募ったときだ。倉谷は、その「他に何か」を受けて、ニカッと笑って語りだしたのだ。
「川﨑だけには、負けたくないね。絶対に川﨑には負けない」
 言葉にすると、強い決意表明のようにも思えるが、顔はもう、ニッコニコのニッカニカだ。倉谷と川﨑は同期。すなわち、同期には負けたくない、というライバル宣言だが、僕にはそれが、「同期で優出できて、本当に嬉しい」という意味にしか思えなかった。
「むっかつくわー、ホンマ。絶対に負けませんから」
 まったくもって、何がむかつくのかはわからんのですが(笑)、倉谷はひまわりのように(ヒゲの生えたひまわり、なんてないけど)ニコニコと笑い続けているのだった。こちらまで、嬉しくなるほどに。それにしても、クールに見える川﨑智幸、実はこうしてイジられるキャラ、なんですかね。

12R
 10、11Rに比べれば、平穏に終わった、と言うべきなのかもしれない。事故艇は出ず、インの湯川浩司が逃げ切った。たしかに平穏だし、関係者は胸をなで下ろす結果だったと思う。
2007_1124_0176  そう思ってレース後のピットを眺めれば、王者の敗退もそれほどの事件ではないように思えてくるから不思議なものだ。松井繁は4着に敗れた。そして、レース後は予想外に淡々としていた。
「テラショー、おめでとう!」
 ボート洗浄の最中に、やや離れたところから大きな声で、2着・寺田祥の優出を称えた松井。ヘルメットをかぶったままだったにもかかわらず、10数mは離れていた僕にも声はハッキリと届いてきた。
2007_1122_0295  初のSG準優で6着大敗という苦さを経験した中島孝平は、むしろスッキリした表情で、まず松井繁に「ありがとうございました」と挨拶をした。松井は、高い声で「どうもーっ!」と、偉ぶったところなど少しも見せずに、むしろ丁寧なくらいに挨拶を返していた。自身も敗れているのだから、大先輩の威厳のままに「どもっ」くらいでもよさそうなのに、松井はそれをしなかったのだ。その瞬間、中島はさらに、経験したことのないプレッシャーから解放されたようだった。
2007_1124_0189  白井英治も、まず松井に声をかけていた。松井は、中島に対するのと同じように、挨拶を返す。その振る舞いも、実に丁寧な物腰に見えた。12Rのメンバーのなかでは、真っ先にボート洗浄の輪から離れたのが、白井だった。同県の後輩である寺田に歩み寄って、降りていたシールドをあげて「おめでとっ」と言っていたりもしたが、控室へと駆け出そうと仲間の輪に背を向けた瞬間、目つきがキッと厳しくなった。明らかに、悔恨を噛み締めている表情だった。それを考えると、松井の穏やかさがむしろ不自然にさえ思えてきたものだった。これまで見てきた王者の敗戦のなかでは、かなり異質のもののように見えた。
 それが、実は思いを押し隠しているものだったことに気づくのは、もう少し後のことになる。共同インタビュー出演のため、やや遅れてスタートした湯川浩司の共同会見のため、会見場に駆け込もうとするとそのとき、隣のドアから人影が現われた。松井繁だった。会見場の隣は、医務室。松井は古傷のヒザを手術していて、そのチェックのために医務室を訪れていたのだろうが(ヒザの状態自体は、まったく問題ないそうです)、ドアを開けて出てきた松井の顔には、敗退への悔恨が貼り付いていたのだ。僕と目が合った瞬間、ふっと通常の表情に戻って、一瞥しただけで控室へと去っていったが、その直前の表情だけが印象に残った。王者は、人知れず悔しさを表に出す。これぞ、王者の姿。これぞ、王者の孤独。孤独に打ち勝つ者のみが、真の王者になれるのである。
2007_1123_0316  2着の寺田祥が、共同会見で口ごもった。優勝戦のコース獲りに関する質問に対してだ。今節は、スローのほうが合っているアシ色、だという。しかし明日は4号艇。順当ならば、カドが有力と考えるのが自然なところだ。しかし、ダッシュに引くのは決して本意ではないらしく、「微妙ですね……」と言いながら、悩み込む場面もあったりした。明日は一日、戦略を練り続けることになるかもしれない。ひとつ付け加えておきたいのは、メンバー表を見ながら考え込むなかで、「アシ負けはないです」と言い切ったことだ。機力には、絶対の自信を抱いているのだ。その安心感のなかで、コース獲りの正解を出したとき、テラショーは脅威の存在となる。
2007_1124_0181  1着は、湯川浩司。これがSG3度目の優出だが、なんとまあ、すべてが1号艇、となった。過去2度は、昨年の総理杯が痛恨のS遅れ、その悔しさを活かして今年のグラチャンでは優勝。果たして、今回はどちらに出るだろうか。
 今日は一日通して厳しい表情が目立った湯川は、レース後も、共同会見もほとんど相好を崩すことはなかった。緊張感もあるだろうが、それ以上に、心に期するものがあると見た。会見後に顔を合わすと、力強くうなずいて見せた湯川。実は、次号のBOATBoyの賞金王特集で彼に取材しており(井口佳典との賞金王対談!)、その際に賞金王への決意はもちろん、さまざまな思いを聞かされているのだが、その思いの強さを証明することができたのだ、とばかりの強い視線に、僕は圧倒された。優勝戦、勝とうが敗れようが、この男はチャレンジカップで一皮剥ける。きっと彼は、さらに強くなって賞金王を迎えるだろう。
2007_1123_0335  最後に。こうした雰囲気の中で、太田和美の淡々とした、しかししっかりと悔しさの光を瞳に宿した姿に、感嘆するしかなかった。強烈な気合、せつない哀しみ、目につきやすいのは、そういう類いの空気だ。しかし、太田は自分を見失うことなく、しかし敗戦を良しともせず、自然体でいることができる。すぐに激してしまう僕など特に、なかなかできることではない。次の機会でのリベンジを信じている。(PHOTO/中尾茂幸 TEXT/黒須田守)


| 固定リンク | コメント (2) | トラックバック (0)
トラックバック
この記事のトラックバックURL:
コメント

瓜生君のフライングは、前のレ-スで同期の原田君が優出出きなかった。だから自分が優出する事が少しでも原田君がベスト12に残れる一つの可能性と思い、今節あまりスタートいってないのに無理したのでは・・・。笹川賞の恩返しではないですが。こう思う事で納得する自分です・・・。気を取り直して賞金王はがんばってください!!!

投稿者: なおこ (2007/11/25 8:53:57)

SG特集お疲れ様でした。
瓜生選手と上瀧選手について書いた文を読んで
とても心に響きました。
現代社会について触れているような内容ですね。
 上瀧選手、素敵ですね。

今年最後の福岡競艇場には私達夫婦も応援に駆けつけます。
皆さんも体に気をつけて頑張ってください。
次の記事も楽しみにしています。

投稿者: オロナミン (2007/11/25 20:09:07)
コメントを書く




※メールアドレスは外部には公開されません