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この特集では田中工業「黒須田守」をはじめとした5名のライターから競艇にまつわるさまざまなレポートをお届けします。
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静かに穏やかに勝負駆け――初日、前半のピット

2007_1119_0829  じゃぶじゃぶじゃぶ。整備室内の装着場側窓際には水道があって、松井繁がバケツに水を汲んでいた。その窓から整備室を覗き込むと、ほんの1m先に王者の姿があって、思わず後ずさり。松井は、光をさえぎるデヴの姿など目もくれずに、水を使っている。いったい何をしていたのかは、バケツに水を汲んでいる以外はまったく確認できなかったが、ただ松井は淡々とした、穏やかな表情であった。その後、松井は水の入ったバケツを、整備室の奥に運んでいる。
 ペラを手に整備室を出た松井は、ペラ室の横でモーターのチェックをしていた重野哲之に声をかけた。1Rに出走した重野は、残念ながらオープニングレースを飾れていなかった。松井と重野は、重野の師匠である片山友多加との関係で、支部の垣根を越えて仲が良いのだ。松井に気づいた重野は、振り返って顔をしかめてみせた。惜しかったな、そんな風情で松井の顔が優しさをたたえる。ぽんぽんぽん。松井は重野の尻を3度ほど叩いて、慰めと次への激励を与えていた。重野がぺこりと頭を下げる。松井は、微笑んでペラ室へと入っていった。
 王者の風格。そんな言葉が頭に浮かんだ。

2007_1119_0813  整備室の奥では、高橋勲が本体を開けていた。開会式のドリーム選手インタビューで言っていた「自分なりに整備する」を実行していたことになる。整備士さんのアドバイスを受けながら、力のこもった整備が長い時間続いていた。
2007_1119_0562  本体整備に着手していたのはほかに、市川哲也と辻栄蔵の広島勢である。市川の思い詰めたような表情も印象的だったが、辻の素早い行動がとりわけ目に留まった。自艇に置かれた工具を取りに行く際、整備を終えた本体を装着する際、すべての動きが小走りなのだ。重量のある本体を持っての小走りは、なかなか難儀そうである。装着を終えた辻は、舳先のほうに回ってボートを押し始め、そのままの態勢でボートリフトへと移動させ始めた。すなわち、ボートがバックで進んでいるような感じで、辻は艇を運んでいるのである。こんな運び方をしているところは初めて見た。
 それ以外に整備室で見たのは、木村光宏、田村隆信。田村はピストンリングを外しているように見えたが、実際に3本交換したようである。
 ちなみに、ペラ室では魚谷智之や笠原亮、寺田祥らの姿を見かけている。いつものSGに比べると、ペラ室の人口密度は薄いような気がするのだが。

2007_1119_0610  くれだまし、ってわかりますか?
 元選手にして浜名湖の姐御として君臨する野中文恵さんが、「なに? ネタ探し? あるよぉ~」と言いながら教えてくれたのが、「くれだまし」という言葉だ。隣のH本記者も、初耳だと言っている。
 この言葉を発したのは、1Rで4着に敗れた寺田千恵だそうである。佐藤大介との3着を競っていたテラッチが、大介の「くれだまし」を喰らって逆転された、というのだ。逆転の場面を記しておけば、大介のツケマイにテラッチが沈んだかたちだ。それが、「くれだまし」? 野中さんによると、こういうことだ。テラッチには、大介がキャビったように見えたそうだ。それを察知したテラッチは落として回ったのだが、ところが大介はキャビってなどいず、テラッチが落とした瞬間に全速で回っていった、。テラッチは、まさに大介の策略にハマったかたち。「ようするに、ネコだましのようなもんよ」(野中さん)。レース後、テラッチ&野中文恵は、大介に「キャビったと思ったのにぃ!」と文句を言ったとか。おねえさま方、あんまり後輩をいじめちゃダメですよ。
2007_1119_0648  そんなことを話していたら、テラッチがちょうど通りかかった。「その人と、あまり関わったらダメよ~~」と叫びながら、テラッチは食堂へと入っていったのだった。紅一点のチャレンジに臨むテラッチにとって、野中さんの存在は心強いのではないかとちょっとだけ思った。

2007_1119_0897  正直、初日のピットは予想外の静けさだと思った。大きな動きがそれほどあるわけでもなく、闘志を前面に出している選手がいるわけでもなく。といっても、選手たちに緊張感がないわけではない。今朝、挨拶を交わした選手のほとんどがそうだったのだが、挨拶を返してくれる声や、会釈などが小さいのだ。自分がそうする場合を考えてみると、これは「何かを考え込んでいる」ときではないかと思った。つまり、選手全員が思索にふけっているのではないかと、想像した次第である。目に見える身体や表情の動きは小さくとも、頭脳は猛烈な勢いで動いている。そういうことではないかと思うのだ。
 そんななか、気になる山崎智也だ。智也のスッキリした表情はいつ以来だろう? 思わず記憶の糸を辿りたくなるくらいに、雰囲気がいい。僕の立っていた場所から30mほど先で原田幸哉とは身振り手振りをくわえつつ談笑していたのだが、遠目に見てアフレコをつけるとするなら「ピューッ! ピューッ! ピューッ!」。それくらい、激しい身振り手振り、そして底抜けの笑顔だったのである。おそらく、誰かとの足合わせについて話していたものと思われる。こんな智也は、たしかに最近はほとんどお目にかかっていない。(PHOTO/中尾茂幸 TEXT/黒須田守)


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