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この特集では田中工業「黒須田守」をはじめとした5名のライターから競艇にまつわるさまざまなレポートをお届けします。
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ツラいツラい勝負駆け――3日目、後半のピット

 なんとなくピットの空気が重く感じたのは、気のせいなのだろうか。あるいは、僕が勝手に暗い気分になっているだけなのか。
 勝負には、何が起こってもおかしくない。しかし、今日はいろいろなことが起こりすぎた。しかも、予想だにしなかったことがたくさん。
2007_1122_0333  既報の通り、6Rで森秋光が、7Rで大嶋一也が欠場となっている。その内容については、別項を参照してほしいが、誰がこのような事態が起こると想像しただろうか。歴戦の名人が、まさかこのような勘違いをするとは……。大嶋は、「浜名湖モーターボート競走実施規程第69条により」即日帰郷となったが、競艇場を後にする際、森に対して心から申し訳なさそうにしていたそうである。森もツラかっただろうが、大嶋はもしかしたら森以上に落ち込んでいたのかもしれない。
2007_1122_1007  青天の霹靂なんて言葉が軽く聞こえるほどに、あまりに突然、戦いの場を奪われてしまった森は、それでも後半のピットでは淡々とした表情を見せていた。自身に過失などいっさいなかっただけに、吹っ切れるのも早かったのだろうか。ただ、心に妙な感覚が残っていないはずはなく、長嶺豊さんが慰めるように抱きしめると、苦笑いを浮かべて、思いもかけず降りかかった不運への嘆きを表現していた。森は昨日Fを切っていて、すでに終戦を迎えていたとはいうものの、しかしひとつひとつの勝負を捨てていたわけではないのだ。戦わずして剣を収めなければならないのは、児島55周年準優の寺田祥もそうだったけれど、戦士としてはもっともツラいことのひとつに決まってる。

2007_1122_0912  10Rでも、予想外の出来事が起こった。なんと、魚谷智之が3周1マークで転覆したのである。魚谷とて、こうした事故は常に身に起こりうることであるのは当然なのだが、しかし「あの魚谷が……」と呟いてしまうのは、彼のあまりにも強烈な近況を思えば、誰もが抱く感覚だろうと思う。まったくもって、信じがたい転覆だった。
 魚谷は、この転覆で負傷、途中帰郷となっている。11Rが終わった頃、ペラゲージの入ったプラスチックのボックスをいくつか手にしつつ装着場を歩いている魚谷を見かけたが、歩幅は狭く、やや足を引きずるような格好で、ツラそうな歩様だった。顔に精気もなく、傷んでいる様子がうかがえる(腰が負傷箇所のようだ)。ひとまず自力歩行が可能なので、賞金王決定戦には元気な姿を見せてくれると信じてはいる。だが、07年最強、賞金ランクも独走の魚谷の痛々しい姿は、衝撃的の一言しかない。早く傷を癒してほしいと願いながらも、彼の後姿を見ることさえツラいことだった。

 昨日、田中信一郎が負傷帰郷した。今日も2人が、帰郷した。事故もFも多発していて、水面は強風にあおられて波立っている。なんだか不穏なムードさえ漂ってしまっている「年間最大の勝負駆け」、これもドラマチックな要素と言ってしまえばそれまでだが、やはり心は浮かない。ピットで顔を合わせる人たちは、口々に「いろんなことがありすぎだ」と言い、そして「もう事故など起こってほしくない」と祈っていた。12R前には、何としても無事に今日という日を締めて、リズムよく仕切り直しの明日を迎えたいと、皆が願っていた。ツラい一日は、今日だけにしてほしい。きっと選手もそう思っていただろうし、選手たちを見つめる者たちの誰もがそう考えていた。
2007_1122_0921  12Rは1周バックで3艇が併走となる激しいレースながら、ひとまず何事もなくレースは終了している(寺田千恵がキャビってはいるが、大きな事故にならなかったのは何よりだ)。さまざまな出来事が巻き起こったことを認識してはいても、選手たちは力の限りに己をぶつけ合うのだ。しかも、最高に激しく。その闘志は誰にも止められないし、見る側としては激しいな戦いを望んでいる。だからこそ、選手が笑顔でレースを終えられることを願う。明日は爽快な空気の中での「年間最大の過激な勝負駆け」になってほしいと切に願う。

 12R発売中、笠原亮と目が合った。控室に戻るところだったようで、僕はその途上に突っ立っていたのだった。笠原は、すぐに苦笑いとも微笑ともつかない笑みを浮かべた。
「すみませんでした。せっかく載せてくれたのに」
 BOATBoy12月号のチャレンジカップ特集で、「地元」勝負駆け選手ということで、笠原亮にインタビューをした。笠原が言ったのは、そのことだ。期待に応えられず、すみません、というほどの意味だろうが、もちろん謝る必要など微塵もない。誰よりも、心に傷を負ったのは笠原自身だからだ。むしろ、こちらが煽ったことを謝らねばならない立場かもしれない。
2007_1122_0227  そのインタビューで笠原は、「本気で獲りに行く」と力強く言った。そして、「本気で獲りに行けば、ダメだったときにショックはものすごく大きい。でも本気で獲りに行く」とも言った。ダメだったときのショックを回避するために、自分をごまかすようなことを言うとか、本気度を下げるとか、そんなことをしない笠原が素敵だと思う。自分に逃げ道を作らなかったことが尊いのだ。結果、3Rで沈没失格を喫して終戦となってしまった笠原は、それ以降の一日を大きなダメージとともに過ごしただろう。「もうボロボロです……」と溜め息もついていたから、その心中は察するだにツラい。だが、笠原の戦いは決して否定されるようなものではないはずだ。落ち込むのは仕方がない。いや、今はひたすら落ち込めばいい。再び前を向いたときの笠原は、さらに強くなっているはずだからだ。
 明日からも頑張って、そう告げると、ひとつ頷いた笠原。明日の朝目覚めたとき、すでに前を向いていれば、きっと逆襲の機会は訪れる。

 その直後、整備室のほうに移動して突っ立っていたら、三嶌誠司が整備室から出てきた。「寒いなか、大変やね」、三嶌は笑顔で僕に語りかけた。しかし……笑顔が硬い、そう思った。
2007_1122_0629  前検日、「ええとこ見せる」と宣言して競艇場入りした三嶌。しかし、一昨日、第1戦でFを切ってしまい、早々と終戦を迎えていた。それ以来、ピットでその姿を見てはいたけれども、初めて顔を合わせ、言葉を交わしたのがこの瞬間。3日前の言葉を覚えているとは思わないけれども、彼が今立たされている場所に思いを馳せれば、すべてが吹っ切れているはずがないと考えるほうが自然だろう。
「寒いっすね」、そう返した僕に軽くうなずくと、三嶌は足早にペラ室へと向かった。取材者として、三嶌に聞きたいことはたくさんあったし、そうでなくとも心中を想像したくなる位置に彼はいる。しかし、それ以上、話しかけることはできなかった。拒絶していたわけではないだろうし、単に忙しかっただけだろうけど、それ以上は話しかけられたくないというような空気を、三嶌は発散しているように思えたのだ。取材者として情けない話かもしれないが、僕はその空気を受け入れるしかなかった。
 F後の三嶌は、まるで次に走るレースが勝負駆けであるかのように、整備やペラ調整に集中している。もちろん、目の前のレースを全力で勝ちに行く姿勢は変わっていないのだから当然のことだが、それでも決して勝負を投げない、つまり絶対に諦めないという思いが、作業をする背中からあふれ出ている。彼がこれから走る戦いの意味合いがどうであろうと、三嶌誠司は今節中に必ず「ええとこ見せ」てくれる。そう堅く信じる。

2007_1122_0180  さて、明日はボーダー6・00とすれば2着勝負駆けの山崎智也。崖っぷち度はさらに高くなってしまっているが、そんな智也にもちょっとだけツラいこと……というより、不運があった。10R前に発表された前夜版(概定版)番組では、智也は明日4号艇に入ることになっていた。後輩である秋山直之が、智也のボートに4番のプレートと青い旗を設置していたのだが……12R前、秋山が控室から走って装着場に現われた。「番組が変更になったんです~」。10Rで転覆した魚谷の帰郷により、概定版は変更に。その結果、智也は5号艇になったのである(9R)。秋山はダッシュで5番のプレートと黄色い旗を持って来て、智也のボートに取り付けた。勝負駆けの局面だけに、ひとつでも内のほうが望ましかったはずで、やはりこれは運が悪いと言うしかないだろう。まあ、4号艇に入った原田幸哉のマクリに乗れば展開はありそうだから、あながちネガティブな変更とばかりは言い切れないが……。智也自身、そんなことなど気にしたふうも見せずに笑顔を浮かべてもいたから、艇番がどうだろうと、渾身の勝負駆けで魅せてくれるはずである。(PHOTO/中尾茂幸 TEXT/黒須田守)


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>10Rで転覆した魚谷の帰郷により、概定版は変更に。
じゃあ、本来の明日10Rの番組ってどう組まれてたんですか??

投稿者: はっしー (2007/11/22 20:14:01)

はっしー様
ごめんなさい、現時点でそれを記すのはやめておきます。
存在しない番組を本日のうちに書くのは、誤解を招くおそれがあるためです。
ご了承ください。
本日の全レースが終了した後、検討させていただきますね。

投稿者: 取材班 (2007/11/23 10:52:27)

宜しく!

投稿者: はっしー (2007/11/23 11:05:01)
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