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この特集では田中工業「黒須田守」をはじめとした5名のライターから競艇にまつわるさまざまなレポートをお届けします。
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地元勢の勝負駆け――3日目、前半のピット

 空気が冷たいピットに、業務連絡のようなアナウンスが流れる。
「白井英治選手、ボート15から44に変更」
 2Rで白井のボートが破損したようだ。ボート変更は、これが今節6件目になる。重成一人、重野哲之、鳥飼眞、上瀧和則、高橋勲、そして白井だ。チャレンジカップの激しさを象徴するかのような、傷だらけのボートたち。ここが苛烈な戦場であることが、まざまざと思い知らされる。
2007_1121_0356  変更が告げられて、そのための作業をしている白井に、金子が歩み寄る。マウスピースをくわえたまま、白井と2、3言葉をかわして、がっくりとうなだれた。苦笑いまじりの笑みを浮かべて、目を細めたまま。そんな金子に白井も、目を軽く細める。金子は、「やれやれ」といった感じで両手を広げた。あまり浮かない話をしていたのは、間違いなさそうだ。
2007_1121_0132  対照的に、2Rを逃げ切った重野哲之は、嬉しそうに目を細めている。エンジン吊りに加わった松井繁に、手を結んで開いて結んで開いて結んで開いて……グーパーグーパーグーパーと左手を動かして、何かを説明していた。おそらくは、レバーを握って放って握って放って、なんとかスタートを合わせた、ということか。もし敗れていたなら、「こんなスタートだったからなあ……」といったところなのだろうが、勝利の後なら笑い話になる。防寒対策のため口元を覆っている松井も、目で笑って、重野を祝福していた。

2007_1121_0074  「かかりが来ないんですよ……」
 1R、2号艇からの差しハンドルが流れて敗れた渡邉英児は、表情こそいつもと変わらぬ優しく穏やかなものだが、むずかるエンジンに手を焼いているようだった。回り足を強力に仕上げて勝負するタイプの英児にとって、武器を繰り出せない現状。コツコツと整備をして機力を上向かせていく“英児スタイル”は今節も健在だが、しかし描かれるべき上昇カーブは彼が想定したほど、鋭角な弧ではないようだ。もちろん、それでもいつの間にかきっちりと機力が仕上がっていくことがあるのが、彼の手腕なのではあるが。
2007_1121_0034 横澤剛治は、整備室の奥にあるペラ室にこもっている。浜名湖のペラ室は、ボートリフトの脇にある装着場から覗き込めるものと、整備室の奥にあって装着場からは様子がうかがいにくいものと2つあって、横澤は後者を使っているのである。リフト脇部屋は、参戦していれば服部幸男がマイポジションを構築していて、佐々木康幸や笠原亮ら服部の弟子たちは今節、普段なら服部がいるはずの場所あたりで調整をしている。奥部屋は、参戦していれば菊地孝平が使用していて、同期の横澤はこちらに陣取っているわけだ。それぞれが、ここにいない仲間の思いを背負って、作業を続け、そして水面を走る。引き締まった横澤の顔つきには、何か決意のようなものが見えるような気がする。

2007_1121_0122  胸を張っているように見えた。好調・佐々木康幸である。師匠・服部幸男が賞金ランク10位。ともに賞金王に行くためには、自身が好成績を残し、下から這い上がろうとするライバルを叩く必要がある。そして、ここまでは順調に目標に向かって突き進んでいる。気分が悪かろうはずがない。地元勢では、もっとも雰囲気がよく見えるのは、やはりこの佐々木。ピット内を往来する足取りも力強い。
 その佐々木が、少し慌てた素振りを見せたのが、3Rだった。同じ服部門下の笠原亮が、沈没失格の憂き目にあった。重野とともに全力疾走でボートリフトに駆けつけて、水面に目をやる。「僕はあっちに行ってます!」と重野が救助艇の到着するほうへ走り出すと、佐々木はリフトの前でうなずいて、さらに心配そうに水面を眺めた。師匠とともに賞金王へ。おそらく、佐々木と笠原はそう誓い合っていたはずだ。しかし弟弟子をアクシデントが見舞ったことは、佐々木にとっても哀しいことに違いなかった。それまで明るい表情でいることが多かったのに、佐々木の表情が曇った瞬間だった。
2007_1121_0385  4Rのスタート展示が終わって数分後、笠原がバツの悪そうな表情で装着場に現われた。とりあえず、身体は無事のようでホッとする。ちょうどその頃、沈んだボートが引き上げられて、佐々木をはじめとする仲間たちがエンジンを外しているところだった。駆けつけた笠原は、ヘルプしてくれる仲間たちに申し訳なさそうにしながら、洗浄のため水をかけられているエンジンを見つめている。水をかけ終わって、分解洗浄のためにエンジンを整備室に運ぶ笠原に、金子良昭が背中越しに慰めの声をかける。笠原は、ほんのわずかに舌を出して、苦笑いするしかなかった。笠原は、この失格でほぼ終戦。夢は兄弟子に託すしかなくなってしまった。もちろん、これで勝負を投げる男ではない。明日からも全力投球するはずだ。しかし、胸に抱いた思いが空転したことは、彼の心に影を落としているようだった。

 地元でチャレンジカップを迎えられることは、非常に有利であることは言うまでもない。だから、気合も入る。それが奏功すれば、心は弾む。だが逆に、だからこそ気合が報われないとき、ダメージも大きい。アドバンテージが大きいほど、リスクも大きいということだ。そんな戦いを乗り切って、福岡への切符を手にできる者が現われるだろうか。また、御大・服部を12位内に残すことができるだろうか。王国静岡の緊張感あふれる戦いは続く。

2007_1121_1047  さて、浜名湖は相性がいいはずの気になる山崎智也。ヘッドホンを耳にあて、集中力を保とうとしている姿を見かけて、これはいつもの通り。切羽詰った表情もなく、平常心で過ごしているように見えてはいた。しかし、6R1回乗りは5着。明日はやや厳しい勝負駆けを強いられることになった。今日の後半、そして明日の智也に変化はあらわれるだろうか。(PHOTO/中尾茂幸 TEXT/黒須田守)


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