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この特集では田中工業「黒須田守」をはじめとした5名のライターから競艇にまつわるさまざまなレポートをお届けします。
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泣き笑いの勝負駆け――初日、後半のピット

 勝負駆けの無情。8R、3艇がフライングを切った。秋山直之、三嶌誠司、田村隆信。ボーダー上の選手が2人も含まれるという、無情……。だからこそ面白い、ということは当然言えるわけだが、しかしピットで彼らの表情を見るのは、やはりツラい。
2007_1120_0452  田村は、あと少し手を伸ばせば届くはずだったベスト12のイスを、これで手放さねばならないことが決まってしまった。落胆しないほうがおかしい。レース後、ずいぶん時間が経っているのに蒼ざめて見えたのは、決して先入観だけではあるまい。うつむくな、田村。明日も戦いは続く、そして来年がある……そう言うのはたやすいが、今日のところは声もかけづらいというのが正直なところだ。
2007_1120_0558  三嶌は、現在11位だから、まだすべてが終わってしまったわけではない。しかし、自力でベスト12の座を死守することはかなわなくなってしまった。ある意味、悔しさは田村以上かもしれないし、もし他の選手の浮上を眺めなければならなくなったときの悔いは、誰よりも強いはずだ。整備室では、特に表情を変えることなく作業をしている姿が見られたし、木村光宏にペラの相談を受けて、快く話をする姿もあった。だが、心の中には煮えくり返るような思いも渦巻いているに違いない。12R直前だっただろうか、競技棟の1階に貼り出されているスリット写真を、いつまでもいつまでも見つめている三嶌がいた。スリットオーバーは、コンマ01。気迫の証でもあり、入っているか入っていないかはもはや運の領域である。それだけに、簡単には受け入れ切れないのだろう。ついには、虫眼鏡まで持ち出して、どんなに見ても変化などしようもないのに、スリット線と自分の舳先を見つめているのだった。たまたま通りかかって、諭すように話し続けていた江口晃生の慈愛に満ちた眼差しもまた、せつなかった。

2007_1120_0201  田村や三嶌が悪魔に魅入られてしまったのだとするなら、佐々木康幸には女神が微笑んだと言うしかない。5R、実況の工藤アナが「めり込んだスタート」と表現したスリットは、コンマ00。佐々木は、タッチスタートでFを免れ、しかも1着でゴールしている。さらに、後半9Rでも1着。ピンピン発進という最高の成績で初日を終えたのだから、神がかっているとさえ言える。
「流れが来ましたねえ~」
 佐々木は、垂れ気味の目をさらに垂らして笑った。長嶺豊さんが、「SGやGⅠを勝つときってのは、00や01で残すレースがあるもんや」と、ジンクスのようなもの――しかし、大きな勲章を手にする者に降り注ぐ強烈なツキの存在を、佐々木に伝える。心強い言葉に、佐々木の笑顔に力がこもる。「まあ、明日は力が入り過ぎないように頑張ります」。そう言って顔をほころばせた佐々木からは、たしかに神々しいオーラが見えたような気がした。

2007_1120_0365  三嶌誠司を気遣っていた江口晃生は、自身もボーダー付近にいる。初日終了時点で18位、彼自身の状況も、アツい。しかし、その泰然自若とした振る舞い、そして他者へも意識を向けられる人柄が、このヒリヒリとした空気のなかでは眩しく見えたりもする。整備室でギアケースを整備していた笠原亮がとびきりの笑顔を見せていたのを発見して、ふと注目すると、会話の相手は江口だった。笠原は、照れたように笑ったりもしていたから、江口の言葉は笠原にとってポジティブなものだったのだろう。他支部の後輩と、そんな交流をチャレンジカップのピットでできるのは、彼の人柄がなせるものにほかならない。気合を満タンにたたえながら、人に優しくできる。そんな江口がこの勝負駆けを成功させるのは、痛快な出来事となるに違いない。
2007_1120_0789  その横では、辻栄蔵がいわゆる“三つ割”と呼ばれる作業をしていた(というか、辻のしている作業が三つ割だと教えてくれたのは、長嶺豊さんだ。師匠、ありがとうございます)。すなわち、クランクシャフトの整備だ。10Rでは2着という好成績がありながら、この大整備。この勝負駆けに懸ける辻の思いは、相当にアツい。それでいながら、心配そうに見守る整備士さんたちと笑い合ってもいて、やはり彼の朗らかな人柄が垣間見えている。
2007_1120_0860  さらにその横に、今村豊の満面の笑みがあった。7Rで6コースから1着という離れ業を見せているから、気分上々も当然……と思ったりもしたが、まあ、このニッコニコがピットでの今村豊の日常でもある。元気なミスター競艇には、本当に癒される。
 今村が何に笑っていたか、といえば、弟子である白井英治の整備に、だ。整備に笑っていた、というのは何ともおかしな気がするが、懸命に整備をしている白井を見つめながらニコニコと歯を見せて笑っていたのだから、やはり「整備に笑っていた」ようにしか見えないのだ。その合間に、白井にアドバイスらしきことを、笑顔を絶やすことなく、話しかけてもいた。白井英治は、賞金ランク21位。師匠の心遣いを活かして、賞金王12ピットに近づくことができるだろうか。
 12R発走、ピットでのレース観戦は窓越しに検査員室のモニターでしているが、その検査員室で大声をあげて談笑するミスター競艇がいた。この人はもはや、“勝負駆け”という概念を超越した領域を棲み家にしているのだと思った。
2007_1120_0792  ほかに、整備室で見かけたのは、渡邉英児。コツコツとパワーを積み上げていくのは、これぞ“英児スタイル”。初日から、炸裂している。山崎哲司も、大整備をした一人だ。中尾カメラマンによれば、寺田千恵と隣同士で整備をしていて、両者ともに親しい中尾カメラマンが「千恵ちゃん、明日はテツをいじめないでよ(ともに2R出走)」と言うと、「寺田さんのことは、いつもブラウン管で見てます」とテラッチに言ったとか(レース場で一緒になるのは初めてだそうだ)。今時、ブ、ブラウン管って……とは誰もが思ったらしく、テラッチは「あんた、本当は年いくつよ?」とすかさずツッコミ。出走表で年齢を確認すると、ちょうど10歳違いで、テラッチは絶句していたそうである。テツ、ふてぶてしいもんなあ。そんなテツが何を整備したかというと、「スリーブ換えました」。正直、表情は冴えないけれども、まだまだ諦めるわけにはいかない……そんな心意気や、良し。

2007_1120_0396  ドリーム戦。湯川浩司が3コースからマクって1着。初のSGドリーム戦を、勝利で飾った。湯川は、帰還したピットでも、まだ顔を引き締めたままだった。いい表情だ。湯川のマクリに貢献してしまったのは、1コースからコンマ33というスタートで立ち遅れた魚谷智之である。魚谷らしからぬスリットに、レース後は苦笑いを見せながら、悔しさをにじませていた。そんな姿にも、風格が生まれ始めているのが、彼の充実ぶりを表わしている。控室に向かいながら、掲示されたスリット写真を覗き込む。その瞬間、のけぞって天を仰ぐ魚谷。それ以上は忌まわしい隊形など見たくないとばかりに、それ以上はスリット写真に目をやることなく、カポック脱ぎ場へと歩を進めた。強者は、敗れた姿にも迫力がある。魚谷は、そんな領域に足を踏み入れている。

2007_1120_0413  さて、初日4着スタートの気になる山崎智也。今日は7R1回乗りで、後半はのんびりと過ごしていたのか、エンジン吊りのときくらいしか姿を見かけなかった。淡々と仕事をしていたから、その胸の内や気合のほどはまるでつかめなかったが、少なくとも暗さは感じない。アシも悪くないようだから、明日に期待するとしよう。(PHOTO/中尾茂幸 TEXT/黒須田守)


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