この特集について
ボートレース特集 > 明と暗――決定戦初日後半のピット
この特集では田中工業「黒須田守」をはじめとした5名のライターから競艇にまつわるさまざまなレポートをお届けします。
ライタープロフィール
カテゴリー
関連リンク
競艇サポーターズ
関連書籍

 ボートレース特集

明と暗――決定戦初日後半のピット

_mg_2743  今日のピットにおいて、決定戦メンバーで気になる存在は12人全員だったのはもちろんだが、シリーズ戦のピットリポートでも触れている三嶌誠司はその筆頭格である。
 今日一日、作業をしていた時間の長さでいえば、三嶌が一番だったと思われるからだ。それでいて、焦っている感じはまるでなく、10R後、展示ピットにボートを着けるまでの「長い時間」を有効に使いながら、最後の最後まで、自分にできることを続けていたのである。
 ……少し先走りをして書いておくなら、今日の結果は4着だったが、6番手から押し上げての4着だったように足自体は良く、こうした整備が実ってきているのは間違いないはずだ。

_u4w2416  ペラ調整をしていた時間が長かった選手としては、三嶌の他に田中信一郎と濱野谷憲吾の名前が挙げられる。田中の場合、その表情がとても良かったという印象が強い。平和島のダービーのときと変わらなく、“やわらかなオーラ”のような漂っているようだったのだから、暗い空の下にある「ピットの森」を照らす太陽のような存在になっていたのだ。
 一方の濱野谷は「ピットの大奥」で作業をしていたが、とにかく自分のペラの具合にはなかなか納得がいかないようだった。
 これは実際のペラの具合そのものだけではなく、心理的な部分も影響しているのかもしれない。整備室の奥にある「大奥」を出て、待機ピットに留めてあるボートのもとへと向かいかけていながらも、その途中で思い直して、大奥に戻っていくというような場面を二度ほど目撃している。10R後にもそれをしていたので、最終的には、展示ピットにボートを着けるのも、三嶌よりあとの最終選手となっていたのだ。
 この少し前の9R後には、待機ピットで一緒になった瓜生正義に対して、こちらの聞き違いでなければ、「スタート、行ききれんよ」と苦笑しながら言っているところも耳にした。
 その時間帯の待機ピットには濱野谷と瓜生しかいなかったし、二人は出走するレースが違ったのだから、その言葉も本音に近いものだったのかもしれない。……やはり結果を先に書いておくならば、0.26のスタートで5着となっているのだから、3カ月のブランクによって、レースの感覚が掴みきれていないのだとも考えられる。レース後、スリットを見ながら、「……いかんね。しかも、内に寄ってるし」と記者陣の前でも苦笑していた。

 そして11R――。
_mg_2757  3周1マークにおいて、瓜生が転覆した瞬間にはスタンドから大きな悲鳴が上がったが、ひと気の少ないピットの空気も凍りついた気がしたものだった。さらに、この転覆の影響もあり、後ろを走っていた服部幸男は、エンストのためにそこでレースを中止してしまったし、瓜生に突っ込んだかたちの寺田祥は、不良航法で減点を取られているのだ。
 これが「決定戦トライアルならではの厳しさ」であるわけだが、第一戦からこうして明暗が分かれることになったのである。
 地元の期待を一身に背負う瓜生がいきなり厳しすぎる立場にたたされたのだ。レース後しばらく立ったあとには、転覆の際に打ったのだろう胸を押さえながら「すみませんでした。すみませんでした」と頭を下げている姿が見かけられている。モーター格納も自分でしていたので、体のほうは大丈夫なようだし、心を萎えさせてはしまっていないようだったが、こうした場面を見ていると、言葉にできないほど複雑な心境になってくる。上瀧和則、吉田弘文の九州勢も、レース直後は、さすがに表情が暗くなっていた。

_u4w3265  11Rを勝ったのは湯川浩司で、さすがにピットに引き上げてきた直後から、安堵と喜びの笑みを見せていた。公開インタビューでも共同会見でも、湯川は「感動しました!」と口にしていたが、初出場の決定戦でいきなり1着を取れたのだから、それも当然のことだろう。レース直後には今村豊や倉谷和信などに冷やかされてもいたようだったが、何を言われても、湯川は笑ったままでいたものだった。ただ、表情をなくしたような服部が救助艇で引き上げてきたときには、さっと表情を引き締めて、深々と頭を下げていたのは、性格のいい湯川らしいところだ。
 共同会見において湯川は、モーターに対してはかなり満足していると話していたが、昨日から今日にかけて、作業をしている時間は12人のなかでもかなり短いほうだったのも、それで納得できる。
「いい足」を得たとき、ジタバタしないで、最低限必要なことだけをやってレースを待てたというのも、精神的にいい状態にある証拠といえよう。そのうえ、レース後に行なわれた「枠番抽選」では12Rの1号艇を引き当てたのだから、今の湯川には幸運の女神が舞い降りているのも間違いない。

_u4w3268  11Rで2着に入っている吉川元浩に対する注目も当然、高まる。昨日のモーター抽選で“陰のエースモーター”ともいえる32号機を引き当てたときから注目はされていたわけだが、今日の吉川は、湯川の過ごし方とも似ていて、ジタバタすることはまったくなく、時間的にも内容的にもちょうどいいレベルとも言えるのだろう作業を黙々とこなしていたのだ。
 レースから引き上げてきた直後から、気持ちを引き締めなおすような表情をしていたことにも好感が持てた。
「行き足がいい」とのコメントも出しているが、それでいて、明日は11Rの1号艇を引き当てたのだ。
 今の吉川は、湯川に負けないほどの“引きの強さ”を持っている。

_mg_2799  そして12R――。こちらを勝ったのは井口佳典なのだから、銀河系軍団の勢いはとどまるところを知らない!!
 レースから引き上げてくる際、ボートリフトのところには湯川や田村隆信が出てきていたのは当然だが、そこに到着する前から、井口は天高く右手を突き上げていた。
 普段はクールにしていることが多い井口であるが、「6コースからの気持ちの良すぎるスタート」で勝利をもぎ取ったのだから、その喜びは本当に大きかったのだろう。自分より先に湯川が勝っていたのだから、“オレも続いたぞ!”という気持ちをこうして表現してみせたのかもしれない。
 午後の井口は、ペラの森でペラを叩いている時間が長く、その途中では湯川が傍に来て、何を話しかけるでもなく、じっと井口の作業を見ている時間帯もあったが、そうして銀河系軍団はいつでも心が結びついているのだ。
 共同会見では「意外に緊張はしてなかったので冷静にターンができたと思います」と言っていたうえ、モーターも出ていることを強調していた。
 明日の出走は12R。たとえ4コースになったとしても、カドになれば今日と同じようなスタート一撃を再現してみせるかもしれないし、3コースを守るために、100メートルあたりの位置から「どれくらいスタートが見えるか」を明日、確認してみるとも言っていたのだから、明日の井口も侮れない存在なのである。

_u4w3230  12Rの2着は魚谷智之だったが、昨日の“泣き発言”から、ここまで足を立て直したのは「さすが」の一語だ。
「なんじゃろってくらい悪かった」という足でありながら、今日の魚谷は、慌てることもなければ、手を休めることもなく作業を続けていたのである。
「正常じゃなかったのが正常になった」
「日に日に良くなりそうな気配もあります」
 とも言うのだから、明日からも、強い魚谷が見られることだろう。
 ……この男は本当にタダ者ではないのである。

_u4w2432  12Rが終了すると、翌日の番組をつくるための「枠番抽選」が行われる。
 当日の1・3・5着組が翌日の12R、2・4・6着組が翌日の11Rに分けられ、それぞれ6人ずつで枠番を抽選するわけなのだ。
 今日の11Rで完走できなかった瓜生と服部は、ジャンケンによって、どちらが5着扱い、6着扱いになるかを決めていた。選手とすれば当日の1着選手がいる12Rになるよりは11Rに入りたいと考えるものだそうだが、ここで瓜生は11Rに入ったのだから、ギリギリのところでは運に見捨てられていないといえるだろう。
 今年の枠番抽選は「競技本部内」で行なわれているため、抽選で一喜一憂する様子は直接、見られないのだが、競技本部から出てきた三嶌は「また6枠や」と言いながら競技本部から出てきた。さすがに苦笑するしかないといった表情だったが、それでも気持ちを萎えさせることはなく「行くだけ行きます!」とも言っているのだから、三嶌らしい闘いぶりに期待したい。
 三嶌は11Rの6号艇に決まったわけだが、12Rの6号艇は松井繁だ。
 こちらは競技本部から出てくる際に「6番!」と言って仏頂面を見せたが、その仏頂面も、本音であると同時にポーズでもあるようだった。
「まあ、引いたもんはしゃあないからね」と、サバサバしているところも見せていたのだ。「去年の6号艇は3着」だったとも発言しているし、松井もまた、ここからの上位着順を狙っているのは間違いない。もちろん、1着も含めての上位着順ということであり、今日の井口の例を見ても、結果はどうなるかはわからないのだ。
 年に一度のクライマックス! 賞金王決定戦ならではの「ドキドキの闘い」は、いま始まったばかりなのである。
(PHOTO/池上一摩 TEXT/内池久貴)


| 固定リンク | コメント (0) | トラックバック (1)
トラックバック
この記事のトラックバックURL:
トライアル 【将棋(詰将棋)とか競艇とか法律とか囲碁とかホークスとか。】
福岡競艇場で開催されている賞金王決定戦ですが、トライアル初日を観た感じでは、魚谷 続きを読む
受信: 2007/12/22 0:32:47
コメント