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この特集では田中工業「黒須田守」をはじめとした5名のライターから競艇にまつわるさまざまなレポートをお届けします。
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皆、聖戦士――賞金王シリーズ、最終日前半のピット

 言うまでもなく、今節は07年SG最終戦。最終日の今日は、SGの戦い納めである。優勝戦に出る者たちは、最高の舞台でラストバトルを戦うことができる。一方、優勝戦に残れなかったものは、悔しさだけを胸に福岡を去らねばならない。しかし、彼らもこの舞台を全力で駆け抜けたのだ。例年よりは暖かいとはいえ、寒風のなかで作業にいそしみ、機力向上をはかって走り回り、栄光を掴むため水面に魂を投影した。優勝戦メンバーはもちろん偉大だが、それ以外の者たちもまた美しい。

2007_1219_0314  今年、競艇史上初の7節連続優勝を成し遂げ、11月には児島で悲願のGⅠ制覇も果たした前本泰和。一気にSGまで……と意気込んで福岡に乗り込んできたはずだったが、2日目の転覆も響いて、予選突破もならなかった。今節の前本で印象的だったのは、ほとんどの時間を整備室内ペラ叩き所“ペラの大奥”で過ごしていたようだったことだ。成績的には不完全燃焼でも、こつこつとペラを仕上げて勝負に挑んでいく。こうした不断の努力が、艇界新記録というかたちで前本に勲章を与えた、そう思わざるをえない。
2007_1219_1427  こつこつと整備していくといえば、渡邉英児も忘れるわけにはいかない。今年は、SGのピットで“英児スタイル”を何度も何度も見かけたものだ。英児スタイルとは、整備室にこもってひたすらモーター整備を続けるという、見ていると頭が下がるしかない、彼の調整スタイルである。もちろん、今節も英児は英児スタイルを貫いていた。努力実らず、機力は仕上がり切らなかったけれども、前検のときには相当厳しく見えたアシ色が、しっかり戦えるところまでパワーアップされていたのだから、その手腕にも唸らされるというものだ。英児は、ピットで会うと、陽気に挨拶をしてくれる好人物でもあって、いつも癒されてきた。今朝も挨拶をすると快活に返してきた英児には、来年もSGで暴れてほしい!
2007_1219_1151  這いまくってしまった今節、それでも烏野賢太のたたずまいには風格があった。決して心乱すことなく、しかし闘志を衰えさせることもなく、ウンともスンとも言ってくれないモーターと必死に格闘を続けてきた。歩幅の狭い歩き方でピットを移動している烏野は、どんなに混雑している時間帯でも、非常に目立つ。これこぞが、体中から漂う、積み上げてきた実績と自信であろう。1R、今節最終戦にようやく1着が出た。上瀧和則が出迎えて、笑顔で祝福していたが、烏野はヘルメットの奥で笑いながらも、上気したりはしゃいだりせず、泰然と振舞っていたのだった。そんな姿には、ひたすら尊敬、である。

2007_1220_1138  笠原亮が、悔しそうに渋面を作って、目配せをしてきた。こちらも、渋面を返す。妨害失格にフライング。心晴れない一節だった。視線が下を向いても、仕方がない一節だった。しかし……笠原は今日、前を向いていた。「悪いことは全部やったから」。その口調には、悔恨は当然混じっていたけれども、すでに気持ちの切り替えが済んだかのような力強さがあった。
「空回り。いつも空回りばっかり。今年は優勝7回して、総理杯に出られたのに、フライングでパーにしてしまったし。わかってたんですよ、フライングしたらF休みになっちゃうのは」
 笠原にとって、これは単に「F休みでSGを棒に振ってしまった」というだけのものではない。今年前期にA2落ちを喫し、悔しさの中で笠原は「来年の総理杯出場」を目標にした。記念に出られなくても、SGに出られなくても、優勝回数を重ねていけば権利が手に入る総理杯。いちど挫折を経験した彼は、それを自分に課すことで、モチベーションを高めていたのだ。そして、その目標は達成された。思えば、笠原をスターダムに押し上げたSGこそ、総理大臣杯(05年)。笠原にとって、来年の総理杯は思い入れが深い大事なSGだったのだ。
「でも、勉強になりましたよ。勝ちたい勝ちたいばっかりで、すぐに焦ってしまう自分というものを認識しましたから。そういうのをなくしていかなければいけない」
 自己を認識する。それがどれだけ難しく、そしてどれだけ大切なことか。今節、笠原はもがく毎日のなかで、それを成し遂げた。僕は、そんな笠原は素晴らしいと思う。SG制覇に匹敵するような力を得たということもできるはずだ。それに、フライングしたら総理杯がF休みとわかっていたって勝負を降りない笠原は、最高級に称えられるべき勝負師である。そこでSを控えるような笠原のわけがないし、そんな笠原が僕は大好きだ。
「来年も頑張りますよ!」
 そう言い切った笠原と別れたのは、1R終了後。4R、笠原は強烈なツケマイで今節ファイナルランを勝利で飾った! 来年どころか、その数十分後に、笠原は「頑張った」のだ。来年の笠原亮、さらに強くなった笠原亮を楽しみにさせてもらおう。

2007_1219_0559_2   まるで優勝戦メンバーを脇役のように扱っているようだが、もちろんそうではない。彼らは今朝のピットで、きらきらと輝きを見せていた。朝の優出インタビュー後、真っ先にピットに飛び出したのは秋山直之。SG初優出の気負いもなく、自然体で着々と準備を進めている。試運転に出たのも、彼が最初だ。上瀧和則は、比較的ゆっくりとしているようだったが、エンジン吊りで顔を見せるときには機嫌の良さそうな表情を見せていた。2007_1219_0924 また、赤岩善生は同期の坪井康晴と、柔らかい表情で会話を交わしていて、こちらも気分上々の様子。目元に微笑が浮かんでもいたから、最高のメンタリティを作り上げているように思えた。元気マンマンなのは、やっぱり今村豊。川﨑智幸と談笑して、大声をあげているあたりは、まったくいつも通りのミスター競艇だ。一方、太田和美はほとんど姿を見かけることがなかった。僕がピットを後にしてからは、作業などに励んでいるはずだが、動き出しはメンバーのなかでいちばん遅かったのではないだろうか。余裕、ということだと思う。
2007_1219_0480  そして、気になる山崎智也だ。秋山の次くらいに動き出しの早かった智也は、柔和な表情が崩れることがなかった。江口晃生が、悪戯っ子のようにメンチを切りながら近づいていくと、智也はニコニコと笑いかけて、江口もすぐに最高の笑顔になった。だはは、仲良し上州軍団である。もちろん、腹の底には気合がたぷたぷに溜められているのは間違いなく、優勝戦直前の表情が実に楽しみになった。

 さあ、07年SGファイナル決戦が迫ってきた。優勝戦に乗る者も乗らない者も、幸あれ!(PHOTO/中尾茂幸 TEXT/黒須田守)


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