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この特集では田中工業「黒須田守」をはじめとした5名のライターから競艇にまつわるさまざまなレポートをお届けします。
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SGの空気――賞金王シリーズ、3日目前半のピット

 今節、朝のピットに足を踏み入れるのは初めてである。だから、昨日までとの比較はできないが、まず最初に感じたのは「なんだか落ち着いた空気だなあ」ということだ。装着場にほとんど選手の姿はなく、「ペラの森」に数人が見える程度。もちろん、整備室を覗けば決定戦組を含めて、数多くの選手が見えたし、整備室奥にある室内ペラ室(たった今から、ここを「ペラの大奥」と呼ぶことに決定。U記者も倣うように)にもたくさんの人影がある。決して作業をしている選手たちがいないというわけではないのだが、しかし、どういうわけか穏やかな時が流れていて、今日が決定戦トライアルの初日であることを思うと、やや奇異に感じないわけにはいかなかった。

2007_1218_0723  それでも、ポツリポツリと選手は現われ、おのおのの作業に向かっていく。シリーズ組で僕が最初に姿を見たのは、改めて今節もよろしく、気になる山崎智也だった。控室から落ち着いた足取りで現われて、そのままペラの森へ。壁際に腰掛けると、けっこう強い勢いでペラを叩き出した。顔はひとときたりとも、緩むことはない。視線も非常に鋭い。勝負師としては、非常にいいムードである。
2007_1218_0758  その横で、太田和美もかなり強い勢いで、木槌を振るっていた。カーンカーンカーン。装着場内に、智也と太田の木槌の音が、セッションのように響いた。太田は、いつものSGに比べて、何倍もオーラが強いように思えた。太田の落ち着いたたたずまいは、SGのピットに合ってはむしろ彼を目立たなくさせたりもするのだが、今回の太田は何かが違う。賞金王決定戦1V、賞金王シリーズ2Vの彼は、ここでの戦い方をよく知っているということなのか。
2007_1218_0432  ペラの森にはテーブルがあって、立ったままペラを叩く選手もいるが、こちらでは齊藤仁がやはり強く木槌を振り下ろしていた。カーンカーンカーンカーン。木槌セッションは、さらに音量を増して、装着場内をコンサートホールに変える。落ち着いた雰囲気の中、パワフルにペラが音楽を奏でていた。まさか、その音に引き寄せられたわけではないだろうが、仁のもとに須藤博倫が歩み寄る。笑顔混じりではあるが真剣な顔つきで、長い会話が始まった。そうか、二人は83期の同期である。SGのピットで一緒になるのは初めての二人だ。情報交換にせよ、雑談にせよ、会話が弾んでいるに違いない。

2007_1220_1344  1Rが始まる頃になると、だんだんと装着場の人口密度が濃くなってきた。選手の姿が増え始めたのだ。決定戦組が多くはあったが、たとえば松井繁の隣の場所にボートのあった山本隆幸が、モーターにペラを装着しながら師匠と笑顔で話し合ったり、鎌田義がペラの森にいた田中信一郎に声をかけて、信一郎の顔に笑顔を浮かべさせていたりしていた。それを眺めていたら、視界に山崎哲司が入ってきて、微笑を浮かべて会釈をしてきた。成績がそのまま表情に反映していたのか、どこか冴えない顔つきで、微笑は苦笑に見えたのだった。
2007_1219_0456  1Rが終わると、決定戦組、シリーズ組が入り乱れて、エンジン吊りにやってくる。前検では相当のアシに見えていた佐々木康幸が、しかしまるで上向いていかない機力と成績に、遠目にもハッキリとわかるほど、がっくり肩を落としている。当然、15mほど離れていた場所に聞こえてくるわけなどないが、間違いなく溜め息をついていたように見えた。僕は、こうして心の内をさらけ出すかのように、悔しさを露わにする選手は絶対に強くなると思っている。SGに出るような選手はすでに強いに決まっているが、もっともっと強くなる、ということだ。こうした選手は、いつか悔しさを胸の内で噛み下すようになったとき、強烈な色気をまとうはずである。松井繁がそうであるように、それは王者の振る舞いなのだ。

2007_1219_0984  2Rの展示航走が終わる。ふと装着場の空気が動き出したことに気づく。なんと、あれだけ静かだったピットが、急激に慌しくなっていったのだ。大急ぎでモーターをチェックし、ペラを着けてボートリフトへ小走りで駆けていく選手たち。嵐の前の静けさ、というほどではないが、1R頃はまさしくメリハリの過程だったのだろう。このキビキビとした空気は、まさしくSGのそれである。住之江でもそうだったが、トライアルが始まると、ピットの空気を支配するのは決定戦組。これは致し方のないことだ。だが、彼らだけでは決してSGの空気は作れない。この空気の中に、確実にシリーズ組の呼吸が息づいている。決定戦組に注目が集まる現実を、シリーズ組がどう考えているか、はらわたが煮えくり返っているか、そのあたりはつかめなかったけれども、しかしシリーズ組もまた立派な主役なのだと、そう思わされた朝のピットであった。(PHOTO/中尾茂幸 TEXT/黒須田守)


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