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この特集では田中工業「黒須田守」をはじめとした5名のライターから競艇にまつわるさまざまなレポートをお届けします。
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驚きの優勝戦――優勝戦のピット

2008_0127_0109  まずはその精神力に驚くしかない。スタートタイミング、コンマ03。起こしてからすべて全速。これがF2の選手の為せる業だろうか。レースについては別項に譲るが、ピットで山口剛のスリットを告げられて、本当にビックリした。
 レース前の彼を見ていると、たしかにそんな片鱗はあったように思う。宮島周年の優勝戦1号艇よりは「プレッシャーがない」という、経験の賜物という部分もあったにせよ、その経験があること自体、ここでは格上だったし、さらにピットではたしかにまったくカタくなっているところを感じなかったのだから、空恐ろしい。まず、何よりも称えるべきはそのことであって、彼が大物であることを証明することであるとも思う。
 いや、山口だけではない。優勝戦に乗った他の5名も、GⅠの優勝戦を控えた者とは思えない、平常心を保っていたと思う。もちろん、緊張感がなかったはずがない。他のレースとは違う、特別な闘志も抱えていたであろう。しかし、彼らが自己を見失うようなカタさを生むものにはなりえない。それは、本当にすごいことだと思うのだ。
 10R前だったか、山口がペラを叩いている姿を見かけた。わずか数10cmしか離れていない真正面に、大峯豊がいた。おそらくはインとカドでしのぎを削るであろう(実際にそうなった)二人が、至近距離でペラを叩いている。そこに、妙な緊迫感はなかった。山口が笑いかけると、大峯は笑顔で応え、大峯が笑うと、山口が笑う。そこが競艇場の、しかもGⅠ優勝戦直前のペラ室だとは、とても思えない。同じペラグループの仲間が、オフに集まってペラを叩いている光景といわれても、絶対に疑うことなどなかっただろう。
Img_3394  同じペラ室には今井貴士がいて、先輩二人より先に調整を終え、装着のため試運転係留所に向かった。その行く手には、ちょうど山田カメラマンが待ち構えていて、当然レンズを今井に向けていた。それに気づいた今井は、口元に微笑を浮かべた。そして、「ありがとうございます」と言った。山田カメラマンの近くにいた僕は、驚くしかなかった。最年少であり、初GⅠであり、その舞台で優出を果たした若者の所作とは思えなかったのだ。今井は、僕にも笑顔で会釈をしていったのだが、優勝戦直前に、ごく普通に心の中にそれをするスペースをつくることができているのだから、山口に勝るとも劣らない大物である。
2008_0127_0158  11Rの展示が終わって、優勝戦組が展示ピットにボートを移動する直前、吉永則雄と毒島誠が、試運転ピットで談笑している姿も見かけた。これもまた、驚かされるシーンだった。会話などほとんど交わすことができなかったとしても不思議ではないのに、彼らはまるで控室でそうしているかのように笑い合っているのだ。いや、あるいはお互いが牽制し合っていたという可能性も否定はできないが、それにしてもひきつったそれではなく、日常的に見せるような笑顔を作ることができるのは、やっぱり大物である。
Img_3369  そんななか、もしかしたらもっとも緊張を隠していなかったのは、江夏満かもしれない。10Rが終わって、11Rの展示が行なわれている頃、ピットでは10R出走者たちがモーター返納をしていて、皆が協力し合いながら作業をしている輪に優勝戦のメンバーも加わっていたのだが、真っ先にそこから離脱して、一人、試運転ピットに向かったのが江夏だったのだ。視線は下を向き、だからおそらく周囲の風景は目に入っていない。言っておくが、だから江夏が大物でないとか、一人だけ平常心を欠いていたということではない。江夏が福岡勢らと笑顔を交わしているのは何度も見たし、表情がガチガチに固まっていたということもなかったからだ。ただ、この空気の中では、そのシーンだけが妙に特殊に映った、ということ。昨日の会見で「足が震えてます」と言っていたのが甦ってくる、そんなシーンだったのである。

 優勝戦が終わって、選手たちがピットに戻ってきても、ちょっとした驚きはあった。たとえば、吉永則雄と江夏満、新鋭卒業組だ。これが最後の新鋭戦、優勝を後輩にさらわれたことで、もっともっと表情をこわばらせているかと思いきや、ヘルメットの奥の目は笑っていたのである。もしかしたら、ヘルメットの下で、口元は歪んでいたかもしれない。それは確認できていない。だが、そういった雰囲気を微塵も出していないのだから、想像と違うものを見たという驚きがあった、というわけだ。
Img_3573  吉永にしてみれば、逆転で2着に浮上し、最後まで山口を追いかけたことで、「やることはやった」という思いもあったかもしれない。それならば、それは賞賛されるべきことだと思う。モーター返納作業の間、ほんの少し、やるせない表情を見せてはいたが、それ以外はかなりサバサバとした感じだったのだから、まあ、これは驚くというよりは、少し不思議な思いになった。
2008_0127_0204  江夏も、吉永と同様の雰囲気に思えた。目がキュッと細くなる笑顔を見せていて、これはまさしく普段の江夏だ。それが敗戦のレース後に見られるとは、正直、思っていなかった。レース前のことを考えれば、なおさらだ。「優勝戦の中では、機力が弱い」という自覚の中、朝からパワーアップのための作業を続け、レースでも全力で走った。吉永とは少し意味が違うが、彼も「やることはやった」という実感を抱くことができているのではないか。だとするなら、レース後の笑顔も理解できるような気がする。
 ……などと考えつつ彼らの様子を見ながら、別のことも思った。もしかしたら、彼らの視線はすでに先を見ているのではないか、ということだ。一生に一度しか獲れないタイトルだから、新鋭王座の勲章はほしいに決まっている。しかし、ここがゴールになることは決してありえない。この舞台を走った者にとっては、SGへの一里塚にしなければならないし、特に優出を果たした者はここで満足などしていられないはずだ。結果的に王座を手にできなかったことに忸怩たるものはあるにせよ、ここはひとつのスタートに過ぎない。無意識にでもそんな思いがあるのならば、下を向くことなど彼らにあろうはずがないだろう。明日から、彼らのひとつ上のステージでの戦いが始まるのだ。

Img_3561   レース後、山口以外でもっとも周囲が賑わっていたのは、間違いなく今井貴士だった。1周1マーク、モニター映像では今井の差しが山口に届いたように見えたのだから、彼を応援していた仲間たちも少しビックリしたのではないか。実際はバックでは山口に先んじられていたし、結果的に3着に下がってしまうのだが、優勝戦最年少戦士の健闘は少しの驚きと、おおいなる感動を皆に与えたと思う。
「はぁ……、一瞬、今井くんがイワしたと思った~」
 ボートリフトに駆けつけた岡崎恭裕が、稲田浩二と顔を合わせて、そんな溜め息をついた。稲田が軽くうなずく。二人は、今井と同期の94期生。6号艇ということもあって厳しい戦いだとは予想していただろうが、あの1マークで彼らは夢を見ることができたのだろう。惨敗ならともかく、健闘したからこそ、悔しさが沸き上がってくる。
「お前が総理杯に行くのかと思ったぞ~」
 モーター返納作業をしていた今井を、川上剛が大きな声でからかう。今井は、でへへ、といった感じで笑うと、どもども、といった感じで頭を二度三度下げた。それを見て、川上は満足そうに笑っていた。後輩への、心からの祝福である。
 その後も、今井のもとには何人も何人もが歩み寄って、肩を叩いたり、話しかけたりしていた。彼の健闘を放っておくことなど、誰もができなかったのだろう。そのたび、今井は照れ臭そうに、あるいは苦笑混じりに、頭をかいている。もしかしたら、そんな状況がこの舞台に出現したことを、今井自身が驚いていたのかもしれない。

Img_3558  ただ一人、ハッキリと顔をしかめてみせていたのは、毒島誠だ。試運転ピットから展示ピットにボートを移動させに行くとき、その途上に僕の姿を見つけると、「お疲れ様です」とニッコリ笑って声をかけてくれた毒島。彼はこうしていつもハキハキと挨拶をしてくれる好青年であり、そんな姿を優勝戦前にも見せてくれたのだから、本当に素敵な男だ。その毒島が、悔しさを露わにしたのだから、驚きであると同時に、なんだか嬉しくもなったのだった。勝負師らしい部分を、この好漢はたしかにもっている。こんなにもいいヤツだからこそ、彼にはもっともっとビッグになってもらって、次はSGの舞台で会いたいと思った。
「ありがとうございました!」
 モーター返納を終えた毒島は、整備室内に響き渡る声で挨拶をして、深々とお辞儀をした。検査員さんなどの関係者、まだ返納作業をしている選手たちが、「お疲れ様~」と声をかける。頭を挙げた毒島は、整備室の外に僕たち報道陣の姿を見つけると、こちらに向かってもう一度、頭を下げた。毒島誠は、やっぱり素敵な男だ。

Img_3564  驚いたわけではないが、予想外に落胆していなかったのが、大峯豊だ。昨日の会見、今日の優勝戦インタビュー、さらに午前中のピット、そこで見た彼は間違いなく、誰よりも気合が入っていた。彼には、気合が入る理由があった。悔しさばかりがつのった昨年。新鋭王座の優勝戦には、忘れ物があった。それを拾いに来た彼は、昨年とまったく同じ、青いカポックでその場所に辿り着いたのだ。奮闘むなしく敗れて、彼がピットに戻ってくるほんの短い時間に、僕は彼がガックリ肩を落としているのではないか、そんな想像をしたのだった。
 ピットにあがった大峯は、むしろ笑顔と言ってよかった。モーター返納の最中にも、落ち込んだ様子はなく、やっぱり笑顔が時折見られていた。去年とは違って、ほとんど見せ場を作れない敗戦ではあったけれども、それはやっぱりツラいことではないのか。しかし、あまりそんな様子には見えなかったのである。
 しかし、本当は悔しくないわけがない。当たり前だ。返納を終えて、私物を探しに整備室を出た彼は、ボソリと言った。
「来年は、1号艇で出ます」
 彼は昨日、「4号艇が欲しい」と言った。準優2着だから出た言葉ではあるが、まるでそれこそがいちばん大事なことだと言わんばかりでもあったのは確かなことだ。だが、本当に大事なのはもちろん、「状況はどうであれ、勝つこと」なのだ。大峯は、山口の圧倒的な勝利と、自らの敗戦によって、そう気づいたのではないか。「リベンジ」の気持ちはもちろんあってもいい。だが、そんなことを考える前に、まず勝利を意識すべきだったし、それがリベンジにもつながる。そんな思いに、彼は到達したのだと思う。彼の一言を裏読みしすぎと言われるかもしれないが、僕は真剣にそう考える。

Img_3532  最後に、優勝者への驚きだ。彼への心からの驚きは、冒頭に書いたことに集約される。やっぱり、山口剛はタダモノではない! そう確信し、改めて唸らせられ、そして驚いた。それ以上の感覚はないと言っていい。感動した!
 そんな山口に、ちょっと笑ってしまう驚きがあった。ウィニングランを終えて、ピットに戻ってきた彼を、91期の同期生が大歓喜のなかで出迎えた。みんなでバンザイ。山口もガッツポーズ。さあ、早くここに戻って来い、抱き合おうぜ! そう同期たちは思ったかもしれない。みんな、やったぜ、今行くぞ! 山口もそう思ったかもしれない。ところが……山口のボートが「ブルルン」というプロペラの空転音とともに、ストップしてしまった。山口は嬉しさのあまり航跡を見誤り、なんと、ネトロンに引っかかってしまったのだ。「ダハハハハハ! 何やってんだぁ!」
「オチがついたな!」
2008_0127_r12_0769  川上剛が中心となって、猛烈なツッコミが新鋭チャンプに注がれるのだった。山口は、そんな仲間の手荒い祝福に、笑顔をもっともっと深くして、ド派手なガッツポーズを見せたのだった。仲間たちの歓声は、その瞬間にマックスとなった。精神力もすごいが、こんな爆笑を引き出させるのもすごいぞ! 
 山口と91期“たけし軍団”の笑いは、やがて純粋に祝福の笑いとなって、いつまでもやむことがなかった。山口が表彰式に向かったあとも、川上たちはずっとずっと笑っていたのだから、本当に嬉しかったのだろう。
 山口剛、おめでとう! 最高の驚きをありがとう!(PHOTO/山田愼二 TEXT/黒須田守)


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受信: 2008/01/27 23:46:24
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