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この特集では田中工業「黒須田守」をはじめとした5名のライターから競艇にまつわるさまざまなレポートをお届けします。
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名人戦 優勝戦回顧

50歳のGI初制覇

12R優勝戦
①田中伸二(50歳・広島)
②村上信二(52歳・岡山)
③尾崎鉄也(52歳・長崎)
④荘林幸輝(52歳・熊本)
⑤瀬尾達也(48歳・徳島)
⑥若女井正(48歳・神奈川)

Img_3316  1マークまでのレースを演出するのは、瀬尾か若女井だと考えていた。鳴門の韋駄天・瀬尾には艇界随一のスタート勘がある。コンマ10はお茶の子さいさい、狙ってコンマ03あたりまで踏み込める男だ。そして、若女井にはチルト2度という武器があった。スリット同体なら瀬尾を一瞬にして呑み込み、そのまま1マークを制する可能性もある。
 進入は穏やかな枠なり3対3。12秒針が回って、まずは若女井に黄信号が点った。瀬尾より1艇身も遅れてしまっては、どんなに伸びても届きようがない。やはり瀬尾のスタートは完璧だったのだ。コンマ05。これで内の4艇も慎重なスタートなら、有無を言わさずまくりきったことだろう。
 が、このレースでは瀬尾のS勘をも超える男がいたのだ。2コースの村上信二。コンマ04。センター勢にも凹みはない。4カドの荘林に07まで踏み込まれては、瀬尾の必殺技も不発となった。外の艇がもたついている間に、レースの主導権を握ったのはトップSの村上である。インの田中がコンマ11だから、その差はちょうど半艇身。自在に仕掛けられる展開だ。
Img_3343  村上はとりあえず、内の田中を絞りはじめた。内側に寄せながら、コツンと艇を当てる。村上にとってコツンと当てたときが、田中を叩ける最後のチャンスだった。
「まくるか差すか、迷ったのがすべて。迷ってから差しに回ったら、もう展開はなかった」(レース後の村上の談)
 なぜ迷ったのかはわからない。おそらく田中の伸び返しが凄まじく、「まくれば逆に弾き飛ばされるかも」という不安がよぎったのだろう。が、下世話な私はどうしても別の理由をこじつけたくなるのである。
――まくるべき相手は同期で、しかも地元ファンの期待を一身に背負っている田中……。デビューから30余年の田中は、まだGIタイトルとは無縁だ。この地元水面・1号艇のチャンスを逃せば、二度とGI制覇のチャンスはないかもしれない。
 そんな思いが村上の脳裏をよぎったのではないか。とにかく、タイプとしては獰猛なまくり屋の村上が半艇身ほど覗き、内を絞り、それから躊躇して差しに回る光景など、私ははじめて目撃した。
 トップSの2コースが遅れて差しに入るということは「最高の壁」を意味する。事実、3コースの尾崎は途方に暮れてしまう。
「(村上)信ちゃんが(まくりに)行ったと思ったけどやめたんで……」(レース後の尾崎の談)
 高い壁の前に、金縛りになってしまったのだ。4カドの荘林は瀬尾を少しだけ牽制してから二番差しに回った。荘林も田中の同期だ。
Img_3331  田中は逃げた。外の5艇が持ち味を殺し合っている間に。この展開で逃げなければ、いつ逃げられる。バックを回って3艇身。2マークで5艇身。第9代の名人が2周ホームを全速で突き抜けた。
「まあ、自分は名人になるような器じゃないと思っとったから、ずっと緊張とかはしなかったけど……とにかくエンジンのおかげです」
 レース後、田中は淡々と訥々とシリーズを振り返った。派手さとは無縁の、堅実な性格。ある意味、記者泣かせではある。が、<デビュー戦~一般戦の初優勝~GI初V>と選手としての重要な区切りを同じ水面で果たしている男は、記者からの「宮島はどんな場所?」という質問に言葉を詰まらせた。
「人生…………宮島」
 言ったのはこの2語だけだ。が、それだけで思いは十二分に伝わる。地元水面の強みを、改めて感じさせる優勝でもあった。
 田中本人は、優勝して数時間がたった今も「名人の器」とは思っていないだろう。水面に恵まれ、声援に恵まれ、同期の励ましに恵まれ、展開に恵まれ、パワーに恵まれてのGI初V。「神技」には程遠い優勝だと思っているかもしれない。しかし、それでいいのだ。そのひとつひとつの恵まれた要素が、すべて競艇に不可欠な要素なのだから。50歳の田中は自力でGIの初タイトル=第9代名人の座を掴み取ったのである。(Photo/山田慎二、Text/畠山)


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