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この特集では田中工業「黒須田守」をはじめとした5名のライターから競艇にまつわるさまざまなレポートをお届けします。
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話す!2――THEピット

2008_0418_0679 「俺、準優乗れるの?」
 自分に向けてフラッシュがバシバシ焚かれている。たしか4等では危ないのではなかったか……原由樹夫は取り囲んだ報道陣に逆質問を浴びせた。その段階で確固とした答えを出せる者はおらず、撮影していたカメラマンも「わかりません」。
「だろ~? じゃあ撮ってもしょうがないんじゃないの?」
 そう言って、原は笑った。本当は悔しさにまみれていたはずだ、と思う。11Rを3等なら文句なしの予選突破だったが、4等では6・00、その時点ではボーダーが上がっており、心もとない数字だったのだ。実際、計算してみたら、ああ、19位……。だというのに原は、苦笑でもなく、むしろ悪戯っぽい感じで笑ったのだから、これぞ年輪のなせる業だと思った。
 19位だから、もちろん相手待ち。12Rの結果次第ということになるわけだが、原が18位に繰り上がるのは唯一、川名稔が4着以下となった場合のみ。3着なら川名が18位となる。他の5名は準優当確で12Rを迎えていた。それを報道陣から告げられた原は、ちょっとだけ顔をほころばす。
「ホンマ? ほぉ。で、川名は何号艇?」
「1号艇です」
 原はガクッと右肩を落としながら、アハハハハ、と笑った。1号艇なら3着は外さんやろ、こりゃ無理や、てな感じの笑いだった。やっぱり、年輪のなせる業。「経験は人生の宝よ!(12Rのタイトルです)」ですね。ズバリ言って、カッコ良かった。

2008_0418_0258  後半のピットでは、一人、お目当ての選手がいた。その選手を発見! 小走りで駆け寄った。すると、競艇場のピットには似つかわしくないデヴが、自分のほうに突進してくるのを見て、その人、桑原淳一は目を丸くして、進路を開けようとした。だはは、驚かせてしまってすみません。どうやら自分に用事があるようだと気づいた桑原は、「俺?」といった感じで、さらに目を丸くする。そうです、桑原さんに話を聞きたかったんです。テーマはもちろん、「珍事! 1-2が1・0倍に!」だ。
2008_0418_0367  そのことに、桑原は気づいていたようで、やはり驚いたそうだ。「1-2と2-1が同じくらい売れるのが妥当な番組だもんね」。それはご自身を少し過小評価しているような気もするけど、しかしまあ2号艇が今節の大本命である瀬尾達也なのだから、そんなふうに思っても仕方がないところだ。で、気になったのは「ああいうのって、プレッシャーにならないの?」で、それを問いかけると「それはないですよ」。ここまで極端な過剰投票はそうそうはないけど、人気が自分に集中することは何度も体験したことがあるはずで、「自分から売れている=プレッシャーがかかる」なんて段階はとうの昔に通過しているのだろう。
「でも……俺が舟券買う立場だったら、こんな一番人気なんか買わないけどね(笑)。1から買うんだったら、他の枠を買ったほうが配当もいいだろうし、あるいは2-1とかね。……あ、それだと外れか(笑)」
  そうなんです、桑原がきっちりと逃げてみせたことで、1-2は的中舟券になったのです! 舟券を買ったことのない選手の舟券感って、そんなものかもしれませんな。

2008_0416_0211  まもなく12R。観戦定位置である堤防のあたりに陣取って、さわやかな春の風に吹かれる。
「今だったら、2ギガとかでしょ?」
 ピットで耳にするとはとても思わなかった単語が、係留所に続く橋のあたりから聞こえてきた。でも、この声は今日の午前中に聞いたような……振り向くと、松野京吾だ。宮島のカリスマ整備士・上阪勝利さんたちと世間話をしていたわけだが、1ギガとか2ギガって単語を、選手から聞くとは。
「昔は1万円くらいしてたけど、今なら7000円もあれば十分だよ」
 デジカメ用のコンパクトフラッシュとかの話ですかね。ちなみに、さっき松野のプロフィールにあたってみたら、パソコンはマックを使っているようです。
 ともかく、松野が意外に饒舌だということに、いまさらながら気づいたのだった。

2008_0418_07102008_0418_0773 さあ、いよいよ12Rが始まる。関忠志はインが取れるのか……などと水面を見ていたら、女性の声が聞こえてきた。名人戦のピットで女性の声といえば、この人しかいない。鵜飼菜穂子に決まっている。
「私だって、8Rは大変だったのよ……」
 振り向くと、鵜飼は山田省二と水面を眺めながら話していた様子。山田が堤防で観戦することが多いのは午前の記事で書いたが、実は鵜飼も堤防観戦組の一人で、昨日だったかも山田と話をしているのを目撃している。「省ちゃん、なんでペラ隠してるのよ~」「え~、だってさ~……」みたいな会話でした。二人はともに名人戦デビューで、愛知支部。期でいえば、山田ははるかに後輩にあたるが、年齢も同じだから気安い関係にあるのだろう。 その後は、レースが始まったので、それ以上何を話したのかはわからないが、しかし鵜飼にとっても、山田にとっても、初の名人戦のピットにあって、お互いが心強い存在であるのは、間違いないだろう。山田が童顔なこともあって、姉貴と弟、って感じがしないでもないんだけど……。

2008_0416_0383  12R、川名稔はまさかの4着となった。おそらく、川名は「3着以上がノルマ」ということを知ったうえで、レースに臨んだはずである。しかし……。ピットに戻ってきた川名には、さすがに表情が固まっていた。顔は笑っているけど、目が笑っていない、というやつだ。カポック脱ぎ場でも、黙々と装備を解いていく川名。レース絡みの装備をすべて脱ぎ去り、控室に戻ろうとする川名に、報道陣が歩み寄る。
「Sで揉みましたね」
 その後、アシは悪くなかったですよ、程度のことを手短に語った川名は、そのまま控室へと消えていった。長々とレースを振り返るだけの気持ちの余裕など、なかったのに違いない。決して暗い表情ではないものの、しかしその奥で噛み締める悔恨。“揉んだ”スタートが実は6番手発進であったことも含めて、その場で拭い去れない悔しさにまみれていたのだと思う。川名自身は言葉少なであっても、醸し出した雰囲気は饒舌になっていた、ということだ。

 ピットを去る際に装着場のほうを見渡す。遠くで、JLCの展望インタビューを受けている原由樹夫を発見。原は、12Rのエンジン吊りに出てきた際には、むしろ固い表情をしていたものだった。川名の気持ちを慮れば、その場で笑うことなどできなかったのだろう。しかし……インタビューでは笑顔! その表情が、悔しさを噛み締めていたはずの11R後と少しも変わらなかったのだから、素晴らしい! 俄然、応援したくなってきたな。(PHOTO/中尾茂幸 TEXT/黒須田守)


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