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ボートレース特集 > シブいっ!――THEピット
この特集では田中工業「黒須田守」をはじめとした5名のライターから競艇にまつわるさまざまなレポートをお届けします。
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シブいっ!――THEピット

2008_0414_0601  選手食堂から、苦みばしった表情で出てきたダンディな男。ヒゲが印象的な男、富田章。う~ん、シブい! 目元を緩めてこちらを一瞥すると、そのまま喫煙所へ。よく見ると、手にはコーヒーがあった。喫煙所のベンチに座り、タバコに火をつける。そして、コーヒーを一口。う~~~~ん、シブすぎっ! その場所は一瞬にして、ヨーロッパあたりにある年季の入ったシックなカフェに変わった。ここは本当に宮島競艇場のピットか!? さすがの名人世代、たかがコーヒー飲んで一服するだけの仕草が、本当に絵になっている。僕もヘビーな喫煙者なので、今節、誰もいない時間帯を見計らってタバコをすわせてもらおうかと目論んでいたが、無理だな。僕のような若造が、富田がうまそうに煙をくゆらす場所に足を踏み入れるわけにはいかん。顔じゃない、ってやつだ。

2008_0414_0198  よく見ると、富田の座った向かいのベンチには、関忠志がゴロリと横になっていた。物思いにふけっているのか、単純に昼寝をしているのか、わかりづらい表情だったが、ただひとつ言えることは、初日の朝だというのに、関さん余裕っす! そのあと、関のボートを探して確認してみると、モーターにはペラが装着されていて、ようするに関はもはや何もすることがないようなのだった。3R終了後には、手持ち無沙汰そうにぶらぶらとしつつ食堂に入っていき、わずか数十秒後に同じような手持ち無沙汰ぶりで食堂から出てきた関を見かけている。おそらく気力に手応えを得ているということもあるのだろうが、それにしてもこの余裕の振る舞い、これもシブいっすよね。

2008_0414_0797 「7だから! ごめん!」
 レース後、記者さんが質問しようとするところを、そう言って駆け出したのは久間繁だ。3Rは6着で、不本意な緒戦。ピットに戻ってきてからは実にキビキビと動いていた久間は、気になる部分を発見できたのか、すぐにでも調整に向かう腹積もりだったようだ。とはいえ、記者さんにとっては、コメントを取るのが仕事だから、そんな様子を見て取っても声をかけないわけにはいかない。Tシャツにもにじむほど汗びっしょりだった久間は、額に流れる汗をぬぐおうともせずに装着場へ。そして、声をかけてきた記者さんに対して、優しく、申し訳なさそうに、「ごめん!」と言ってダッシュしたのだった。言外に、「後で必ず話すから!」という声が聞こえてくるような雰囲気で。う~む、大人の男! 取材を後回しにしてもらうのも、さりげない態度でできるあたり、さすがのベテランだと思った。素敵だ。

2008_0414_0167 「サラリーマンスタートだよぉ~」
 ヘルメットをかぶったまま、ニッコニコで話しかけてきたのは、竹内知樹である。カポック脱ぎ場の近く、というより喫煙所のすぐ近くにはスリット写真と成績表が貼り出される掲示板のような場所があり、2R後、カポックを脱ぐために戻ってきた竹内はまずスリット写真を覗き込んだ。ただし、そこに貼ってあったのはスタート展示のもので、本番のSTはまだ届いていなかった。それでも、竹内にとっては納得のいかないスリットだったのだろう。「もっと速いの行かなきゃ~」と言いながら、「サラリーマンスタート」と連発したのだった。世のサラリーマンの皆様、決してあなた方を貶めているわけではない。ただ、勝負師の生き方は、サラリーマンの方々とは正反対の部分があるのも間違いなく、竹内にしてみれば、勝負師に徹することのできなかった自分が腹立たしかったのである。そうでなければ、ほぼ初対面のこちらにわざわざ話しかけてくることなどするはずがないのだ。感情が強い動きを見せたとき、人間はそれを吐き出したくなるものだから。
 そんな悔しさを、なぜかニッコニコの笑顔で隠していた竹内は、う~ん、カッコいいっす! でも、あんまりニコニコニコと笑っていたので、こちらも思わず一緒になって笑っちゃったんですけどね。なんだか穏やか~な空気だったものですから。

2008_0414_0217  やっぱり、名人戦のピットは本当に楽しい。というか、そこにいると、なんだか嬉しくなってくる。人生の先輩たちがくぐってきた幾多の修羅場。それは時に壮絶なものだったりしたはずである。しかし、今、この場所では、そうした経験をしてきたからこそ、発散される優しさがある。そうした経験だけが生み出されるシブさがある。ほんと、痺れっぱなしなのですよ。これから予選が進むにつれ、またピリピリとした空気が混ざってきて、息詰まるような場面もあるのかもしれない。それでも、この偉人たちが生み出すものが快感に思えないはずがない。やっぱり、いいなあ。名人戦。
 などとほわほわしていたら、気になる大西英一がやや厳しい表情で僕の前を通り過ぎて、試運転ピットのほうへと歩いていった。4Rに登場ということで、その準備に忙しかったのだろう。開会式ではお茶目な顔を見せていた大西が、勝負師の表情を崩していなかった。これもまた名人戦。激しさとお茶目、このメリハリを今節も見せてくれるんだろう、大西さんは。(PHOTO/中尾茂幸 TEXT/黒須田守)


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